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世界一気まずい彼のご両親へのご挨拶【彼が植物さんになった日③】

突然の心停止からなんとか蘇生した彼。
病院から家族と連絡を取るよう依頼され…。

初対面じゃないから余計ややこしい

彼とは運営していた劇団で知り合い
長い間、仲間であり友達であり家族のような関係だった。

彼のご両親とも面識はあったので
電話で名乗って「わかりますか?」と尋ねたら
「ああ、〇〇〇(劇団名)のでしょ?」
と即答された。

現状を伝え、直ぐに病院に来てもらうことに。
と言っても彼の実家は車でも電車でも2時間30分くらいかかる距離。
その間、私は盛大に苦悩する。

ご両親は私のことを友達の一人だと思っている。
一緒に住んでいることはもちろん、
彼らは息子に彼女がいることすら知らない。

彼は私のことを自ら人に伝えることがなかった。
人に知られたくないような、
私ってそんなに恥ずかしい存在なの?
と堪らず聞いたこともあったけど
単にめんどくさい、てれくさい、だけなのは理解していた。

しかーし!!
彼のそんなズボラな後回しのせいで!
私は恐らく世界一気まずいご両親へのご挨拶を
1人で乗り越えなくてはならなくなったのだ。

いざ、ご対面

その瞬間は記憶から消し去りたいせいか
あまりハッキリとは覚えていない。

「〇〇さんと一緒に住んでいます」
シンプルにそんな感じに話したと思う。
彼らの反応は見られなかった。
淡々と今日それまでに起きたことを伝えた。

たぶん驚いてはいただろうけど、
大人な対応で返してくれていた。と思う。

ご両親とはこのあと、彼のマンションで同居生活を送ることになる。
なんとも異色な珍同居は3か月にも及んだ。

山を越える

家族の到着によりやっと病院から病状を聞けることになった。
お父ちゃんの計らいで駆けつけてくれた友人たちと私もその場に同席させてもらった。

自己心拍が再開するまでに要した時間は45分。
病院側も判断が難しかったと思うが
彼がまだ30代で若かったことから
蘇生を諦めずに続けてくれたそうだ。
本当に、本当に、ありがとう。

しかし容体は安定しておらず
今夜が山になるだろう、と言われた。
その説明を聞いているときも心拍の異常を伝えるアラーム音が鳴り響き、ドクターが対応に走っていく。

その夜は院内の仮眠室のような場所で過ごした。
スタッフさんが廊下を通る気配がする度にびくっとしてしまう。
とても長い夜だった。

共に不安な夜を過ごした友人は登山仲間の1人。
彼も一緒に幾つもの山を登ってきた。
空が白んで
彼はこの山も無事に越えてくれたのだと知った。

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