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人類としての夢を語るスペキュラティヴ・デザイン

あの川の向こう岸には何があるのだろう。

空を自由に飛びたい。

地球の外はどうなっているのかな。

そうやって私たち人類は、夢を見て、技術革新を繰り返しながら発展をしてきた。しかし現在、私たちに夢はあるのだろうか。人類が絶滅しないように、食べ物に困ることがないように。そんな現在の私たちが持つ未来は、夢ではない、ビジョンでもない、それは淡い希望なのかもしれない。

夢が希望に成り下がってしまった今、私たちが未来に向かって繁栄していくためには、もう一度夢を持つことを取り戻すことが必要なのかもしれない。

ありえないでしょ。病んでるんじゃないの?
そう言われるくらいの夢追い人が、世界を変えるのかもしれない。それを可能にするための、デザインがある。

はじめに

本書は、「武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第二回(4/19)岩渕 正樹さん」の講義レポートである。

講師:岩渕 正樹(いわぶち まさき)
NY在住のデザイン研究者。東京大学工学部、同大学院学際情報学府修了後、IBM Designでの社会人経験を経て、2018年より渡米し、2020年5月にパーソンズ美術大学修了(MFA/Design&Technology)。現在はNYを拠点に、Transition Design等の社会規模の文化・ビジョンのデザインに向けた学際的な研究・論文発表(Pivot Conf., 2020)の他、パーソンズ美術大学非常勤講師、Teknikio(ブルックリン)サービスデザイナー、Artrigger(東京)CXO等、研究者・実践者・教育者として日米で最新デザイン理論と実践の橋渡しに従事。近年の受賞にCore77デザインアワード(Speculative Design部門・2020)、KYOTO Design Labデザインリサーチャー・イン・レジデンス(2019)など。

パーソンズ美術大学でスペキュラティヴ・デザインを提唱したアンソニー・ダン&フィオナ・レイビーの両名の元でデザインを学び、私たちが向かうべき未来とは何かを人々に問いかける岩渕氏は、「夢追い人になろう」と呼びかける。なぜ今、夢が必要なのか、夢はどこから来るのか。Social Dreaming through Design、それは私たち人類が目指すべき夢を見ること。あったらいいなの未来の世界の暮らしを語ること。そんなデザインを紐解く。

Speculative Design(スペキュラティヴ・デザイン)とは何か?

私たちは現在、人新世(Anthropocence)と言われる地球上を人工物が覆ってしまっている地質年代に生きている。今の延長線上で問題解決をするのではなく、そもそも問題を提起すること。大きなシステミックチェンジに直面しているのが今なのかもしれない。

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そんな現代が私たちに求めているものは、ユーザーに聞いて今ある健在的なニーズの問題解決する役立つ機能的なものではないく、こんな未来になったらどうなんだろう?と人々に考えさせられるもの、問いかけるものではないだろうか。つまり問題解決ではなく問題提起。将来起こりうる未来を、みんなで一緒に考えようと、将来の世界観を考えさせるスペキュラティヴ・デザインが必要だと岩渕氏は言う。

Vision(北極星)はDream(夢)から来る

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あの川の向こう岸には何があるのだろうか?空を自由に飛びたい。地球の外はどうなっているのだろう?

人類はそんな内なる想い、夢が起点となり、周囲を巻き込む北極星を作り、みんなでイノベーションを起こすことでそれを実現してきた。つまり、ビジョンはいきなり出てくるものではなく、その根本にはいつだってドリームがあり、それは誰しもが持てるものでもあるのだ。

「Social Dreaming」という概念は1980年に心理学の領域で登場し、当初は夜眠っている時に見る夢を、みんなで共有すると自己を知ることが出来るのではないか?という問いが始まりだったと言う。

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アンソニー・ダン&フィオナ・レイビーも、スペキュラティヴデザインの本の副題に「Social Dreaming」を入れており、自分がただ夢見ているのではなく、人類の夢を一緒に考えるようなデザインをしていこうメッセージが込められているとうことだった。

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私たちは現代において、どんな夢をみるべきなのだろうか?
そんな問いに向き合いながら、21世紀の夢を作っていくことの必要性、上の添付にある()カッコに様々な意味合いを想像することができる。そして、それを可能にするのがデザインであり、スペキュラティヴ・デザインの重要性はここにあるのだと言う。

夢をどう捉えていくべきなのか?

夢を見ること、未来を想像する上で大切な視点が「人」であることを忘れてはいけない。テクノロジーが広がる世界をアニメのように描くのではなく、テクノロジーを使って人々がどういう暮らしをしているのか。社会、政治、倫理観や価値観、それらがどうなっていくのかを、解像度高く捉えることが求められる。そうすることによって、その未来に夢があるかを議論することが可能となり、国籍、性別、年齢、専門性を横断する様々な人と一緒に、「共創」ではなく「共脳」として、各自の持つ未来の種から全員で時間をかけて結晶化させていくことが出来るようになると岩渕氏は言う。そして、そこに私たち人類が目指すべき夢があるなら、そこをビジョンに据えて、そこに向かって一歩を踏み出していくという現在をデザインすることが出来るようになる。

エンタメになってはいけない。それは自分はそこに行きたい世界か、人類がいくべきかをしっかり軸として考えることが重要で、そのためにリベラルアーツのような多様な知識が必要になってくる。

拡張するデザイナーの役割

人類が目指すべき未来を夢としてみるために、人類学の観点から人々がどういう価値観で過去から未来への歩むべきなのかをデザインする「Design Anthropologist」や、単一のアイデアではなく解像度高く未来の人々の生活を語る「Design story maker」など、さらにデザイナーとしての領域は拡張されていくと言われていたのも印象的だった。夢を見て、語り、北極星を指し示すこと。それを一人ひとりが実践で取り組むことができる社会になると、本当に世の中が変わるのだと思う。

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