「ボールの勢いを殺すメカニズム」について.
※2022年2月15日 編集
サッカーのトラップ
この記事を書くきっかけは,下記の動画を見たからです.
川崎フロンターレの練習風景:
皆さん,結構なボールスピードがあるのにトラップがめちゃめちゃ上手い.ピタっとその場に止まります.このトラップ,「能動的に意識して引く動作」では,ボールの勢いを殺すことはできない...っというのがわかりやすい動画だと考えてます.
下記は,小野選手の変態トラップ:
同じく小野選手.冒頭のところで,高く上げてピタッ!
足を引くというよりも,「つま先に当ててエネルギ変換?」&「回転に変換?」って作業?...のように見えます.ボールの速度方向には地面がありますので,そもそも足を引くスペースがありません(-_-;)
サッカーとかでも,ボールの勢いを吸収するのに「足を引け」という指導が行われることがあります.バレーボールとかでも同様な指導があるようです.でも,ボールの接触時間は,おそらく,0.01秒程度(床反力計で測定したことがあります),ある程度以上にスピードがあるボールの勢いを「意識的に足を引いてに制御する」のは,人間の能力を超えていると思うんですよね.足を引く速度をボールにジャストで合わせるのは困難を極めると思われます.
バレーボールのアンダーハンドパス
バレー経験者ではないので,そこまで上手いわけではありませんが,バレーボールの事例(アンダーハンドパス)を下記に示します.
(1) 思いっきり腕を引いて腕の上にボールを載せる動作.
(2) チョコンって腕をボールに当てて,ボールの速度をほぼゼロにする動作.
(3) 500玉の衝突実験.
ボールを腕に載せるとバレーボールでは反則です(-_-;)
バレーボールでは,基本的にボールを打ち返すわけですが,チョコンとボールにヒットさせて,腕が弾かれる?腕が飛ばされる?ことによって衝撃吸収を実現してると考えられます.ある程度の速度までなら,調整すれば,ボールの速度をゼロにできます.つまり,500円玉の衝突と同じような力学現象なのかなと...「腕を引く」のではなく,まずは,しっかりとボールをヒットする,ミートする(捉える?コントロールする?)ことが重要そうです.では,何が起こってるのか?について力学的な考察を以下で述べてみます.
力学的な話
下図は,変形しない壁にボール(質点)が衝突する場合を考えています.無重力の設定でイメージしてください.
床(剛体壁)なので,ボール(m1)側が弾性変形し,勢いよく跳ね返るはずですね.次は,衝突する相手も質点で動く場合を示します.
m2 の質量が大きい場合,当然,m1 は跳ね返るのですが,相手が質点であれば(動くのであれば),m1 の跳ね返る速度は減るはずですよね.m2 は等速並進運動するはずです.速度は,運動量保存,エネルギ保存,反発係数などで決定されますね.ちなみに,m2 が地球であれば,m1 に対して m2 がメチャクチャ大きいので「動かない壁」と近似できます.下記は概念図です.
相手が側が地球だと剛体壁みたいなものですね(-_-;)
次に m2 に,「質量が小さい,質量をゼロと扱えるほど軽い丈夫な棒」を取り付けます.下図ですね.
※ニュートンのゆりかごと同じです(笑)
棒がついただけで,衝突した瞬間の質点の挙動は同じです.ただ,衝突後, m2 は,並進運動ではなく点Aを中心にして回転運動することになります.では,下図のようなボールがぶつかる物がバットのような用具に代わる場合を考えます.
ボール(m1) の跳ね返る速度は,角運動量保存,角運動エネルギ,反発係数などで決まってきます.この場合,バットの質量だけでなく,慣性モーメントが関係してきますね.
バットのような用具でボールをヒットするには,撃心(スイートスポット)というものがあり,撃心は支点(握る場所,グリップ)によって決まってきます.下図は撃心の例です.撃心から大きく外れた場所でボールヒットするとボールがどこに飛ぶかわかりません.
では,身体部位でボールヒットして,ボールがが停止する(ボールの速度をゼロにする)条件を考えます.500円玉の衝突を考えると,下図のように質量が同じ状態(これと同等な状態)が必要になってきそうです.
さらに,身体部位の撃心で(撃心の近傍で)ボールヒットする必要があります.そうでなければ,綺麗にボールが停止した状態でコントロールできるはずがありません.下図は腕でヒットする状態をイメージしてますが,ヒットポイントは明白ですが,支点側は何処に存在するかは謎です.
※注1 アンダーハンドパスの支点についての検討は,学会で発表したことがあります.
謎は多いのですが,アンダーハンドパスで軽くボールヒットして,ボール速度をゼロにすることが可能なのは間違いありません.下記は連続写真ですが,ボールヒットすることで速度がほぼなくなっているのが分かります.
「何故これができるか?」には,謎な部分も多いのですが,起きている現実を見る限り,ある程度以上の経験者であれば,バレーボーラーも,フットボーラーも,このスキルを有しているようです.
まとめ
ボールの勢いを殺すのに注意してほしいことを次にまとめます.
(1) 実際に起きてることは謎が多く,固定観念で無理やり「やり方」を教え込むのはやめてほしい.
(2) 腕を引くことで機能することは難しいと考えます.むしろ,ボールが変な方向に飛ぶ.必要以上に勢いが落ちる,...,など意図しない挙動になることが多いと思われます.
(3) まずは,「ボールヒットする感覚を身体が知る」ことが重要である.
(4) ボールヒットすることで,ボールのスピードをコントロールすることを目指すべきだと思われます.Volley(打ち返す)する競技ですから(笑)
ボールゲームなのですから,ボールと友達になるのが重要です.過剰な外部からの関与があると,ボールと友達になれないかも...です.
以上,今,見えていることを書いてみました.
※注1
三村泰成,
身体を用いたボールヒットにおける撃心についての検討,
スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス 2017(講演論文集USBメモリ),(2017.11.9-11.11).