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もこもこパジャマの件2 強い男

 ズキズキと痛む頭を押さえながら、黒滝はベッドから起き上がりスマホのアラームを止める。完全に二日酔いだ。高校時代の先輩の誘いに乗った次の日は大抵こうなる。
 昨日のことを思い出そうとしても何も思い出せない。とりあえあずベッドで寝てたみたいだし良しとするか。この前はリビングの床で、ガクに踏まれて起きたし。
 とりあえずあいつ起こしに行くか。と思い、自室を出てガクの部屋に向かう。
 案の定、ガクは寝ていた。さすがに二日酔いで運ぶ元気はないので今回は布団を剥がすことにする。
「おい、起き――」
 布団を剥がせば、いつものダル着姿のガクではなく、なぜかもこもこしたパジャマを着ていた。
 どうしたんだこいつ。イメチェンか? まぁ趣味は人それぞれだし、こいつ顔が良いからそこまでおかしくないし、なんなら似合っているし。
「……」
 いつもなら布団を返せと寝っ転がりながら言うはずが、今日は無言で起き上がってきた。
「お、おはよう。その服、なんだ。似合ってるな」
「…………昨日のことは」
「ん?」
「昨日のことは覚えていますか」
「あーいや、その」
 起きてすぐはまともに喋れないこいつが、普通に喋っている。ということはかなりまずそうだ。昨日の俺が確実に何かやらかしたらしい。返事を誤魔化しながら痛む頭をフル回転させるが、やはり何も思い出せない。
「……まぁいいです。どうせ覚えていないんでしょう。最初から期待していませんよ」
「お、おぉ……」
 ガクは立ち上がり部屋を出て行こうとするので、そのまま後をついて行く。……先ほどまで見えなかったうさ耳つきのフードが目に入った。思ったよりもだいぶ可愛らしいものを着ている。
 少し歩いてガクがリビングに入り、ソファに座ったのでその隣に座らせてもらう。
「その、なんだ。昨日の俺はお前に何をしたんだ」
「……僕が今着ている服買ってきた挙げ句、この服を着て欲しいだの着たまま寝て欲しいだのこれからも着て寝て欲しいだの騒いでいただけですよ。えぇ、本当にそれだけです」
 ガクは終始真顔だ。怒ってる。確実に怒っている。とりあえず謝ってフォローを入れよう。
「本当にすまない。迷惑をかけた。あの、あれだ。似合ってるぞ、そのパジャマ」
「26の男がうさ耳フード付きのパジャマ着て似合っていると言われて喜ぶと思いますか?」
「……悪かった」
 いらないフォローを入れてしまった。二日酔いの状態でフォローを入れることが間違いだった。余計なことは言わないようにしよう。状況が悪化するだけだ。
「その、あれだ。酔っ払ってたから、これからも着て寝て欲しいとかはなしで大丈夫だ」
「……いえ、今後も着ます」
「え。……なんだ? 気に入ってんのか?」
 どう考えても今すぐ脱ぎ捨てると思っていたが。まぁこいつ結構天邪鬼だからな。そういうこともあるだろう。
「そんなわけないでしょう」
 ……どうやらそういうことはなかったようだ。
「じゃあ、何でだよ」
「いいことを思いつきました」
 ガクはにっこりといい笑顔をこちらに向けてきた。……こういう顔をするときは大体ロクでもないことをしてくる。
「……そうか。よかったな」
 だが、昨日やらかした俺が止めることなどできるわけもない。
 マシな結果になるよう神に、いや、こいつに祈るしかなかった。

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