芸術のフルスイングに殴られた後の酒はうまい
現代美術の展覧会って、合わない人はとことん合わないわけで。
でも、ひとりで行くよりかは何人かで行きたい。解釈とか聞きたい。根本が戦闘民族なので持論と持論で解釈の殴り合いとかしたい。
で、今回行きたかった展覧会っていうのが、職場の近くだったんですね。
はじめてお名前を拝聴しました、大巻伸嗣さん。なにせパチモンの芸術好きなもんで…。
でも、観に行って良かった。本当に良かった。感じたことも多かったけどそれを書くとえらく長くなりそうなのでまたの機会に。
今回の主題はそこではなく、その後に飲んだ酒がうまかったっつー話です。
オイ!芸術に触れたいという高尚な気持ちはどこいったんだよ。
で、誰と行ったんだ
役員と同期と私で行きました。変な人選だな。
役員は、本職がデザイナーなので少なくともしらけるようなことはなかろうと思って声かけました。全然相手が仕事してる最中に紅茶淹れながら後ろから誘いました。遠慮の欠片もないですね。二つ返事でOKくれたので本当にいい会社だと思います。
同期は巻き添えです。私の同期だったがゆえに…気の毒に…諦めて現代美術に華金の1時間を消費してください。
仕事終わり、冬も増し増しの六本木を掻き分けて、乃木坂のイルミネーションを横目にぼんやり浮かぶ国立新美術館(NACT)の稜線。すでにカフェやレストランは店じまいして、おっとりした明かりが繁華街の空気を鎮めているかのよう。
※振り返ってひねり出している情景です。実録は「さむっ!」「寒い!」「寒くないすか?」
仕事の疲れをうっすら覚えつつ、展示室2Eへ。
ゆらぎ、息づかい、たゆたう。六本木の夜は静謐にもなれる。
六本木の街は、華やか賑やか煌びやか。嘘ではないです。ドンキの横にクラブがあるし、カラオケは高い。ランチも高い。大通りを走る車はベンツとAudiばっかりで、雑踏に聞こえる言葉は複数の国が入り混じってる。その片隅で、私のような平凡な社会人は退勤したらさっさと電車乗ってお家に帰るのが常。
でも、ああ、良い夜だな。この日は、心からそう思えました。
良い展示でした。無彩のなかに絶え間なくゆるやかに動く事象を、私たち訪問者がすり抜けていく。そんな展示で、本当に無料でいいのか?本当に?払おうか?という下世話な思いで胸がいっぱい。
役員は、想像通り独自の感性で置かれたものたちを味わっており。
同期は、なんか知らんがものすごい刺さったらしくて結果オーライ。
よかった~誘って。
展示の合間でささやくように交わす感想や考察のやり取り。そうそうそうこれだよこれ。これが欲しくて人を誘ったんだわ。楽し~!!!ギラギラの照明の下でシャンパンとか飲む時間より全然楽し~!!六本木という土地で働くのに向いてなさすぎない?
(六本木といえどエリア広しビル高し企業多しだからそれぞれです)
観終わって、図録とかポストカードとか買って、しばらくみんな無言でNACTの出口へ向かう。しんみり響く閉館アナウンス、「よかった…」「よかったですね…」とぽつぽつ余韻を吐き出しながら、いざ海鮮居酒屋へ。この空気のまま?ハイ。
静かで穏やかな、現実から切り取られた夜の美術館を抜け出して、やがて見えますのは、でかでかと掲げられた看板と賑わい。
そこで、やっと、いつもの呼吸を取り戻したような気がしました。
酒うめぇ~!!!
いや~おいしかった。濃い梅酒だった~絶対また行こ。
私は、普段ほとんどお酒を飲みません。まして会社の人とは。単純に悪酔いするので、盛り下げちゃう。
でも、この日の酒はうまかった。
良い店だったのは、あります。悪酔いしない良いお酒だったのでしょう。
でも、それより、何より。展覧会から帰還した3人で飲んだから、というのが一番大きかったように思います。
大巻伸嗣さんの作品は、展示室2Eを深海に沈めていた。あるいは砂漠の砂の渦に、果てしない樹海の中心に。たぶん。今考えたかっこいい表現がこんな感じで、実際のところは「ああ…すごい…おお…ふうん…」みたいなことしか言えなかったんですけど、とにかくそんな芸術沼に1時間ず~っと浸っていました。
圧倒的な芸術沼は、鑑賞者の魂をいとも簡単に握ってみせます。私たちは束の間、オフィスに残してきた仕事のことも昼ご飯を食べ損ねて空腹なことも忘れて展示と向き合い、読み、考え、飲み込みます。
それで、魂をやわく掴まれたまま美術館を出て、沈黙を適当にいなしながら飲み込んだものを消化して、やっと見えてきたデッカイ筆書きフォントを見て、ようやく夕食のことを思い出して「何食べたい?」って隣に聞いて。その瞬間に、魂が2Eから乃木坂の海鮮居酒屋まで還ってくるわけです。
ベンツとドンキとクラブと高層ビルが作るこの場所では、何にも考えず美味しいもの食べて酒飲んで笑っていい、という開放感が、ことさらに酒をうまくした。同じく息をひそめて他者の感性をかいくぐってきた人たちは、いつもよりも穏やかな顔つきで食べたいものを次々に頼んでいる。いつも通りの日常。
でも、胸の片隅には、さっきまでなかったはずの異世界の気配がそうっと漂って、アルコールに混ざって私の中にゆっくりと染み込んでいく。
心地よいったらない。
うまい酒を飲みたければ美術館に行け
しっかり魂取られてから飲む酒は、うまいぞ。
大巻伸嗣さんの展示『Interface of Being 真空のゆらぎ』は、12月25日まで。入場無料なので安心して飲みに行ってください。
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