持続的で内発的な動機をデザインする

都市から地域へ。自律分散型社会に向かっている現在。

今までの常識を過去にしてこれからの未来をつくるのに必要なことは、強く大きな組織の100歩ではなく、私たち一人ひとりの1歩であること。

一人ひとりがその一歩を歩み出すために、いまデザイナーがすべきことは何なのか?

はじめに

本書は、「武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第三回(4/26)森 一貴さん」の講義レポートである。

講師:森 一貴(もり かずき)
1991年、山形県生まれ。東京大学教養学部卒業。東京のコンサルティング会社勤務を経て、福井県鯖江市のプロジェクト「ゆるい移住」に参加し、2015年秋から同市へ移住。半年間のプロジェクト終了後、福井県に残り、工房・職人体験イベント「RENEW」など、まちづくりに関わる企画・実行支援を手がける。2017年4月には対話・探求・実践を重視した学習塾「ハルキャンパス」を福井県越前市に立ち上げ。

どうしたら、社会に自由と寛容を作ることが出来るのだろうか?

みんなが幸せに生きられる社会を作るという夢を持ち、そのために「どうしたら、社会に自由と寛容を作ることが出来るのだろうか?」という問いに向き合い活動をされている。

どうしたら、人々が社会を変えていけるような社会を作ることができるのか?どうしたらわたしたち一人ひとりが、欲しい未来、社会、状況を自分たち自身で生み出していけるようなモデルを、社会・専門家・企業を後押ししながら作っていくことができるのだろうか。

そもそも、「自由」とは何か?
森さん曰く、出来るという確信があることだと言う。何かやろうと思った時にそれが出来る状態であること。それを、アマルティア・センは「ケイパビリティ」と言い、つまりそれが自由を意味するのだと。

これを聞いて私は、武蔵野美術大学の教育理念である、「真に人間的自由に達するための美術教育」という言葉を思い出した。学びを起点に自分自身を変化させ自由に近づくことできる。武蔵野美術大学が学生に向けて一人ひとりのデザインの力を引き出しているように、森さんは活動を通じて地域の仕組みや個人と向き合い、Design by peopleをその土地にインストールさせようとしている。

そもそも、「社会をつくる」とは何か?
森さんの活動は、「コンヴィヴィアリティのための道具|イヴァン・イリイチ」や「日々の政治|エツィオ・マナズィーニ」の考えに近く、行政や企業などのシステムが人々のデザインする機会を奪っている状況を変えること、また私たち一人ひとりが持つデザインする力を後押ししている。

何かやろうと思った時にそれが出来るような多様な選択肢を増やし、その選択した道をしっかり登っていけるための階段(文化、システム)をつくること。それを体現するための森さんの活動は多岐に渡ることに驚く。

変化のための小さな階段をつくる

実際にどんなプロジェクトをしているのか、例えばとして以下の事例を紹介していく。

生き方見本市HOKURIKU
生き方を問い直す場をデザインするプロジェクト。地域を舞台に、色んな生き方をしている人に会うことが出来る場をデザインすることで、色んな生き方があって良いことを伝えるトークイベント。

このプロジェクトの面白い点として、企画メンバーを、福井にいる”何かやりたそうなんだけど何もやったことがない人”を20人ほど巻き込んだこと。一緒にプロジェクトをやり切り、そのプロセスを通じた成功体験を積むことで、やればできるという感覚をチーム内で醸成していった。そこからプロジェクトをきっかけに、自分らしい生き方を実際に歩む人が現れたという。


田舎フリーランス養成講座鯖江
田舎に一ヶ月合宿して、ウェブ系フリーランスになろうというプロジェクト。地域ではまだ企業から転職してフリーランスになるということがまだ断裂しており、ここの補助線を引く役割だという。

一ヶ月のぽうリジェクトでその土地のことが好きになり実際に移住したり、プログラムには関係のないキャリアを歩むことにつながった人もいるという。

つくることの民主化 「designing design」

個人が何かを変えること。エツィオ・マナズィーニのデザインケイパビリティで、それを森さんはdesigning designという。その事例もまたいくつか紹介する。

RENEW
一年間に一度、福井県のものづくりの工房を一斉開放するイベント。職人の方々が、工房を案内をしたりワークショップを催したりと、その物の裏側、人の顔、技術、工房の空気感を体験してもらうことで、越前地域を知ってもらうプロジェクトである。

行政(福井県、鯖江市、越前町など)も巻き込みながら、出店社も毎年80社ほど参加することプロジェクトは、2020年の来場者は30,000人超えるほどの、オープンファクトリーの領域では日本最大級のものになった。

これまで、BtoBがメインだったため街には直接販売するお店が少なかったが、このイベントによって来場者が増えると、せっかくお客さんが来てくれてるんだからという理由で直接販売するお店が増えていった。RENEWは、3日間だけ人がたくさん来る産業観光イベントという皮を被った「産地をエンパワメント」だったことに気がついたのだという。これまで職人は最終のお客さんの顔を見えなかったが、RENEWのイベントによって職人と生活者を繋ぐ補助が引かれ、顔の見える関係性を実現した。実際の利用者からの思い掛けないフィードバックが彼ら職人をエンパワメントし、誇りを取り戻すということが起きていった。結果、お店をやってみようという動きが加速していったのだという。森さん曰く、大切なことは「持続的で内発的な動機をデザインすること」だという。

つくることの民主化2.0 「designing designing  design」

「個人が何かを変える能力を持つことを、ある組織が後押しする」ということを後押しすること。例えば以下の事例を挙げる。

パブリックデザインラボふくい
福井県の県庁が一方的につくった政策を市民に提供するのではなく、しっかり市民の声を聞き、市民が参加しながら政策を作ることで本質的な提案を出来るようにするプロジェクトだ。

県庁に外注的な立ち位置でサービスデザイナーが関わると、県庁の内部に知見がそのアセットとして貯まらず、持続可能なものではなくなってしまう課題があった。そのため、OJTのような形態をとり、伴走するかたちで県庁職員の方々が優秀なサービスデザイナーになれるように動いているという。実際に市民が利用する場に現地現物で観察し、そこからプロジェクトを進めている。

おわりに

中央集権型から自立分散型へと、社会は移行していく。その時に必要なのは、地域の人々が自分たちの力で一歩を踏み出す力だ。森さんは実際にその土地に住みながら、伴走し、一人ひとりに向き合いながら持続的で内発的な動機をデザインすることでそれを前に進めている。人を動かすのは、その人の持つ情熱や空気感、そして行動そのものだということに気づかされた。

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