【ライブレポート】『Bialystocks 2nd Tour 2023』at EX THEATER ROPPONGI
このテキストは2023年9月10日に行われたBialystocksツアーファイナルのライブ評です。2022年以降インタビューやライブレポートを通じてBialystocksの活動を追いかけてきたので、その一環として当日も足を運んでおりました。記憶が薄れる前に残せたはよいものの、特にどこかに掲載するでもなく、長らく宙に浮いておりましたので、ごく個人的なこのnoteにアーカイブとして読めるようにしておきます。
振り返るとBialystocksが大阪、名古屋、東京を回った初ツアーを行ったのは2023年1月のこと。ほんのつい先日じゃないか。その後6月~7月に5都市5公演がアナウンスされた〈Bialystocks 2nd Tour 2023〉だが、4月の時点で早々にこの追加公演が発表。公演数も倍となり、会場のキャパシティもグンと大きくなったが、蓋を開ければ即座に全公演がソールドアウトした。しかも毎度節目のライブのMCでは甫木元空(ボーカル/ギター)から、新曲のリリースや次なる公演についてアナウンスされる。常にネクストアクションが準備されているという優等生っぷりに、また今後が楽しみになって会場を後にする……というサイクルがかれこれ2022年1月の『Tide Pool』リリース以降、ずっと続いている状況なのだ。
筆者は2nd Tourファイナルの大阪公演をつい2か月前に観たばかりであり、その模様はMikikiでレポートを執筆した。今回は追加公演という形ではあれど同じツアーの枠組だ。フレッシュに感動し、それを十分に伝えることができるのかという不安はないかと言われたら嘘になる。しかし前回のレポートでは次のように書き残していた。「彼らのライブは触れるたびにまるで異なる体験になるからこそ、数年後には〈あの2nd Tourの時のひと際激しいBialystocksがまた見たい〉と折に触れて思い出してしまうような気がする」。それが叶う機会がすぐに来たということじゃないか。しかもなんと言ったってバンド史上最大キャパ、EX THEATER ROPPONGIでの公演。きっとまた違う感覚を持ち帰ることになるのだろうと思いながら、会場へと足を運んだ。
開演時間となり会場内に流れる竹内まりや“SEPTEMBER”の音量が絞られて照明が落ち、暗闇の中で菊池剛(キーボード)によるピアノアレンジの“Winter”が流れる。その内、照明に照らされた緞帳が開くと甫木元が一呼吸置いて、〈グランパーでどっかめざして/僕たちは進む〉と静かに歌い出して大きな拍手と歓声が上がる。大阪公演でも1曲目だった“Nevermore”だ。この日はセットリストこそ前回と大きく変わることはないものの、このオープニングに仕込まれた“Winter”など、ライブショーとしてさらにブラッシュアップされていたことが印象に残っている。
この日の編成は、甫木元と菊池に加え、朝田拓馬(ギター)、Yuki Atori(ベース)、小山田和正(ドラム)、秋谷弘大(シンセサイザー/グロッケン/ギター)と、ツアー全公演を経験した6人に、オオノリュータローと早川咲がコーラスで参加した豪華編成。ここでもやはり楽曲の彩りは大きく変わる。“Over Now”~“ただで太った人生”~“差し色”といった、フォーキーとソウルの間にある心地よさを愛でていくようなミディアム・チューンの流れでは、ツアーを経てひと際アグレッシブになったバンドアンサンブルも、2人の歌声によって少し丸みを帯びるような、まろやかなテイストを加えていた。
しかしやはりこのツアー全体を通じてハイライトと言えるのは中盤だ。言うなれば各メンバーのプレイヤビリティーが炸裂するハードロック・ショー。“朝靄”の演奏の余韻が消え入るのと交差するように、菊池のピアノとAtoriのベースが性急なフレーズでユニゾンしながら“All Too Soon”が始まる。途中から菊池と朝田がソロを回し合いながらフュージョンのグルーヴにぬるりと移行していく、10分を超えるロングセッションだ。しかし大阪で観た際は曲としての枠組みを粉々にしてしまうのではないかと懸念するくらいの切迫感を感じていたが、今回は怒涛の演奏が精巧に組み合わさり巨大な塊となって押し寄せてくる感覚を強く受けた。ここにも前回からバンドとしてのさらなる成長が窺える。
そしてもはやライブにおける目玉的存在となりつつある“あくびのカーブ”もさらなる演出が加わっていた。アウトロになると朝田、Atori、小山田だけを残してメンバーがステージから退場。三者三様のプレイが乱立する混沌状態にもつれ込む。そこに甫木元がひょっこり再登場。手にはビデオカメラを持っており、三人の姿を捉えている。するとステージ上のスクリーンにリアルタイムでその映像が映し出されているのだ。ハニカミながらじっくりファインダーをのぞき込む甫木元は、バンドのフロントマンではなく完全に映像作家の立ち姿。でもいわゆる「もう一つの顔を見せる」的なパフォーマンスにしては、観客に長らく背を向け、粛々と撮影に徹しているのが何とも彼らしい。最後には菊池と秋谷もギターで加わり、朝田とのトリプルソロをかます屈指の名シーンを間近から映像で切り取ってみせた。
またこの日ライブ初披露となった7月リリースの新曲“Branches”にも触れておこう。音源ではピアノとアコギ主体のサウンドに、大胆なボコーダーエフェクトが折り重なる新境地だったが、ライブではピアノ主体の前半に対してアウトロからバンドサウンドに切り替わる2部構成に様変わり。ほんのりウエストコーストを感じる所在なげなスライドギターのフレーズと、巧妙に転調していくグラデーションも鮮やかで、今後披露されるたびに趣を変えそうなポテンシャルを感じた。
まとまったMCもなく、2時間以上演奏しっぱなしだったこの日のライブ。アンコールの最後として“雨宿り”を披露する前に甫木元から、10月の新曲リリースと、翌年1月に二人編成初のホールライブの開催がアナウンスされた。今回のメンバーを固定した鉄壁なバンドアンサンブルの構築は一旦高みに達し、次は二人だけのミニマムで濃密なパフォーマンスを目指すのか。ライブの余韻とネクストアクションへの期待が途切れることのないBialystocksの持続的なサイクルはまだ続く。
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(掲載全てMikiki)
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