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Artist02. Nathalie

 それほどサービスを期待していなかった、初めてトーゴに向かうフライトの中で彼女の様子は際立っていた。多くのキャビンアテンダントがほどほどの笑顔で対応している中、真っ黒なベリーショートヘアのナタリーは、乗客と接するのを心から楽しんでいるように、きれいな歯並びを惜しみなく見せて笑いながらきびきびと動いていた。彼女の周りだけ、明るいリズムが刻まれているようだった。素敵な人、どこの国の人だろう、とつい目で追っていた。

「それ、トーゴの布地を使ったヘアアクセサリーなんでしょう?」トイレに立った時、後方ですらりとした足を組んでおしゃべりをしていた彼女が、ふと私に顔を向けて言った。「トーゴ、私の国の。」
私はKey Notersの岩丸さん主催の、「ジャーナリスト岩崎有一さんと行くトーゴツアー」に参加し、4名と一緒に初めてのトーゴに向かう途中だった。搭乗前に岩丸さんが、トーゴでのアフリカンプリントを使ったヘアアクセサリーを参加者にプレゼントしてくれたのを、私たちはめいめいに身につけており、ナタリーはメンバーの一人からそのことを聞いたのだ。こんな小さなモノで、一気に心が近くなってしまうものなのだなぁと、これからトーゴに向かっていること、彼女が私にとって人生で初めて会ったトーゴ人であることなどを嬉々と話しながら、思った。

Whats Appの連絡先を聞き、(キャビンアテンダントの方に連絡先を訪ねたのも初めて)その後もやりとりが続いた。彼女は3週間働き、1週間まとめて休む勤務体系で、オフタイムではヨーロッパやアジアなど、様々な国に赴き楽しむ様子がSNSからもうかがえた。真っ黒のベリーショートのウィッグは仕事用のようで、オフではボリューミーな編み込み、ふわふわのカーリーヘア、金髪のストレートなど、いつもまるで別人のようで、画面を拡大して本当にナタリーだろうかと確かめた。ウィッグやエクステンションが当たり前だと、ヘアスタイルとはこんなにも幅がでるものかと感心させられる。

 1年後に再びトーゴを訪れたとき、1日めいっぱい、楽しいコースを案内してくれた。まずアフリカンドレスとバッグをプレセントしてくれ、(もちろんすぐに喜んで着替えた)、オレンジ色の玉石が広がるビーチで、デッキに寝そべりながらのおしゃべりや、ローカルマーケットでの青空ネイルサロン、行きつけのテイラーで制服のサイズをジャストにを詰めてもらうこと、ガーナとの国境や首都ロメのシンボルの鳩の彫刻を見たり、彼女のお姉さんが運営するレストランでのディナー(開店準備から一緒に!)、そしてロメ港の夜景を見ながらのチョコレートケーキとホットココア。一緒にいて何度、彼女が男の人からの誘いを断るのを見たことか。ビーチで、マーケットで、レストランで、カフェで。感じよく、でもきっぱりとNOが言えるプロだなぁと思った。
 ただ、お姉さんのレストランにアジア系の男性がしかめ面で入ってきた時は違った。眉間に皺を寄せて疲れたように話す彼を席に座らせ、うんうんと話を聞き、1リットルのボトルの水を運んだ。彼が出て行ってからどうしたのと聞くと、「旅行で来たらしいんだけど、すごく喉が乾いていて、でも大きなお札しか持っていなくて英語も通じなくて、誰からも水を売ってもらえずにずっと歩いてきたんだって。じゃあここにご招待するわ、ということでサービスしたの」と微笑んでいた。

 彼女は女4人男1人の5人兄弟の4番目で、教師と牧師の両親のもとに生まれた。大学にすすみ、将来を考える中でキャビンアテンダントになりたいと考え、隣国ガーナの専門学校に通い英語も身につけた。(トーゴの公用語はフランス語)「この国には仕事がない、って言う人も多いけれど、私はそうは思わない。夢を叶えられたのは本当にラッキーだと思うけど、どうしてもなりたかったし、そのための努力もしたと思う。」
 彼女の姉妹は全員結婚していて子供もおり、20代後半で独身の彼女はトーゴだと”そろそろモンスター扱い”されてしまうのよと笑った。「フライトでいろんなところに行くから、恋愛も結婚もそれを受け入れてくれる人じゃないと難しい。どこかにステイすることはできない。でも、この仕事を本当に愛している。これが、私なのよ」

 彼女は写真を撮られるのも撮るのも好きだ。トーゴの独立記念日を祝う自身のミニプロジェクトとして、カメラマン仲間を誘い、彼女がモデルとなってトーゴの国旗をドレスのようにまとった写真を浜辺でいくつか撮影した。それはそのまま、トーゴのプロモーションに使えるのではないかと思えるほど、クールで色気のある作品だった。今回のコラボレーションではそのうちの一枚、カメラを構えたナタリーの写真をプリントしている。

 4月末現在、コロナ感染拡大の影響で彼女は休業せざるを得ない状況にある。仕事についての将来の不安は「ある」と言う一方、トーゴの実家で家族とともにイースターを祝ったり、絵筆を取り様々な風景を描きだすなど新たな楽しみを見つけている。数ヶ月前から、オリジナルのアパレルブランドの構想も組み立てており、トルコや中国の生産地と交渉していた。これも一度ペンディングせざるを得ないが、「こういうことをしたくてね、今しているの」とストレートに話す彼女には、何か心を浄化されるものがある。 

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■商品情報
Tシャツ:https://mineral00.thebase.in/items/27226598
パーカー:https://mineral00.thebase.in/items/27226609
ナタリーのInstagram : https://instagram.com/ame_azura?igshid=ej2htzkf368h

【Artist】
MINERAL 02:Nathalie
西アフリカ・トーゴ出身のNathalieとのコラボレーション。
トーゴに生まれ大学まで進学するも、キャビンアテンダントを目指し隣国ガーナで学ぶ。「この国には仕事がない」と諦めず、自分の道を切り拓き、現在はアフリカ各国、ヨーロッパ、アジアを飛び回る。
トーゴの独立記念日に合わせ国旗をまとって撮影した写真と、MINERAL00ならではの鉱石をモチーフにしたプリントを掛け合わせたデザイン。

【Message】
“You don’t need to seek a right choice. Just make your choice a perfect one. ”
正しい選択をしようとするのではなく、自分が選んだものを最高の答えにしていけばいい。

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