養魚秘録『海を拓く安戸池』(17)~皇族の訪問~
野網 和三郎 著
(17)~皇族の訪問~
室戸台風の翌十年、八月十日には、澄宮殿下(三笠宮殿下)の台臨を受けたのである。かん水養魚事業が漸く世間の耳目を引き、政府においても、冷蔵庫補助、区画柵に対する奨励金交付などの処置がとられるといったことから、安戸池に対する認識がようやく高まりかけた頃でもあって、宮殿下の四国地方巡視の日程の中に、安戸池訪問が発表されたのは、三カ月も前であった。
天皇直系の宮様が訪問されるということで、国からは県、県からは受入れ準備などについて、町、町議会、在郷軍人会、消防団、青年団などに対しても、次から次へと指示がなされ、受入れ態勢は全町あげてのもので、まず狭い道路の拡張整備から始めなければならず、その他はおして知るべしで、まったくてんやわんやのものであった。