上から目線でも下から目線でもない、同じ目線であり続けるデザイン
上から目線でも、謎の下から目線でもない。
導くこととも、支えることともちょっと違う。
同じ目線に立ち、共に視ること。共に歩むこと。
同じ目線をデザインする、なんて言葉で言い表せない人としての優しさの中に、人を動かす本質をみる。
はじめに
本書は、「武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第十二回(9/27)大山貴子さんの講義レポートである。
講師:大山 貴子(おおやま たかこ)
株式会社fog 代表取締役/一般社団法人530 理事
米ボストンサフォーク大にて中南米でのゲリラ農村留学やウ ガンダの人道支援&平和構築に従事、卒業。ニューヨークにて新聞社、EdTechでの海外戦略、編集&ライティング業を経て、2014年に帰国。日本における食の安全や環境面での取組みの必要性を感じ、100BANCH入居プロジェクトとしてフー ドウェイストを考える各種企画やワークショップ開発を実施後、株式会社fogを創設。循環型社会の実現をテーマにしたプロセス設計を食や行動分析、コレクティブインパクトを起こすコミュニティ形成などから行う。
大山さんのお話を聞くといつも「柳」のような印象を受ける。しなやかで、ゆるくて、でも強い。その理由が少し分かったような講義となった。
共視。同じ目線をデザインする。
大山さんは自社のfogという会社を、目線を作るデザイン会社と言う。今回の講義を受けて、よくあるサーキュラーエコノミー的な話は一切無かったことにまず驚く。講義を受ける学生の目線に立ち、海外から来た謎の概念であるサーキュラーエコノミーを理路整然と説くことはしない。私たちの中に既にあるかもしれないそのサーキュラーエコノミーへの先入観を取り払うかのように、終始、一緒にそれを見て考えていこうよというスタンスだったように思う。自分自身を何者であるといった肩書きで括ることはせず、生活者と自身を分断させて同じ目線を持てなくなることは徹底的に拒む。同じ目線に立ててない者が言う言葉は、押し付けのデザインであるとも言っていたことも強く印象的だった。
循環がテーマになるとよくコンポストが出てくるが、大山さんはそれをビジネスにすることはしない。コンポストは微生物の力を使って自然界に返すことであるので、自然界の恩恵を企業の利益のために使うといったことはしない、つまり生活者と離れた上から目線を持つことをしない。コンポストは地域のためのソーシャルなツールであってビジネスであってはいけないというその言葉から、地域に暮らしながら地域のことを思い、常にプロジェクトに向き合っていることがわかる。
また、サーキュラーエコノミーは、利益を追求する企業にとって、新たな消費を促すマーケティングとして処理されてはいけない。組織全体を変える仕組みのリデザインが求められ、そのために必要なのは私たち一人ひとりの目線である。
正しいではない、美味しい楽しいを創る
日本の工芸品や民芸品、日常的におじいちゃんおばあちゃんがやっていたことをわざわざサーキュラーという横文字で括ることを大山さんはしない。日々の暮らしの中にあるシンプルな、美味しい、楽しいの結果として生まれる循環型の豊かな暮らしである。サーキュラーを扱うとどうしても正しいに目が向き、その目線は人間の本能からずれてしまうことが往々にしてある。いかに暮らしに入り込むか、溶け込むか。正しいは溶け込むのか?理性のアプローチは持続可能なのか?生活者の目線で、これからも豊かな暮らしを視ていきたい。