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宮崎がひなたフェスを受け入れる理由【ひなたフェスは世界を変えられるか?その2】

どうも。日常が忙しく日向坂は情報過多でてんてこ舞いになっているみなと4648です。ひなたフェスを考える連載の2回目となる今回は、宮崎がなぜひなたフェスを受け入れるのか、その理由を考察します。

前回の記事はこちら→


宮崎は情でフェスを受け入れた訳ではない

前回宮崎はひなたフェスがポストコロナ・オーバーツーリズム時代の観光の起爆剤としての期待を持ってこの前例のないイベントを受け入れたのだと言及しました。
その具体的な狙いとして、年間を通した観光需要の平準化、観光業の「稼ぐ力」の向上、シティプロモーションや「持続可能な観光」の先進事例の仲間入りの4つがあるのではないかというのが私の見立てです。

前回掲載した図を流用

今回は宮崎市の行政資料を参考に、この4つの見立ての妥当性を検証しその他の狙いについても考察していきます。

宮崎市の観光の現状

宮崎市は毎年観光統計を公表しています。まずはこれをもとに、宮崎市の観光の現状を確認していきます。

下のグラフは、市内の年間観光客数の推移を表したものです。年間観光客数はコロナ禍になる前まで500〜600万人程度で推移しており、県外からの客数を見ると200万人台の中で上下しています。宮崎市の観光者数は横ばい傾向、すなわち現在の観光資源と施策では観光客数が頭打ちであることが明らかです。

「令和4年宮崎市観光統計」より筆者作成

次のグラフはコロナ前の2018年と統計が公表されている最新の2022年で月別の観光客数を示したものです。8月、1月に多くの観光客が訪れている一方で、今回ひなたフェスを開催する9月は6月と並んで来訪者数が少ないことがわかります。

「令和4年宮崎市観光統計」より筆者作成

下の円グラフは令和4年の観光消費額です。これを見ると、宿泊に伴う消費額が大きな割合を占めていることがわかります。当然宿泊すればそれに伴ってかかる交通費や飲食代も増加します。このように、宿泊してもらうことが地域への経済効果を高めるために重要なのです。

「令和4年宮崎市観光統計」より筆者作成

宮崎市の観光の課題

ここまで現状を見てきて、以下のような課題が指摘できるでしょう。

①観光需要が季節により変動している

この課題は宮崎市もひなたフェス開催支援事業の予算で明確に述べているものです。
観光は県外から外貨を獲得するために必要不可欠な産業ではありますが、観光客が集中するといわゆるオーバーツーリズムが発生します。また、季節による需要変動は閑散期における稼働率の低下をもたらします。観光の中核を担う観光施設の付属駐車場・宿泊施設・交通機関といった施設は固定費が高いものであり、簡単に増やしたり減らしたりすることができません。増やしたところで閑散期の稼働率が大幅に低い場合、維持費が無駄にかかるだけで投資に見合うだけの効果が得られません。こうした背景から、最繁忙期の需要を満たすためだけに積極的に設備投資を行うことは多くなく、望ましくもないのです。
そこで、閑散期の観光需要を掘り起こすことで観光需要を平準化し、現在ある設備の稼働率を向上させることでコストを最小限に抑え経済利益を得るという方針を取ることが賢明なのです。

「令和6年度6月補正予算案概要」より。観光閑散期の観光客獲得を重視していることが端的に述べられています

オーバーツーリズムとは
オーバーツーリズム、または観光公害と呼ばれる現象は、観光客の受け入れを大規模に行うことで観光地に生じる経済的・社会的な不利益のことを言います。具体的な例としては以下のようなものが考えられます。
①交通機関や商業施設が観光客により混雑し地域住民の日常生活に支障をきたす
②ゴミや騒音などにより生活環境が悪化する
③自然環境を保護すべき地域において、許可のない立ち入りや人のいない時間の減少などにより自然環境が破壊されたり野生生物の活動に悪影響を及ぼす
④地域の風習や生活習慣を尊重しないことにより観光者と地域住民の間に軋轢が生じる

②観光客あたりの単価を高めたい

オーバーツーリズムによる課題が広く認識されるようになり、単価を安くして観光客をたくさん呼び込むことで稼ぐ観光産業のモデルには限界があることがわかってきました。そこで、観光地は観光客一人当たりの単価を高める方針に舵を切りつつあります。地場産業や伝統工芸の体験・販売にあたって価格設定を見直し、人件費や材料費、技術を次世代に伝えるために必要なコストに見合う価格設定にすることがその一例です。同時に、閑散期に観光客を呼び込むことで今ある設備を最大限に活用することもオーバーツーリズムを避けながら観光業を盛り上げる有効な策の一つです。
また、泊食分離も一つのトレンドです。宿泊施設のチェーン店がスケールメリットを用いて仕入れた食材を用いた料理ではなく、地産地消を徹底している街の飲食店で夕食を食べてもらうことで、地域を支える人たちにより多くの利益を分配することができます。また、宿泊施設にとっても客室の管理に集中できることは、人手不足という現状望ましいことであると言えるでしょう。食事の時間帯は特に忙しい時間帯であり、調理スタッフや案内係などを多く抱えることになるため、実稼働に見合わない人件費がかかっているとみられます。

③積極的なプロモーションにより再び日本有数の観光地へ

一時期、宮崎は「新婚旅行のメッカ」と言われるほど皆に憧れられる観光地でした。しかし今ではその影を見ることはありません。そうした中で、地域の外からお金を得る重要な手段として観光の重要性が増しています。日本有数の観光地へ返り咲くためには、積極的なプロモーションが必要です。日向坂46はおひさまという盤石なファンを持つことから、宣伝効果が高いのではないかと見られたのではないでしょうか。

④観光により地域の持続可能性を高めたい

以上3つを集約するとこれにつきます。人口減少時代、地域内で経済を循環させ街を潤すことはかなり難しくなっています。観光庁の推計によると、定住人口が一人減少する分の消費額を埋め合わせようとするとき、宿泊を伴う国内旅行者を23人呼び込むことが必要だといいます。このように、観光客を呼び込むことが地域経済を支えるために重要なのです。一方で、オーバーツーリズムなどのデメリットを最小限に抑えたい。こうしたとき、閑散期・繁忙期を関係なく集客でき、「推し」の呼びかけによって街に出るよう行動を変えることが期待できるアーティストのイベントを誘致することは有効な手段であると言えるでしょう。

(出典)観光庁「観光を取り巻く現状及び課題等について」

フェスの実施と経済効果

フェスの実施がもたらす経済効果にはいくつか種類があります。

一番わかりやすいのは、おひさまによる消費です。目標とする各日2万5千人という最大キャパが満席となった場合、両日当選者を考慮してもひなたエキスポ来訪者を含めると来場者は5万人を上回ると推定して良いでしょう。これに令和4年の県外からの来訪者の一人当たり消費額である約4万4千円をかけると、22億円になります。ただし、ライブやエキスポ会場での拘束時間を考えると平均的な一人当たり消費額ほど支出をしない可能性が高いと考えられ、これは過大推計と言えるでしょう。そこで、本章の最後に実際のライブ等の事例における経済効果を見てみます。

もう一つが、経済波及効果です。観光産業を担う事業者には交通・観光施設・宿泊施設・飲食店といった観光客が直接利用する施設の事業者だけでなく、彼らを支援する事業者も多く含まれます。例えばホテルのベッドのクリーニング業者や、観光業従事者を支える産業などです。こうした事業者の仕事も増えるので、波及効果は広範囲に及びます。

ある観光者の旅行の計画〜帰宅までを8つの行動に分けるだけでこれだけの人々が関わっているのです。だからこそ今回宮崎市や宮崎市観光協会が旗振り役となって

加えて、プロモーションという側面からの評価もできるでしょう。ひなたフェスに参加できなかったとしても、後日宮崎を観光したり、ふるさと納税で宮崎を選択するおひさまが増えることでしょう。こうした目に見えない効果は測定することが困難ですが、宮崎への経済的な恩返しが一時の関係性を越えれば、持続的に宮崎の収益が向上することは間違いありません。

経済効果はその日その場でわかるものだけではありません

これらを踏まえて、インターネットで公開されているライブにおける経済効果を見てみましょう。

佐賀県は、2日間2公演で1万6千人が来場したB‘zのライブで、県内で合計2億5千万円の消費活動があり、経済波及効果は3億8600万円になると試算しました。また、アイススケートショーについては、2日間3公演で1万6500人が来場し、合計6100万円の消費活動があり、経済波及効果は9380万円だったとしています。佐賀新聞によると、ここでいう経済効果には来場者の消費と主催者によるアルバイトスタッフの雇用や会場設備発注などが含まれるということです。

また、京都府亀岡市は、今年3月に同市で行われた「ももクロ春の一大事2024in亀岡市」による経済波及効果を推計しました。その結果、約3万人の来場者に対し市内消費額は約3億4500万円、経済波及効果はイベント全体の経済波及効果は約8億3,900万円であったとしています。

二つの事例と比べて動員数はひなたフェスの方が大きくなると推定されます。また、亀岡は中心地に近く佐賀も福岡まで移動しやすいため宿泊などは地域外に分散している可能性が高く、ひなたフェスはより県内での宿泊者が多くなると考えられます。このことから、ひなたフェスの開催が宮崎県全体にもたらす経済効果はこれら事例よりも大きくなると推定できるでしょう。これに加えて、プロモーションによる効果は推計されていないため、これらも含めると莫大な額になると想像できます。話題になった宮崎市の補正予算でひなたフェスの助成金は885万円でしたが、いくらSONYが利益を持っていったとしても十分回収可能であると断言できるでしょう。

ナイトタイムエコノミーへの期待

6月21日から23日に放送された「日向坂46時間TV」内の「ひなたフェス対策本部」で、鳥海高太朗氏は「宮崎市の皆様はライブ終了後ニシタチという宮崎市の繁華街でおひさま同士集まって食事をしてほしいと考えている」という趣旨のことをお話しされていました。これは、旧来の旅行では旅館に滞在している時間帯に街にくりだしてもらうことで地域の収益を向上させようというナイトタイムエコノミーの考え方の一つに沿った発言と受け取ることができます。それと同時に、ライブグッズなどアーティストへの消費が中心となりがちな中で、地域にお金を落として欲しいというメッセージでもあります。

MICEを実現するための実験として

こうした狙いに加え、宮崎市にはもう一つ目標があるようです。それが明らかになったのが令和6年度予算のポイントを示したスライドです。「外貨を稼ぐ観光・スポーツ振興」という項目に「MICE・スポーツイベントの誘致・支援」と書かれています。

「令和6年度 宮崎市当初予算案のポイント」より引用。ハイライトは筆者による。

MICEとは、企業等の会議(Meeting)、企業等の行う報奨・研修旅行(インセンティブ旅行)(Incentive Travel)、国際機関・団体、学会等が行う国際会議 (Convention)、展示会・見本市、イベント(Exhibition/Event)の頭文字を使った造語で、これらのビジネスイベントの総称です。

JNTO

JNTOの定義によると、ひなたフェスはMICEの「E」にあたると言えます。宮崎は2027年の国スポ(第81回国民スポーツ大会・第26回全国障害者スポーツ大会)の開催地となることから、その実験を兼ねている可能性もあります。

まとめ

ここまで読んできて宮崎がひなたフェスを受け入れた狙いやその背景について理解を深められましたでしょうか?地域の利益をしたたかに考慮していることがわかると、おひさまとして宮崎にお金を落とすことがひなたフェスの継続的な開催に必要だと認識できるのではないでしょうか。宮崎のため、またひなたフェスの継続的な開催のために、ひなたフェス・おひさまエキスポだけ参加して帰るだけでなく、聖地巡りをしたり夕食を地元の飲食店で食べたりすることを計画に含められないか、もう一度考え直してみましょう!

次回予告

第3回となる次回は「日向坂46のSDGsアクション」について考察します。その背景や内容を解説するとともに、宣言に求められることやおひさまが心がけるべきことについても考えます。

編集後記

初回更新から1ヶ月以上開いた今回、お気づきの通り結構書くのに苦労しました。ひなたフェスの本番まであと1ヶ月を切っていますので、スピードアップして記事をお届けできるように頑張ります。

参考文献

宮崎市「令和4年宮崎市観光統計」https://www.city.miyazaki.miyazaki.jp/fs/7/6/9/1/1/5/_/769115.pdf

宮崎市「令和6年度6月補正予算案概要」
https://www.city.miyazaki.miyazaki.jp/fs/8/0/0/5/0/5/_/800505.pdf

観光庁「観光を取り巻く 現状及び課題等について」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/jizoku_kankochi/kankosangyokakushin/saiseishien/content/001461732.pdf

亀岡市「『ももクロ春の一大事2024 in亀岡市』による経済効果の調査結果 ~たくさんのご来場ありがとうございました~」
https://www.city.kameoka.kyoto.jp/site/momokuro/64493.html

佐賀新聞「アリーナ経済波及効果、B’zライブ3.8億円 佐賀県が試算 県内で宿泊や買い物」
https://www.saga-s.co.jp/articles/-/1063254#goog_rewarded

宮崎市「令和6年度 宮崎市当初予算案のポイント」

https://www.city.miyazaki.miyazaki.jp/fs/7/8/5/1/1/7/_/785117.pdf

日本政府観光局「MICEとは」
https://mice.jnto.go.jp/about-mice/whats-mice.html

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