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車いすで巡る筑波山地域ジオパークと自然災害 筑波山2-4 身障者優先展望台からの眺め・地盤と地震災害

身障者優先展望台からの眺め

 身障者優先展望台の標高は、およそ840m。関東平野を一望できます。天気が良く、霞がかかっていなければ、東京スカイツリーや新宿の超高層ビル群、遠くは富士山も見えます。吹きさらしなので、特に冬場は、服装に注意してください。

筑波山(身障者優先展望台)の位置と関東平野
霞ケ浦と土浦
つくば三井ビルとつくばエキスポセンター
東京スカイツリー・東京タワー・新宿.超高層ビル群
富士山

関東平野の形成過程

 眼下に広がる関東平野の面積は四国の面積に匹敵します。この広い関東平野は、どのようにしてできたのでしょうか。
 気温が高い「間氷期」には、地球上の氷が融けて、海水面が上昇します。一方、気温が低い「氷期」には、地球上の水が氷になるので、海水面が低下します。関東平野は、氷期・間氷期に伴う海水面の上下変動を反映して形成されました。

A.最終間氷期最盛期(約12万年前)

 第四紀(260万年前~現在)、海の底だった関東に周囲の山地から大量の砂や泥が流入し、海底は海面の近くまで到達しました。また、第四紀には、氷期と間氷期とが交互に繰り返され、世界的な海面の低下と上昇が繰り返し起こりました。海面変化は小さくないため、海面の低下期には、関東平野は陸化し、海面の上昇期には、関東平野は広く海湾になりました。そして、約12万年前の最終間氷期最盛期には、海面が上昇して古東京湾とよばれる浅海が広範囲に広がり、当時の海岸線は筑波山麓に達していました。最終間氷期最盛期の気温は現在と同程度かやや温暖で、海面は現在より6~9m高かったと考えられています。

最終間氷期最盛期(約12万年前)

B.最終氷期最盛期(約2万年前)

 最終間氷期最盛期以降、気温が低下し、海水面が低下すると、浅海の海底面は平坦な陸地となり、その上には偏西風によって運ばれた富士などの火山灰や黄砂などが堆積しました。これを関東ローム層と言います。
 約2万年前は最終氷期の最盛期にあたります。その頃の気温は、現在よりも約7℃低く、海水面は現在よりも約120m低くなったので、現在の東京湾は陸地となり、古東京川が流れていました。そして、平坦な陸地には川が流れ、谷が刻まれました。

最終氷期最盛期(約2万年前)

C.縄文海進最盛期(約6000年前)

 最終氷期以降、気候の温暖化により海水面は上昇し、約6000年前、海水面の上昇はピークに達しました。この海水面の上昇を縄文海進と呼んでいます。その頃の気温は現在よりも約2℃高く、海水面は現在よりも約5m高くなりました。すると、氷期にできた谷に沿って内陸部まで海が進入し、細長い内湾が形成され、当時の海岸線には貝塚(古代人が捨てた貝殻などが堆積した遺跡)が形成されました。また、海水が浸入した谷には、泥や砂からなる地層が堆積し、これを、沖積層と呼んでいます。

縄文海進最盛期(約6000年前)

D.現在

 縄文海進最盛期以降、海水面は徐々に低下し、現在の海岸線になりました。関東ローム層に覆われた平坦面は台地になり、沖積層が堆積したところは干上がり、低地となりました。そして、水が残ったところには湖沼(霞ケ浦など)が形成されました。

現在

関東平野の形成過程の参考文献

貝塚爽平(1993):第1章 東京湾の生い立ち・古東京湾から東京湾へ.貝塚爽平編 東京湾の地形・地質と水 築地書館,1-19.
貝塚爽平(1995):2.12日本最大の盆地ー関東平野.貝塚爽平・成瀬 洋・太田陽子・小池一之著 日本の平野と海岸 岩波書店,145-165.
貝塚爽平(2011):東京の自然史.講談社学術文庫,327p.
産業技術総合研究所 地質情報研究部門(2010):関東平野の成立(地表構造). (http://watasumu.web.fc2.com/05ShizenKa/100730_Kanto02Taiseki.pdf)

つくば市の地形と地質

つくば市の地形 地理院地図・地形分類に河川などを加筆
つくば市の地形と地質 つくば市・揺れやすさマップに加筆

 つくば市周辺の地形は、大きく3つに区分されます。桜川や鬼怒・小貝川などの河川沿いに分布する低地、つくば市のほとんどを占める台地、筑波山周辺の山地です。そして、低地には大変軟弱な泥や砂などの沖積層が、台地には関東ローム層とその下にやや軟らかい砂や泥の地層が、山地には硬い花崗岩などの岩盤が分布しています。

地形・地質と地震の揺れとの関係

 山地、台地、低地のうち、地震による災害が発生しやすいのは低地です。低地に分布する泥や砂などの沖積層はたいへん軟弱なため、地震波が増幅され、地震による揺れが大きくなりやすいのです。
 軟弱な地盤中では、地震波の速度が遅くなります。しかし、地震波のエネルギーは変わらないので、速度が遅くなった分、揺れを大きくして、地震波のエネルギーを一定に保とうとします。これが、軟弱な地盤が良く揺れる理由です。皿の上に置いたプリンがプルプルと揺れるイメージです。軟弱な地盤にあたるのがプリンです。

軟弱な地盤がよく揺れるイメージ illustACの画像を加工

 下の図に示すように、山地が最も揺れにくく、台地は比較的揺れにくく、低地が最も揺れやすいのです。

地盤の地震波増幅のイメージ

 このことを踏まえて、つくば市が発行した揺れやすさマップを見てみましょう。

つくば市の地形と揺れやすさマップとの比較 地理院地図・地形分類とつくば市揺れやすさマップに河川などを加筆

 つくば市の揺れやすさマップを見ると、揺れの強い赤やオレンジのエリアは、小貝川沿い、西谷田川の下流沿い、谷田川の下流沿い、花室川沿いの低地に分布しているのがわかります。また、地形分類図と比較すると、揺れの強いエリアは、おおむね低地と一致しています。また、筑波山周辺の山地では、揺れが弱い地域が広がっています。なお、桜川沿いに顕著な揺れの強いエリアが認められないのは、桜川沿いでは軟弱な沖積層が薄く、筑波山の花崗岩などの岩盤が表層近くまで分布するためと考えられます。

 また、軟弱な地盤が分布する低地では、地震時に液状化が発生する可能性があります。液状化の仕組みは以下の通りです。

液状化の仕組み

 液状化が発生する地盤条件は、よく締まっていない、地下水を多く含む、粒のそろった砂です。このような地盤は低地に分布しています。

 下に茨城県による液状化危険度分布図を示します。

つくば市の地形と液状化危険度分布図との比較 地理院地図・地形分類と茨城県液状化危険度分布図に河川などを加筆

 地形分類図と液状化危険度分布図とを比較すると、河川沿い・低地沿いに液状化の可能性があるエリアが分布していることがわかります。
 私が住んでいる森の里団地の位置を液状化危険度分布図に示しています。森の里団地は谷田川沿いに位置しています。森の里団地が液状化する可能性は「ややあり」です。2011年の東北地方太平洋沖地震の際には、私の家の庭でも液状化が発生し、水道管が壊れました。

東北地方太平洋沖地震の際に発生した液状化

 お読みくださった皆様、ありがとうございました。次回は、筑波山頂(女体山頂)付近の岩石を観察したいと思います。よろしくお願いいたします。

参考文献など 

茨城県.茨城県地震被害想定調査詳細報告書 Ⅱ自然現象の予測について 2.液状化の可能性について.(参照日2023年3月7日)

海上保安庁.海しる(海洋状況表示システム) 地形地質 等深線.(参照日2023年3月7日)

国土交通省.重ねるハザードマップ 災害リスク情報 都道府県液状化危険度分布図 茨城県.(参照日2023年3月7日)

国土地理院.地理院地図 土地の成り立ち土地利用 地形分類(自然地形).(参照日2023年3月7日)

産業技術総合研究所地質調査総合センター.浸水シミュレーション.(参照日2023年3月7日

政府 地震調査研究推進本部.防災減災のための素材集.(参照日2023年3月7日)

つくば市.つくば市地震防災マップ①揺れやすさマップ.(参照日2023年3月7日)

つくば市.つくば市都市計画マップ 地震防災 揺れやすさマップ.(参照日2023年3月7日)



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