見出し画像

LGBT法案の話

首相秘書官の問題発言をきっかけに、LGBT法案の再提出の機運が盛り上がっています。

これに関連して、「LGBT法案が可決すれば、”自称女性”と言い張る変態男が、猥褻目的で女性専用の公共施設や、更衣室等に入ることが可能になります」「女性の皆様はどうか身の安全のためにもLGBT推進法に反対してください」というツイートがTwitterで盛り上がっているようです。

率直に言って、極端な例を持ち出して人の行動を煽る、卑劣なやり方だなと思いました。

でも一方で、そう言われると反対したほうがいいって思ってしまう人がたくさんいるという事実は、まだまだこの法案がどういうものなのか理解されてないことを示していて、なるほどやはりこれは難しい問題なんだなあと思いました。実際身近に交流している方からも不安の声を頂いていたので、僭越ながら説明してみます。

どういう法案なの?

前提としてこの法律は、女性専用の公共施設の取り扱いが変わるようなものじゃないし、LGBTの人たちに対する差別を禁止することも(たぶん)出来ないと思います。

どういうことなのかわかっていただくために、この法律がどんな流れを辿っているかを説明させてください。

いま再提出されようとしているLGBT法案は、正式名称「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律」といって、2021年(オリンピックの前の年)に提出されました。
んで、「自民党保守派の反対で提出が見送られ」ました。

保守派の反対って「人間には男女の二種類しかいない!性的少数者への配慮など必要ない!」って頑迷な長老みたいな人たちが反対したイメージがあるじゃないですか。そんなのが多数派を占める自民党と日本、なんて遅れた国なんだ…

でもそういう話じゃなくてですね

「差別は許されない」という文言に強い懸念を示す意見が相次いだ。

「行き過ぎた運動や訴訟につながるのではないか」
「自分は女性だと主張する男性が、女湯に入ることを要求するようなケースが生じかねない」

「差別は許されない」はダメ?LGBT法案に揺れた自民党

いまTwitterで言ってる話そのものです!

法案に反対した保守派の議員さんというのは、LGBTの存在を認めない頑迷な長老みたいな人ではなくて、いまTwitterで言われているような訴訟の乱発とか、女湯入浴問題について懸念している人たちなのです。

わたしが「LGBTの人たちに対する差別を禁止することも(たぶん)出来ないと思います」といったのはそういう理由で、前回の法案がそうやって後退したので、今回出す法案で「差別の禁止」とか到底書けないだろうなあ、と思うからです。

なので今回の法案で、「”自称女性”と言い張る変態男が、猥褻目的で女性専用の公共施設や、更衣室等に入ることが可能になります」なんてことは当然ありません。まともなトランスジェンダーの人の権利すら認められないのだから、そうじゃない人が立ち入ることが認められるとかありえないのです

LGBT法案って何するものなの?

じゃあ、今通そうとしているLGBT法案って何のためのものなのでしょう?差別の禁止もしないで一体何をするのさ?

これを説明するために、もう一つ歴史的経緯を説明させてください。

LGBTに関する法案は、自民党が出す前に野党から提出されたことがあって、「差別禁止法案」として呼ばれています。

これに対して、その内容だと「女性を自認する男性が女性の風呂に入るのを否定したら、差別になるのか」「差別禁止となれば、逆に社会が分断する」というようなことを懸念して自民党が作ったのが、「理解増進法案」です。

なので、LGBT関係者の間では、ぶっちゃけ自民党案に対する評価は低いです。差別の禁止なんて当たり前のことなのになんでそれすら入らないのさ?同性婚も認めてよ?

野党としても、それくらい当たり前のことだから入れるべきでしょ、と要求しています。

だけど、今回のTwitterの反応見てると、そこまで一気に行くのは厳しそう…

「LGBTの人たちと、自称そう名乗る犯罪者をどうやって区別するの?」「女性専用施設への立ち入りを認めなきゃいけないの?」
そういう声に対して、みんなが納得できるルールを提案できる状況にないと思うのですよね。

で、じゃあ自民党がだしている理解推進法(今回提出される案のベースになるもの)がどういうものかというと、「何が差別なのかわかんないから、差別禁止とは言わないです。でもとりあえず、困っている人がいることを認めよう」というものです。

LGBT理解増進法とは

実質何もしてないように見えますが、「性的指向又は性自認を理由とする差別の解消等の推進に関する基本方針を策定」します。そして、施行後3年を目途に検討・所要の見直しをすることになっています。

わかりやすく言えば、「正直まだどうしていいかわからないけど、これから三年かけて案を出します」ということを約束する法案なのです。

先にも書きましたが、関係者の方からは評判悪いです。現に苦しい思いをしているのに、実質何もしてくれない法案なので。

それでも、今みたいに、「LGBTなんてその人の気分でしょ」「そんな問題は存在しない」と言っている現状から、「少なくとも問題が存在する。どうしたらいいのかはこれから考えます」というところまで前進するのです。

ここまで慎重にやろうとしている法案に対して、「LGBT法案が可決すれば、”自称女性”と言い張る変態男が、猥褻目的で女性専用の公共施設や、更衣室等に入ることが可能になるから反対してください」っていうのは、あまりにも経緯を無視していると思いませんか?

差別みたいに言われる空気の正体

LGBT法案については資料をもとにしてできるだけ客観的に説明したつもりだったのですが、ここからはわたしの個人的な見解です。

今回「法案に反対しましょう」という声に応じた人の中で多かったのが、「反対するといっただけで差別主義者みたいに言われる空気が嫌だ」という声だったのですよね。

今回のツイートがまさにそうなのですが、Twitterをはじめ現代のSNSは、短いキャッチフレーズやセンセーショナルな情報が注目を集めやすい傾向があります。

存在を知らない性的少数者の辛さについて丁寧に説明するよりも、「変質者が女風呂に入れるようになります」みたいな危機感を煽る言動のほうが簡単に通ってしまうのです。

それは別に誰かが悪いわけではなくて、忙しい現代そうなってしまう構造的なものなのですが。

その状況の中で、SNSの時代にあったやり方で反論するにはどうしたらいいでしょう?簡単なやり方が「それは差別だ」というレッテル貼りをすることです。

そんなことをしたって反対意見が消えてなくなるわけじゃないのですが、とはいえ、こうやって長い記事を書いたって読んでくれる人はほとんどいないのだから、そういう手段を取ってしまう人がいることは止められない…

こうして、多数派は気軽に扇動ツイートに乗って、少数派はそれにたいして「差別だ」「ヘイトスピーチだ」と端的な反論を繰り返して。
あと議員さんに働きかけたり、海外の団体から圧力をかけてもらって…

そうして、当事者以外は問題を理解しようとしないし、当事者の人は直接説明しないで飛び道具を飛ばし続けた結果が今の状況なのではないかなと。

わたしとしては、この状況は悲しすぎるなと思ったので、気合を入れてこの記事を書きました。こんな事したって読んでくれる人がほとんどいないことは知っているのですが、それでも一人二人読んでくださって、これがどういう問題なのかな、ということを考えてくださると嬉しいです🙏

追記

今回の法案の趣旨はわかったよ?でも法案が通ったら議論がスタートするのでしょ?そしたらいずれ、自称女性が女湯に入ってくるようになるんじゃないの?

たぶんそうはならないと思うんですけどね。

上で述べたとおり、問題をどう解決したらいいかは全く合意が取れてないから、これから議論しましょうという状況です。
その状況の中で、これだけ強く女性専用施設について懸念している人がたくさんいるのに、性自認に基づいて利用できるなんて無茶な話は通せないでしょ…

とはいえ、だから反対して何もさせなきゃいいということにはなってほしくないので、一緒にどうすればいいか考えて欲しい、というのがホントのところです。でも、そう言ったって話は進まないのだろうなあ。みんな政治に案出して通るとか思ってないもんなあ。

なのでわたしが個人的に思う、「こうしたらいいんじゃないかな案」を書いてみようと思います。さすがにこの記事は長くなりすぎたので、別記事にさせてくださいませ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?