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意味性を重ねて林業を上書きするストーリーテラーたち

吹き抜ける厳しく爽やかな風
優しく降り積もる粉雪
住まうものたちの生と死
無限の生物たち
その大きな集合体のうねりの中から導き出される
恐ろしいほど強く、大きく、複雑かつ明解な

という全体意思の中に身を委ねる
僕ひとりの力ではどうにもならないのはわかっている
それでも
なるだけ多くの存在の記憶を切り取って、集めて
丁寧に、バランスよく
そこに並べ、閉じ込めてゆく
じきに森がそれに応えてくれて
一つの目的を持った空間が出来上がってゆく
ほぼ奇跡で出来ていいる森の景色
怖さないようにそうっと
道をつける
木を伐る
丸太を運ぶ
その森が自分たちを認めてくれる
それが理想のヤマ仕事

出典:足立成亮氏 登壇資料

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本書は、「武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第一回(4/12)足立 成亮氏/陣内 雄氏」の講義レポートである。

講師:足立 成亮
1982年札幌生まれ。大学在学中から札幌で写真作品制作などの活動をした後、2009年滝上町へ移住。森林調査・森林作業を行う企業にて山仕事の修行を始める。2012年旭川市にて独立、outwoodsと名乗る。山奥の林業から薪の販売、里山アクティビティまで多彩な活動を展開。2016年冬、故郷の札幌に本拠地を戻し、キコリとして活動中。THE KNOT SAPPOROにあるギャラリー「KADO」で森をテーマにした展示に参加。
講師:陣内 雄
1966年札幌生まれ。東京芸術大学建築科卒。設計事務所勤務後、1993年下川町森林組合で働きつつ、音楽活動も行い1999年にCD「北の国へゆこう」を発売。2000年より森林組合でエッセンシャルオイルの新規事業立ち上げ。2006年旭川でNPO法人もりねっと北海道を設立、代表を務める。2015年フリーで林業や森の空間づくりを行う。2019年「キコリビルダーズ」の活動開始。

最後に閉ざされた業種、きこり。人によっては"底辺"と呼ばれるその極めて厳しい職業において、様々なサービス、喜び、営みを二人はクリエイションしている。この林業というベーシックな仕事の上に、新たな価値を生み出し、人々を巻き込み魅了している二人の内側を紐解く。

拾い集める
この「拾い集める」という言葉が印象的だった。
大切なものは既にそこにあって、必要なのはそれを見つけることが出来るかどうか。価値は地べたにある。森と人、森と社会をつなぐ彼らの言葉は、古いことなのか新しいことなのかを分からなくするくらい、本質しかない。スノーピークが"人間性を取り戻す"というキーワードで多角的な事業を展開し成功を収めているが、彼らの林業はまさにその分野の最先端を行く活動だと感じざるを得ない。

薪を通して森の物語を伝える、ストーリーテラー
彼らは林業を生業にしてるが、林業周辺の意味性がミルフィーユ状に何層も重なっているのが従来とは異なる。街から森へ、森から街へ、お互いを行ったり来たりしながら両者を接続させて、森の物を通してそのストーリーを伝えている。ただの林業という職業の枠組みから外れ、哲学、思想の深さから、芸術のような形で新しい林業という輪郭を縁取っている。

ダウンサイジングの時代における、共異体を形成している
ずーーーーっとやっていける林業をする。この言葉の重さはサステナビリティとは比較にならない。人と森が共生し、いかしあい、繋がりあうこと。自分サイズで淡々と目の前のことをこなし、森と街を補助線のように繋ぎながら、人々にその意味を伝えていく。森の中で生きる彼らは、経済合理性の上に成り立つ大きな企業の数字には見えない、感動、共感、理念を生み出している。そしてそれが、孤独と孤独を穴埋めし合うデジタルでの繋がりではなく、自然の中で生きる繋がりを生み、自分たちの目が行き届く範囲でそれぞれの違いを認め合い共に生きる「共異体」としてのコミュニティーを形成する。多くの人が共感し、周りに集まってくるので、彼らは仲間を集めようとしていない。結果的に村(ソン)になるかたちは、自立分散型社会のあるべき姿でもある。本当に格好良い二人だった。

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