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養魚秘録『海を拓く安戸池』(24)~終戦~

野網 和三郎 著

〈注意事項〉
・文章、写真の説明文(キャプション)などは明らかな誤字脱字を除き、原文の通りとしております。ただし、著者略歴については、西暦を加筆、死去された年に関する記述を追加しました。
・敬称は原文に即して省略させていただきました。
・現在では差別的表現として、みなと新聞で使用していない表現についても、原文の表記をそのまま記載しております。あらかじめご了承ください。
・本書原本の貸与や販売は在庫がないため行っておりません。ご了承ください。

(24)~終戦~

 父という大木が倒れると、風も嵐も一束飛びに小木にふりかかってくる。次兄も徴用から帰っていた。長兄と三人での父なき後の奮闘が続けられた。それでも航空隊に対する食料の納入は順調に運び、沖の漁もまずまずで、多忙の毎日が続いた。

  そうこうしているうちにもあちこちから耳にするところでは、京都、奈良、熱海以外の関東以西のめぼしい都市は、全部空襲で灰燼となった。米国太平洋艦隊は沖縄を占領後、日本の全海域を包囲し、艦砲射撃は空爆とともに益々はげしさを増大し、米軍の本土上陸作戦は目前に迫っている、とこうなってくると若い兵隊達は血が逆上してくるのか、仕事が手につかない。それをなだめすかして漁に出す苦労は、これまたひとしおであったが、ついに米、英、シナ三国は、七月中旬日本をして無条件降伏を勧告するポツダム宣言が発表される段階となっては、にわかに巷間職場はざわめきを起し、それを制止する国家総動員法の力は、国からも県からも、町村からも、いつとはなく消え失せていた。

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