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孤独になりようがないごはん

トーゴに初めて行った時、ぜひ日常生活に触れたいと思っていて、それは「ごはんを作って食べるところ」に詰まっているんじゃないかと考えた。そこで、テーラーのEpifaniのお家でドレスのオーダーをした後に、昼ごはんを支度している様子を見てみたいとお願いしたら、1時間後に戻っておいでと言ってくれた。

Epifaniが室内の仕事場でミシンを踏んでいる間、きょうだいたちが中庭で料理に取り掛かる。いや、ここは単なる中庭ではなく、キッチン、リビング、作業場、保管倉庫、洗濯場、遊び場と、多くの機能を兼ね備えているのがだんだん分かってくる。

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料理の始まりは、まず水を組むことから。中庭の井戸からバケツで組み上げ、黄色のプラスチックの容器に移し替える。ちなみに井戸には掘られた年度が書いてあって、その年数が新しいほど価値があり、物件の価格等にも反映されるのだそう。

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汲んだ水をたらいに入れ、マーケットで買ってきたモロヘイヤをザブザブと洗う。

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いわゆる「しゃがむ」姿勢ではなく、こんな風に足をピンと張って頭を下げて作業する。畑の中でも、この姿勢で農作業をする人たちがたくさんいて、まるでヨガの三角のポーズようで遠目に見てもかっこいい。はじめは何しているんだろうと思ったが、骨格的になのか習慣的になのか、膝を曲げてしゃがみこむことができないのだそう。不思議。

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いよいよ調理に。炭火を起こし鍋を載せ、木の皮で編んだうちわであおいで風を送る。右の写真の棚に載っている赤いソースは、各家庭の自家製パーム油。ラー油のように見えるけれど辛くはなく、いわゆる自家製のお味噌のように、各家庭の秘伝の味が出るらしい。これも加えていく。

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本日の食材と味付けは燻製の魚、ペペと呼ばれる唐辛子、そしてマギーブイヨン。マギーはアフリカ全土で定番の調味料とされているそうで、発音は”マジー”に聞こえる。日本でいう味の素やほんだしのような存在なのだろう。マーケットでもチキンやビーフなどの種類ごとに、大きな瓶に入って駄菓子のよう並べられており、1粒から買うことができる。

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野菜を切るときにまな板は使わず、素手の上だったり、まるで芸当のように皮を飛ばしながらしゅしゅと器用に剝いていて、見ていて気持ちがいい。手伝いたいけれど指をはねとばしそうなので、うちわ係に徹する。

ソースが煮えたら火からおろす。続いて、丸っこくて可愛らしいアルミのお鍋でお湯を沸かし、その中に白トウモロコシの粉を手づかみでばふっと適量入れ、火にかけながら木の棒でぐるぐるとかき回し続ける。様子を見ながら粉を追加していて、分量は厳密ではないよう。これは「パット」(ほかにもアクメなど、様々な呼び方がある)という、アフリカ全土で見られる主食のひとつを作っている。

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白くどろっとしていたのが、段々と固まりもったりとしてくる。根気よくあおぎ続ける係と、練り続ける係に分かれて加熱を続ける。両方ともなかなか二の腕にくる。

そして、輝く笑顔。

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完成したのがこちら。パットはお鍋をひっくり返したら、ぷるんと出てきた。鍋底の丸っこさがそのままの形に表れ愛らしい。
手で食べるため、フィンガーボウルと一緒に。

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この二つの皿を、室内のリビングのテーブルで、みんなで囲んで食べる。三つ指でパットを丸くちぎり、ソースにつけて食べる。できたてのパットは火傷しそうに熱く、ソースはモロヘイヤのぬめりがあって、ちぎってすくって口に運ぶのがなかなか難しい。でも、みんなで方々から手を伸ばして頬張る。おいしい。

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私たちが熱くてなかなかちぎれないのを見かねて、青い皿にちぎって並べてくれた。おかげでようやく、テンポよく食べられるように。ソースはピリッと辛く、魚はアジのようで、パットと食べるとちょうど良い塩加減で手が止まらなくなる。気づくとうっすら汗をかいていた。

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みんなでテーブルを囲んで、同じお皿から、素手でつまんで食べる。こういう食べ方だと、喧嘩をしたり何か気まずいことがあっても、すぐに仲直りしせざるを得なそう。怒ったまま、心を冷やしたままでできる食事じゃないなと思った。日本でいう鍋をつつくよりも、もっと近いしい距離感の食事を、ここの人たちは毎日しているのか、と思ったり。

囲んでつまんで食べて、孤独になりようがない。きっと。

それにしても、このソースとパットのような食事で、どうしてこんなにたくましい筋肉のついた身体ができるのかとても不思議。

一緒に食べるため皿数も少なく、素手のためカトラリーも不要。そうするとテーブルセットはこんなにもシンプルになるのかと思った。
食べ終わった後は、モロヘイヤを洗った残り水を使って鍋や皿を洗う。残った水はそのまま中庭に埋める。洗うときの姿勢は、やはりかっこいい三角ポーズで、長い足が際立つ。

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そうこうしている間に、Epifaniが私のドレスをほとんど形にしてくれていた!すごい、早い、嬉しい!

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Epifaniと一緒に食べられなかったのは残念だったけど、彼女のミシンの音が風とともにずっと届いていて、一緒にいる感じがしていた。

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上の段はソースの作り方、下はパット。料理もだけど、食べ方自体がアフリカンスタイル。いっぱい体を使って作り、みんなで食べるスタイル。

料理している一挙一動に目が離せなくて、音も匂いも楽しく、そしてわいわい食べて一層美味しかった。
ごちそうさまでした。

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このシリーズでは、私がこれまで描きためてきたトーゴの絵をもとに、描いた背景や実際に体験したことを書いていきます。
今回は料理のステップをできるだけ細かくお伝えしたいなと思い、写真もたくさん使いました。写真を選んだり書き進める中で、どんどんEpifaniの中庭の空気感や音を思い出し、お腹が空いて、このピリ辛のソースとモチっとしたパットが食べたくてしかたなくなりました。うう、たまらん。

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