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July.6 怪力美人男

「おぉ、久しぶりじゃねぇか」
 シノギ帰りに煌河と屋敷に立ち寄り、部屋で他の構成員と話していたら黒滝さんが話しかけてきた。煌河含め立ち上がって挨拶しようとする人たちを「あー座ったままでいい」と制し、イヴァンの隣に座る。
「お久しぶりですね。僕に何かご用ですか?」
「いや、特に用はねぇけど珍しい顔がいたもんだからな」
「そうですね。僕は招集がない限り、顔を出しませんからね。あれと違って、ね」
 先ほどまでは離れたところに座っていたはずだが、いつの間にか黒滝の近くに座っている煌河に視線を向ける。
「何だよ。含みのある言い方しやがって」
「別に何もありませんよ」
 案の定不服そうに答える煌河をもっとからかってもいいが、今日の目的は違う。
「ところで黒滝さん。早く帰れる日には必ずと言っていいほど誰かしらを飲み会に誘う貴方が、最近は誘うこともせずあまつさえ誘われても断ることが多いそうですが。何かあったんですか?」
「あぁ、いや……別に大したことじゃねぇよ」
 いつもならはっきりと物を言うことの多い彼が、珍しく歯切れが悪い。ということは確実に何かあるはず。予想だが恋人ができたかそれに近い感じのことだろう。家族は既にいないと言っていたし。
 出会ってから今まで浮ついた話がなかった男ですよ。そんな男が恋愛だなんて面白いですねぇ。さて、どうやって追求して語って貰いましょうか……思考を巡らせている隙に、
「俺も気になってました! あれですか? なんか飼ってるとか」
 などと煌河バカが馬鹿なことを言い出した。
「え、あぁ……そうだな……猫を……」
「猫ですか? 似合わねー。あ、そうだ黒滝さんに聞いて欲しい話があって――」
 どうやらあまり興味を引かれる回答じゃなかったらしく、煌河バカは別の話を黒滝にし始めた。
 あまりにも歯切れの悪い言い方だったのに、なぜこいつは何も突っ込まずにスルーしたんですかね。確実に猫を飼っているような言い方じゃありませんでしたよ。そもそも初手から恋愛の可能性を潰すなんて……まぁこのお子様にはそういうのわからないから仕方ありませんね。だとしても、猫について言及するなりしていれば、ボロが出てこちらが欲しい回答をもらえたかも知れないのにこの……馬鹿は……。
 心の中で恨み辛みを言っても、もうどうにもならない。今さら話を戻すわけにもいかない。
 また別の機会に聞きますかね……とりあえずもうここに用はないですし、帰りましょう。
 立ち上がると「もう帰るのか?」と黒滝に声をかけられたので「はい。もう気が済んだので」と答える。そのまま帰ると見せかけ、
「痛ぇ!?」
 煌河バカの頬を抓った。これで本当に気が済んだ。
「それではまた」
 煌河バカが反撃に来る前にそそくさと立ち去る。
 今度はあの馬鹿がいないときに聞きましょうかね。

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