誰かが読みたい物語を、代わりに書くということ。

普段からpixivにSSを上げてるんですが、pixivにはリクエスト機能っちゅうもんがありまして。
依頼主は「こんな作品が見たい!」というのを有償でリクエストして、クリエイターさんがそれを元に作品を作成・投稿するという仕組み。リクエストした人は自分の求める作品が見れて嬉しい、クリエイターさんは報酬が得られて嬉しいというウィン・ウィンの関係が構築できるわけですね。

これはウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンウィンの関係

かく言う自分も物書きの端くれ。ちょいとやってみるかと登録を進めていると……

強気の値段設定

下限3,000円!?うせやろ!?
500円くらいを想像してたのでびっくらこいた。3,000円に見合う作品書ける自信ないって。ゆず庵でしゃぶしゃぶ食ってお釣り来るじゃん。
完全に尻込みしたけど、まあ物は試しと思って登録完了……というのが数年前の話。当然ながら木っ端の物書き程度に有償の依頼など来るはずもなく、「まあそんなもんだよなー」と思っていた2024年始め。

アイエエエ!?リクエスト!?リクエストナンデ!?
もはや使い古されすぎて味のしなくなったネタを擦るほどの動揺。それもそのはず、自分なんかにリクエストを送るくらいなら、その金でしゃぶしゃぶを食うはずだという固定観念が完全にひっくり返されたのだ。古のインターネット語録の一つや二つくらい使って当然だろう。

しゃぶしゃぶに勝った、その優越感にしばし浸る。だが不意に「もしかして何かの間違いでは」という一抹の不安に胸がざわついた。期待半分、そして不安半分を抱えながら、そっとリクエストのページを開く。

怪文書(褒め言葉)

長すぎでは?
スクショ2枚で収まらないってどういうことなの?あまりの文量に圧されてひっくり返っちゃった。「もうお前が書いちゃった方が絶対に良い作品になるって」と呟いたのを覚えてる。

でも、待てよと。こんなに情熱的な文を書ける人なのに、自分で書かずにリクエストしてきたのには何か理由があるのではないか。そんな考えがふっと湧いた。

今となっては「日本語が書ける人間なら誰でも小説を書ける。だから書け」という持論を展開している自分だが、そう考えられるようになったのは、実際に自分が物書きをするようになってからだ。

それまでは、SSや小説っていうのは高尚な人間にのみ書けるもので、自分のような人間にはできるはずがないと思っていた。何度か書こうとは試みたけれど、最初から「完璧なもの」「面白いもの」を作ろうとするあまり、途中で挫折してばかりだった。
コピー用紙だろうがチラシの裏だろうが、書いてしまえばそれは立派な「作品」だというのに。

毎晩寝る前に空想するストーリー。その設定をひたすらルーズリーフにしたため、丁寧にファイリングする日々。今にして思えば「どんなに拙くても文章にしてしまえ。勿体ない」と過去の自分に文句を言いたくなるが、逆に考えればあの日々があったからこそ、今こうして物書きに情熱の一端を捧げられているのかなぁ、とも思う。

話を戻して。
もしもこのリクエストを送ってくれた人が、あの頃の自分と同じなのだとしたら。きっとこの人は、腹の中に煮えたぎっている情熱の行き場を、ネットの海で辿り着いたこんな木っ端の物書きに求めたんじゃなかろうか。
もちろんこれは自分の勝手な想像──というか妄想に過ぎないのだが、少なくとも有償でのリクエストなんて、よほどの情熱を持ってる人か余程の金持ちにしかできないことだ。

依頼主さんの期待に沿える文章が書けるかはわからない。しゃぶしゃぶと同じだけの価値を提供できるかはわからない。だけど今の自分にできる精一杯で、この人の想像した世界を文章にしてみたい。そんな感じで勝手に一人で盛り上がってた。一人で盛り上がるのは得意だからね、人生ゲームとか。

というわけで受諾したリクエスト。提出期限までは二ヶ月ほどあったので、余裕を持ちながらネタ出しを始めたのだけど……

ネタ出し毎回こんな感じ。ざっくばらんにその時思い付いたこと全部文字起こしする。

いや長いって。
人様のリクエスト内容見て「長ぇ~~~~~!」とか言ってる場合じゃないって。何文字書くつもりだよお前。

とは言ったけれど、今回は自分のイメージじゃなくて他人のイメージを落とし込んで自分の作品にしなくちゃならない。事前の意識の擦り合わせは非常に重要である。いわゆるディープラーニング。気分はすっかりFBIだ。

なんて馬鹿な話は放っておいて、とりあえず方向性は定まったので下書き開始。自分はネタ出し終わったら、全体をざーっと下書き始めちゃうタイプ。
箇条書きみたいにさらっと部分もあれば、イメージが強くあるシーンはそのまま本書きに流用できるくらい熱入れて描写することもある。色々試した末に辿り着いた、性に合った書き方ってやつです。

しかしここで問題発生。今回のリクエストはラインダンスを主題とするもの。なのに自分、ラインダンスのこと何も知らん……。
ラインダンスなんて、実家帰った時に親が見てた「男はつらいよ」でヒロインが躍っていたのをちょこっと見たことがある程度。それ以外にもダンスなんて、大学一年生で必修科目の授業を受けたくらいしか関りがない。33年の人生の内の半年間、しかも計十数回の授業なんてさっぱり覚えていない。大学時代のことなんて思い出したくもないしな。

まあそんなわけで、とにかく依頼主さんがリンクを貼ってくれた動画を何回も見てみることにした。その他にもダンスの動画を検索し、映像だけじゃなくて、ダンスの歴史や在り方について調べてみたりもした。

だけど調べ物で得た知識程度では、なかなかイメージが湧かないのが現実。文章とは自らの経験が滲み出るものであって、後付けの知識では受け売りの言葉になってしまう。どれだけ動画を見たところで、結局最後の最後まで依頼主さんが求めるようなダンスシーンってのは書けなかったように思う。
これについては本当に実力不足を痛感した。申し訳ないなと反省するばかり。

「きっと読みたいのはこういうんじゃないんだろうな……」などと口惜しさを感じつつ、とりあえず下書きは終了。さて、ここまでの文字数は……

だから長いって。読む側の気持ちを考えろ。
でもまあ書いちまったもんは仕方ないし、仕事が忙しい時期に突入したこともあって、構成を練り直す時間もない。本書きしながら必要なさそうな描写は端折っていこうということで、完成品はもっと簡潔に読みやすい文章を……

知ってた。
もう何も言わない。お前はもうそのままでいろ。思えば去年、500字から参加できる企画に5万字の作品引っ提げて参加した時点でお前はおかしいんだ。手の付けようがない。

いやでもさぁ、これでも5,000字ほどごっそり削った部分もあったんだよ?それ以上に書き足したい部分があったってだけでさ。プラマイゼロ、むしろプラ。悲しいね。

そんな紆余曲折もありつつ、期限まで一週間を切って完成したSS(ショートかどうかはこの際無視する)。本当に面白いんかこれ?という不安を酒の力で追っ払い、その勢いのままに投稿ボタンを押した。普段SS上げる時とは比べ物にならないくらい緊張した。初めてpixivにSSを投稿した時くらい緊張してたと思う。

いつもだとSSを上げた後は「反応どうかな~?」と意味もなくマイページを表示するのだけど、この時ばかりは怖くて開けなかった。期待外れだったらどうしよう、がっかりさせてないかなと、中学生みたいな情緒で丸一日ほど過ごした。
しかしいつまでも目を逸らしてはいられない。意を決してページを開くと、依頼主さんからこんなコメントが。

あったけぇ

「感謝」という言葉を見た時には思わずこみ上げてくるものがあった。
自分よりも上手に書ける人はもっと他にいただろうし、依頼主さんの読みたいものの全てを表現できたとは思っていない。だけど依頼主さんが何を思ってか、自分にリクエストをしてくれて、そしてそれを読んでくれたというのが何よりも嬉しい。

「誰かの書きたいものを書く」という機会は存外与えられないもの。それが有償なら尚更だ。貴重な経験をさせていただいた上、こんなに温かいお言葉を戴けるなんて、感謝したいのはこちらの方。物書き冥利に尽きる。本当にありがとうございました。

そんなわけで、以上があとがき代わりの盛大な自分語り。くぅ~疲れましたw。って、どうしてここに俺くんが!?
おわり

P.S.想定読破時間見たら一時間超えてて笑っちゃった。マジでこんなの読んでくれたの?大感謝しかない。
おしり

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