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毛量の多い男

大柄な青年だった。

20代後半だろうか、一重の目が凛々しい。着古したブラックジーンズは弾力ある太腿で盛り上がり、肩幅はがっしりして逞しく、ワイルドな雰囲気だ。その肥大化した筋肉は堅さと重量が感じられ、女性客の多いカフェの中で浮いていた。

大きめのコーヒーカップも、彼の手に包まれると小さく見える。ハンドルを掴む太い指節から手背にかけて覆う密度の濃い毛は、パーカーの袖口から覗く腕まで黒々と連なり生えているようだ。
剛質な肉体は雄々しい魅力に満ちている。

カップに浅くつけた厚い唇。その口許から顎、顎から頬にかけた直毛の髭のつながりが猛獣のように見えた。髪はサイドを刈り上げているが、トップは長めで緩いパーマがかかっている。
毛量の多い男だと思った。

熱い飲み物が苦手なのか、彼は湯気のたつコーヒーに息を吹きかけ、唇をカップにつけては離しを繰り返していた。使用済みの3つのガムシロップは、乱雑にトレイの上に転がっている。彼の舌もまた甘みを帯びているのだろうか。

「待たせてごめんね」

背後からかけられた若い女性の声に、つまらなさそうにしていた彼の目がぱっと輝いた。
白シャツのトップスに淡い桃色のフレアスカート、清楚を絵に描いたような華奢な女性が対面に座る。
彼の「遅いよ」となじる声は低いが、親密さがにじむ。彼女を見つめる瞳は優しく、柔らかな表情は、大切な人を前にした喜びに満ちているように見えた。

聞こえてきた会話からは、二人は交際して間もないものの、お互いを想い合っていることが窺えた。彼は彼女よりも少し年下らしい。営業職の辛さを語る彼の口調は幼く、彼女は温かなアドバイスを添えている。

だが彼女の白く小さな手が、ごつごつした骨太で毛深い彼の手に包まれた瞬間、沈黙が訪れた。
彼の射貫くような鋭い雄獣の目が、彼女を捕えていた。

邪推だろうか。屈強な男からは華奢な女を強い力で組み敷いて、食り喰らいたいという欲望が透けて見える気がした。これからあの白い肌の女は、猛々しい剛毛の男に淫らに犯されるのだろうか。

彼女の手を握って立ち上がった彼は、勃起していた。

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