ひかりの夜

誰かが音楽を聴いてる。それは湿った夜に。仕事明けの朝に。苦しいくらい罵声を浴びせられた後に。小さいと思っていたものにつまずいた日に。そして、8月31日のこんな時間に。

もしかしたら誰かがこの音楽を聴くのかもしれない。そう思って砂を噛んでいた日も。何かできるのかもしれないと思って引っ込みがつかなくなった両手足も。何度も何度も飲み込んだ言葉も。きれいな水に浄化してから体外に排出していたせいで、からだに残った灰が大きくなっていくのがわかった。

果たして空を飛んでいるように見えただろうか。まるで翼が生えているように思えただろうか。もぐらは目が見えない。それでも地上にあがってくるように。

誰かが音楽を聴いてる。なにを聴いているだろうか。話したことないあなたや、誰かにださいと言われたあの音楽も、私にとってはとってもとっても大事な宝物のはずだ。無形のものばかりが尊く感じるのはどうしてだろう。

誰かがこの音楽を聴いていた。8月の終わり。開いた窓の向こうから、聞こえた気がした。


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