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永遠のような茶色の世界で
トーゴ人のPassiがある村に連れて行ってくれた。とても静かなところで、家が立ち並ぶ通りを進んだ先で急に視界が開けた。
湖だった。
私は茶色、特にこげ茶色が好きだ。しっとりした土、深い飴色の木、よく鞣された革、時間が経ってセピア色に変化していくものたち。自然界において、土台を支えるスタンダードカラーは黒ではなく、茶色だと思う。ファッションにおいても茶色はどんな色とも合わせやすく、黒よりも柔らかく受け止めてくれる。
この景色はまさに、私の好きな茶色が広がる光景だった。
取り囲む土、土の混ざる水、水中に立つ木の幹、水面に映る木の影、木の幹をくり抜いたボート、そしてなめらかな人々の肌。ありとあらゆる茶色によって構成された景色。
曇りの空とあいまって、とても静謐な世界がそこにはあった。
池や湖というと、「青・透明・光」の光景が、ある種のお手本のように思い浮かぶ。でも、ああ、あるんだ、こういう茶色の世界も。
その中で、ごく静かに、でも力強く動く人々がいた。池の中に分入って、洗濯をしている。
頭に大きな金だらいを載せて、たっぷりと水を汲む。膝をしゃきんと伸ばして洗う。
触れたくなるような、たくましい腕。
水面を眺めながら子供を抱いている女性がいた。そのとなりにしゃがみこむ少女。赤ちゃんもとても静かで、落ち着いているようにみえる。
彼女たちは外国人の私たちに取り立てて興味や反応を示すことはなく、ちらりとこちらを見やったあと、また静かに水面に視線を戻す。歓迎も拒絶もない。私たちも、視界が開けた驚きの後は、自然と無口になった。
ここは彼らの、「ふつう」の居場所なんだなと思った。私が日々洗濯機でしていることが、ここで行われている。洗濯をする、赤ちゃんの面倒を見る、そして何をするでもない場所。
想像以上の「静けさ」を感じた。そこにいる人たちの気持ちの落ち着き具合も一緒に受け取ったのだと思う。ニュートラルにただ広がっていく、永遠にも感じる静謐な茶色の世界を思い出すたびに、またひとつ、深呼吸をする。
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