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養魚秘録『海を拓く安戸池』(26)~統制解除~

野網 和三郎 著

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(26)~統制解除~

 GHQによる食料贈与が、くまなく日本全土に行きわたり、ようやく飢餓から救われた国民は、等しく安堵の胸をなでおろし、荒れた焦土にはトタン葺のバラックが建ち、米軍払下げの衣料が支給され、形ばかりの衣食住が叶えられると、勤勉な国民性は、みなそれぞれの自活の道を開拓して行った。

  手馴れたもとの職業を始めたものもあり、手に職を持たないものは闇屋を始めたものもあったろう。世は代用品時代の様相を呈し、何の抵抗も感じなかったのも不思議である。軍人をはじめ、外地からの引揚者もようやく一段落をつげる頃となって、人心も落ちつきを見せてくる。

  農地改革によって、地主から貰った田畑を、農民は自分のものとして、懸命に鍬を入れ、化学肥料の台頭も手伝って、生産意欲は凄まじく、米麦、野菜、果樹などは、すばやく戦前のそれに復帰し、家畜の如きは新らしく勃発した朝鮮戦争による米進駐軍の需要とも重なり、めざましい増産ぶりを示してきた。

  こうなってくると、生鮮食料品の価格統制ならびに配給制度は、やたらに闇屋を助長する素因ともなるので、政府は時機至れりとして、米麦を残して、その他生活必需物資の統制を解除したのであった。ところがインフレとのみ見ていたものが、デフレの結果を示して、食料品は次第に値下りし、自然と需給の調整が行なわれ、国民の食生活は始めて十年前の昔にかえることができた。

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