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味と匂い回復記念日

保健所から連絡が来た。
「今日で佐藤さんは発症から10日が経ちましたし、お話を聴く限り症状も治まったという事なので自宅療養は今日で終わりです。」

感染からちょうど10日の今日、
朝起きると失われていた自分の味覚と嗅覚が戻っていた。
数日前はあの独特な味のカレーでさえも
味わう事が出来なかったのにだ。

目に映るのは普段よく目にしてきたあのカレーライスだというのに、口に入れた後待っているのはそれを噛んで飲み込む作業だけ。
カレー特有の辛さが少々の口内の痛みだけにとって代わったような感覚だ。
その"異常"は嗅覚に関しても同様、
アルコール液を手に取って鼻に近づけてみると
あのアルコール特有のツンとした匂いは
感じられなかった。
そして鼻に残るのはツンとするあの痛みだけだったのだ。

味覚と嗅覚を失った生活はやはり
それなりに苦しいものがあった。
この数日間は、
飲食の際には味や匂いが感じられない分
それらを目で楽しもうと自分に言い聞かせる事に必死だったがそれも中々に耐え難いものだった。

そして発症から10日目の今日。
目が覚めて冷蔵庫に入っていた野菜ジュースを口にするとその味を感じる事が出来ていた。
純粋に嬉しかった。
物理的な制限も解除されたので僕はどうやら
明日からまたいつもの日常に戻れるらしい。
この10日間で日常生活の有り難みを知った。
今はじわじわと嬉しさがこみあげてくる。
もうこんな思いは出来れば2度としたくない。

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