
福祉リフォーム 野津和夫 | 寄り添いと希望の住宅を生み出して、福祉の世界を変えてゆく!【職業図鑑No.016】
人は生き続けている限り、つねに病気や怪我のリスクを負っています。
ある日突然、思うように動けなくなってしまったら?
今までと同じ生活ができなくなってしまったら?
そういう状況になったとしても、人は日々を送り、生活を続けていかなくてはなりません。
そして生活を送る上で、重要な基盤になるのが住宅です。
今回ご紹介するのは、福祉リフォームのお仕事をされている野津 和夫さん!
「お客さんにとって住み心地の良い高福祉の建物を提供したい!」「現代の福祉の在り方を、良い方向に変えていきたい!」という熱い思いを持った方です。
車いすで生活されており、さまざまなことを身をもって体験したことから、現在のお仕事をスタートした野津さん。どんなお話が聞けるのでしょうか?

【野津さん自己紹介動画】
突然の病と福祉リフォームとの出会い
ーー早速なんですが、福祉リフォームというお仕事について教えていただけますか?
元々は住宅内装のリフォームをやってたんだよ。案件によっては福祉の観点ですることもあったけれど、メインというわけではなかったね。
でも自分が車いすになってからは、現在の福祉リフォームという仕事に切り替えた。福祉の手を必要としている人にとって、住むのに優しい居宅を提供する仕事だね。
ーーということは、現在のお仕事になったきっかけは、ご自身のご病気で…?
そう。脳幹出血になって倒れて、治療後も車いす生活という形で後遺症が残っちゃって。それを機に、現在の事業を立ち上げたの。

といっても、すぐに切り替えられたわけではなかったんだけどね…。最初は現実が受け入れがたくて…ショックで2、3年ほど仕事をする気になれなかったな。引きこもりになったよ。
同時に、社会が福祉に対してあまりにも無関心だということにも気づいた!それもまた、落ち込んだ大きな原因だった。
ーー大変な思いをされたんですね。そこから、どのようにお仕事をされる活力が生まれたんですか?
夢の中にね、(建築業の)師匠が出てきたの。そして言われたの、「自分で動かなきゃ何も変わらない」って。
これは師匠の元で勤めていたときからの、師匠の口癖で…。それを夢で、もう一度言われたわけ。それから、立ち直るエネルギーを取り戻せた。

福祉メインのリフォーム業に切り替えたのも、そこからだった。僕が大変な思いをしているのだから、同じ状況にある人達もまた、同様に大変だろうと考えたの!
ーー夢の中でも大切なことを教えてくれるお師匠さま…素敵ですね。お勤めされていた経験もおありなんですね?
そう。師匠の元で勤めていた際には、現場監督の仕事もこなしたから、施工管理技士の資格も持ってるよ。
建築業界で資格というと建築士資格も有名だけど、一級が無いと絶対だめ、ってわけでもないからね(笑)住宅や内装リフォームなんかは、二級建築士の方でも十分な効力があるから。
ーーちなみに、勤められる前などは何をしてらしたんですか?
元々、高校を卒業してからやりたいことが見つからなくて、少しの間フリーターをしてた。親は工務店を経営していて、建築は身近にあったんだけど、最初はあまり興味がなかったな。

ところがある日、家の机に仕事の図面が置いてあったのを見た。それを見て「かっこいい!」と思ったんだよね。
ーー興味がわいたわけですね!図面って、かっこいいですよね。
そして、父にこういう図面を描くにはどうすれば良いか?って聞いたの。そしたら、「まずは現場を知らないと話にならない」と言われて。そこから、興味があるのならうちで働け、と言われて父の工務店で働くことにした。
ーーでは、最初はご実家が経営する工務店で勤められていたんですね。
でもね、身内が経営しているものだから。どうしても、いろいろ言いたいことが出てきちゃうんだよね(笑)

結局父が見かねて、他所で学んで来いと言われて、それを機に全然知らない会社に転職したわけ。そこで、さっき話した師匠と出会った。
ーー環境ががらりと変わったわけですか。
そう。師匠は厳しい方で、当時生意気だった僕はビシ!と怒られて、鼻っ柱をへし折られたね。社会ってこういうものなんだな、って身をもって実感した。
それから独立するまで、16年勤めあげて。義務教育期間より長いよね(笑)
ーー16年も…おっしゃるとおり相当長いですが、独立の際何か言われましたか?
「辞めるんだったら、もう頼ってくるな」って言われたなあ。僕も当時はまだまだ生意気だったから「後から頼るくらいなら、最初から辞めたりしません!」なんて返したね(笑)
でも、やっぱりいつかは独り立ちしなきゃいけないわけで。
口ではああ言ってたけど、内心では独立を喜んでくれてたと思うよ。そこまで育ててくれた…向こうからすると、(一人の職人を)育て上げられたわけだから。
醍醐味は目の前の人のための、「決めつけない」リフォーム
ーー福祉リフォームと一般的なリフォームを比較して、福祉リフォームが優れているポイントはどこですか?
なんといっても、ヒアリングを最重要視した仕事ができるところ!
扱う建物が住宅で、お客様はそこで生活する方々だから、ひとりひとりに合わせたフルオーダーメイド制作が必要なんだよね。

福祉の現場では、困りごとも人それぞれ違う。手すりの高さひとつとっても、症状が違えば適した高さは変わっちゃうから、そこを合わせていくと。
ーーそこで野津さんのようなプロの方の見解と、お客様の希望のすり合わせが必要なんですね。
たまに、こっちの勧めを聞いてくれないお客様もいるけど(笑)「これが必要では?」と提案しても、要らないですってお断りされるの。
でも、そういう場合も頑張って説得しよう!とは考えない。むしろ、あえて時間をおく。すると、後になって「ああ、やっぱり必要なんだ」とお客様が自分で気づいて、こっちにお願いしてくるの。下手に説得しようとする方が、むしろ大変だよ。
ーーなるほど。どういった方にお客様になって欲しい、などのご意見はありますか?
やっぱり、僕自身が車いすだから。言うなれば健常者じゃないから、健常者じゃわからないことが、いろいろとわかってる。
だからリフォームの際に、自分の障がいや困りごとをわかって欲しい、という人はぜひ頼ってきて欲しい。

それにそもそも、福祉業界の人は決めつけが多い!
ーー決めつけが多い、ですか?
たとえば手すりの高さでも、一律に「この高さで問題ない」と決めつけちゃってる。
実際に建てる施工業者だけの話じゃなくて、行政の人からケアマネージャーさんのような人まで、皆そうなの。
多くの人は、福祉リフォームをする際、お役所の補助金を使うよね。でもそうすると、(役所側から)いちいち口を挟まれて、思ったとおりのリフォームができない。
誰も使う側の目線に立ってないわけ。そんなのおかしいでしょ?
ーー確かに!今お話を聞いて、初めて気づきました。
僕がこのことに気づいたのは、自分自身が倒れてリフォームをしたときだね。役所への申請はケアマネージャーさんがやってくれて、僕は一連の流れを見てたんだけど、問題がたくさん見えた。
ーーと、言いますと?
リフォームの施工業者の設計力が、もう完全にまひしてるの。事務的というか。

業者はケアマネージャーさんやお役所からお仕事をもらってるんで、そっちの言う通りにしか動かないんだよね。仕事をもらってるから、頭が上がらないわけ。使う人(申請者)じゃなくて、お役所やケアマネージャーさんの指示に従って動く。だから、仕事の質が良くない。
今は、どこも大体そうなってしまってると思う。
提案しようにもできない業者さんもあるだろうけど、大多数はそもそも提案していく気がないんだと思うよ。
ーーなるほど…野津さんは、特定のケアマネージャーさんと一緒にお仕事をされたりなんかは?
してない。今お仕事で多いのは、そういったケアマネージャーさんなどを通じて来る仕事じゃなくて、自分達が困っているからという直接の依頼かな。
特に、高齢のご両親と住んでいる息子さんのお客さんが多いと感じるね。
健常な人にも喜んで欲しいから「遊び心」と「健康住宅」
ーー健常者の方も一緒に住まれているケースが多いんですね。
それと、今特に力を入れたいのが、かっこいい福祉リフォーム。
手すりひとつ取っても、いかにも福祉リフォームというようなものでなく、デザイン性が高く今風なものをね。そうすると、一緒に住んでいる若い方が喜んでくださる。

もちろん、機能性も大切。どちらか一方ではなく、機能性とデザイン性の両方を兼ね備えた福祉リフォームをやりたいね。
ーー確かに!デザイン性が高いと、住んでいる方は楽しいですよね。
今の一般的な福祉リフォームは、遊び心が足りない!逆に、そういう福祉リフォームを求められている方は、僕の所に来てくださると嬉しい(笑)
ーー今のお仕事のやりがいとは、どういう部分にあるんでしょうか?
やりがいは、お客様に喜んでもらえることだね。
言われて嬉しかった言葉は?とかもこういう場ではよく聞かれるけど、もう「ありがとう!」の一択!たった一言なんだけど、すごく重い「ありがとう」なのよ。

それを聞くと、頑張って良かった!と思う。
ーー逆に、難しかった案件などはありますか?
難しい、とはちょっと違うけど、分野外のことを聞かれると少々弱るね。
たとえば、「リフォームが終われば、自分は歩けるようになるのか?」なんて聞かれると、困っちゃう。そこはもう建築の分野じゃないので、僕は答えられない。
年配の方に、ややそういう傾向があるかな?
ーーそうなんですね。福祉リフォームですから、やはり年配の方が多いでしょうし。
でも、健常者の方に対しても仕事はしているよ。今おすすめなのが、ずばり「健康住宅」。
ーー健康住宅ですか?
たとえば、バリアフリーの一環で車いすの人用にスロープを付けたりするけど、普通に歩ける人には階段を使ってもらえるように。

そういう風にして、健康な方にはあえて多少の負荷がかかるような設計にする。そうすることで筋力アップをはかって、健康になってもらえるようなリフォームということ。
ーーそれは興味深いです!事例などはありますか?
高齢の親御さんと一緒に暮らしているお子さんからの依頼を受けた際は、ご両親の寝室をあえて3階にしたこともあるよ。すると、毎日上から下まで階段を上がったり下りたりするので、筋力が鍛えられるわけ。
お子さんも最初心配なさって「大丈夫なのか?下に寝室を移そうか?」と提案していたみたい。でもご両親の方は「何ともない。普通に生活できるから上で良い」って。むしろ下に寝室を移してしまったら、(筋力が)弱くなるから嫌だって断られたって。
そのおかげか、同年代の方と集まると自分が若々しいと感じられるみたいだね。もう動けなくなってしまった人もいる中で、元気に動けていらっしゃる。これは健康住宅のおかげだと思う。
ーーすごい発想力ですね!
健康住宅も、自分が倒れてから思いついたんだけどね。
福祉リフォームと、ほとんど同時期か少しあとくらいに考えたかな。今必要な人だけでなく、これから必要になる人のための住宅もあったら良いなと。
皆と協力して「人に寄り添う福祉」の世界を
ーー福祉って皆に関わりのあることですから、もっと現場が変わっていけば良いですね。
ゆくゆくは、今の仕事をとおして福祉改革を起こしたい。どの業界の人も、手助けが必要な人に寄り添って欲しい。
だから、僕のやってることはどんどん広まって行けば良いと思う。皆が真似をして良い意味で伝染していけば、もっと早く、より良い社会になるでしょ。

東京から離れた場所である大阪を良くしたり、法律を変えたりするのは難しいことだよね?でも、その場所にいる人たちが自分達で変化を起こすのは、そこまで難しいわけじゃないから。
ーーその場所の人たちですか…
建築は、特に地域性に左右されるから。
たとえば、北海道の冬は極寒で、雪もどんどん積もる。でも、沖縄は年間を通して暖かいよね。だから、同じやり方でどこでもやれる、というわけにはいかない。
その地域にいる人が、目の前の人に寄り添って良い住宅が生まれるんだよ。
ーー野津さんの夢といいますか、最終目標はそういった福祉の世界なんでしょうか?
夢としては、やっぱり福祉の世界を良くしたいよね。手助けが必要な人に、皆が寄り添える環境を実現したい。

僕は建築事業は、あくまで最初のステップだと思ってるから。いずれは他の分野でも活動して…そうじゃないと、変化は起こらないからね。
ーーさきほども「寄り添い」という言葉が出てきましたが、寄り添いに大切なのは何だと思いますか?
バリアフリーなどの物理的な寄り添いも大切ですが、それ以上に精神面での寄り添いが大切だと思う。
こんな話があるんだけど、ある障がい者団体がブラジルで講義するために、視察に行った。でもブラジルは日本と違って、福祉の施策が遅れている。バリアフリーの場所が少なくて、道路ひとつ取ってもボコボコなわけ。
でも、段差を上がろうとするときには、何も言わず周りの人が自然に手伝ってくれるんだって。大切なのはそういう、心の部分だよね。
だからこそ、福祉ではヒアリングが大切。お客さんを大事にすることだね。
ーー確かに、とても重要ですね。野津さんのお仕事の姿勢にもそういった考えが色濃く出ていますが…野津さんにとって、お仕事とはどういうものでしょうか?
正直に、だね。
ーー正直に、ですか?
要は、出し惜しみしないこと。自分の力、スキルを全部出し切って仕事にあたること。

僕は今、倒れてしまって車いすになった。だからこそ、今の僕にとって全力でできるのは、お客さんに丁寧にヒアリングして、寄り添って仕事をすること。だからそれを、全力でやってるわけ。
ーーなるほど。本当に素晴らしいお仕事への姿勢だと思います!ぜひそれを、もっと発信していただきたいのですが…
実は今Webサイトを構想中なんだけど、どういう方向から表現していこうかな?っていう点で、少し迷い中で。僕自身も、出来上がりを心待ちにしている所なんだ。
それから発信とはちょっと違うけど、師匠が僕にとって大きい存在であるように、今度は自分が福祉の世界で誰かの師匠になりたい。誰かを導いて育てられるような人間になりたいとも思う。専門性も要求されるけど、やっぱり社会に必要な仕事だから。
ーー第一人者になられるわけですね?
第一人者、というとちょっと大袈裟だけどね(笑)でも反面、皆の協力がないとできないことでもある。僕の好きな言葉は「ワンチーム」なんだけど、ひとりだけでできることには限界があるから。周りの人と協力し合いながら、これからも頑張っていきます。
編集後記

終始にこにこと明るい笑顔で、ユーモアたっぷりに話してくれた野津さん。話しやすくホッとするような雰囲気を持つ方で、編集部もインタビューしやすく、あっという間の時間でした。
一方で話はとても重みがあり、決して明るいだけではない、お仕事にかける大切な思いを聞くことができたと思います。
目の前の人を大切にするし、住民に寄り添った住みよい環境を。
同時に遊び心も加えて、住んでいて楽しいように。
そういった住宅を作る野津さんのお仕事は、そこに住む人に「助け」と「希望」を2つ同時に与えられる。与えようとするだけでなく、実際に与えることができている。
すごい人にお話を聞けちゃったな、と感じたインタビューでした。
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