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蘇州の思い出③

 蘇州にも、スターバックスコーヒーの店舗がたくさんあった。中国語が話せない私にとって英語のメニューはありがたかったし、店員さんの接客もスタバらしく、やや親切だった。なんとか指差しで注文して、受け取る時にはちょっと緊張したが、何度も店舗を利用した。

 当時、日本から仕事を依頼してくれる人が何人かいて、ノートPCを広げてスタバで仕事をした。とても心が休まる時間だった。仕事量はあまりなかったけれど、いつも一人ぼっちだった私は日本の仕事とつながっていることで救われ、また日本でも馴染みのあるスタバで作業することで、さらに幸せな時間になった。
 ドリンクの味も日本と変わらず、何より蘇州で美味しいスイーツを食べようと思ったら、スタバしかなかった(しかし、上海まで足をのばせば、スタバ以外でも美味しいケーキを食べることができた)。
 
 もう記憶もおぼろげだが、セルフで紙ナプキンなどを使えるコーナーには、「必要以上にとらないで」みたいな注意書きがあった気がする。日本のスタバでは見たことがなかったので、面白かった。また、飲食後の食器を片づけない人も多く、店員が大きなカゴを持って回収していた。

 中国の人はゴミをそこらへんに捨てるけれど、それは清掃を生業とする人がいるからだ、という話を聞いた。ゴミを捨てなければ、その人たちの仕事を奪ってしまうと。
 路上で物乞いをしている人も多く見かけたが、驚いたのは、若い人が当たり前のようにお金を恵んでいたことだ。物乞いをする人は、ボロボロの服の下に新品のシャツを着ていたとかいう話もあるし、胡弓を演奏していると見せかけて、実はラジカセからその曲が流れていたこともあった(これには笑ってしまった)。寝たきりの状態でいつも駅構内のど真ん中にいる人もいたが、しかし、毎日その人を駅まで運んでくるのは誰なのだ? まさか歩いてやって来るの?
 中国にいると「人間て面白いな」と思わされるし、自然と用心深くなる。食品の安全性や身の回りの衛生面、何事にも疑ってかからなければならない生活の中で、世界基準のクオリティが守られたスタバは、そういう意味でもオアシスだった。

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