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もこもこのパジャマの件3 強い男

「プレゼントです」
 帰ってきてリビングのソファでくつろいでいた黒滝に、ガクが紙袋を手渡してきた。とてもいい笑顔をしている。
 ……この顔は確実にロクでもないものだよなと思うが、仕方ない。腹を括って紙袋を受け取る。中から取り出せば、朝ガクが着ていたものと色違いのパジャマが出てきた。
「……いいこと、か」
 朝に「いいことを思いつきました」とガクが言っていたことを思い出す。やはりこいつに祈るだけ無駄だったようだ。
「ふふ、似合うと思いますよ」
「嘘つけ。お前ならまだしも俺はさすがにきついだろ……」
 華奢で綺麗な顔をしたガクはまだ様になるが、ガタイのいい31のおっさんがこれを着るのは目も当てられないだろう。
「まぁいいでしょ? 着てくださいよ。僕に着せたんですから」
「……わかったよ」
 ここで拒んでもこれを着ない限りは、どうにもならないので諦めて服を脱ぐ。
「ちょっと、ここで着替えるんですか」
「別に男同士だから問題ないだろ。わざわざ移動して着替える方が面倒くさい」
 この場で着替えることに文句を言われたが、気にせずパジャマを着る。そういや、こいつ絶対に人前で着替えたりしないよな。まぁ、なんかそういうの気にするタイプなんだろう。
「……ほら、満足か」
 着替え終わり、ガクの方を向く。今の自分の姿、絶対に鏡で見たくないな。
「フード、被らないんですか?」
「……お前も被ってなかっただろ」
「貴方が覚えていないだけでは?」
 そう言われると、被るしかない。昨日の俺はこいつに何させてんだ……と思いながらフードを被る。
「ふっ、いいですね。大変お似合いです」
「お前、今、鼻で笑ったろ」
 もういいだろと思いながらフードを取ろうとすれば「誰がフードを取っていいなんて言ったんです?」という言葉が飛んできたため、手を止めた。
「あ、あと今後はそれ着て寝てくださいね」
「……あぁ?」
 本気で言っているのかという目で見れば、ガクはニコニコしながら、
「僕だって貴方に頼まれて、今後はそれ着て寝るので。いいでしょう?」
 などと言いやがった。
「いや、だから……それはなしでいいって……」
「せっかくの貴方の頼みなんですから、ねぇ?」
「……そんな聞き分けのいい子じゃねぇだろお前」
「失礼ですね。今後僕がその服を着ないことよりも、貴方がその服を着続ける方が面白いからだなんて思っていないですよ」
「そういうことか……」
 素直ではないが、珍しくガクが行動の真意を教えてくれた。まぁそうだよな、こいつはそういうところあるもんな……と納得する。
 元々、酔っ払った自分が蒔いた種なのでガクの行動を非難する資格も拒否する資格もない。
「わーったよ。じゃあお前も早く着替えろよ」
「後で着ます」
「おい、本当に着るんだろうな」
「着ますよ。着ないとうるさいのは昨日で十分理解しました」
「いや、それは……すなまかった」
「ふふ、反省しているならいいですよ」
 ……そういやこいつがフード被ってるところ覚えてないし、後で頼んで被ってもらうかなどと考えながら、ガクが着替えるまで他愛のない話をした。

もこもこパジャマの件 おわり

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