416号室

入院一日目、希望の個室は用意されず通された416号室。4人部屋。
この前の入院時とは比べ物にならないほどの静けさ。まあ、この静かさだったら4人部屋でもいいか。
時世上、即PCR検査。術前準備以外は極力病室から出ないようにとのこと。
荷物を解いた後、売店で買ってきていたサザエさんを読む。

術後ようやく歩く準備をし始めた隣のベッドの人。
声の感じからすると、わたしよりはだいぶ歳が上だと思う。傷、痛いらしい。
看護師さん廻診が終わると犬が待ってるから頑張って歩かないと。と意欲を話す。
マルチーズちゃんの写真をどうも看護師さんに見せているようだ。
看護師さんが「名前なんて言うんですか?」と尋ねると
「ワクワクちゃん。いつもワクワクしてるのよ〜
早くご飯を作ってあげなければいけないから頑張って歩くわ。」
ああーーー幸せや。隣の人少しでも早く歩けるようになるといいね。
と心の中で静かにエールを送る。

ワクワク主さんのお向かいさんは病衣の上に
ネグリジェのようなガウンを羽織り、おそらくヒールのようなオシャレ靴を履いているマダム。(病棟に似つかわしくないカツカツとした足音がする)
看護師さんに話す時も、わたくしはねとかとても優雅に話をする。
トイレからでて方向転換する時は長いネグリジェのスカート部分を持ち些か闘牛士の赤い布のようにそれをはらりとさせる。
その仕草はおそらく入院生活以前から身についているだろう手慣れたもので視線が奪われるほどそちらも優雅。
ほとんど白くなったロングヘアを靡かせる彼女は病院の食事が合わず独自食らしい。わたし含めて他の人と食事時間が異なるからか食事の時間は寝ている。
轟くほどのいびきをかいて。
新入りのわたしはもちろん挨拶程度しか交わしたことがないが、ギャップ萌えと言う感じである。

わたしのお向かいさんは、とてもとても静か。
カーテンから出ることも、看護師さんが話をしていても声も聞こえない。
むしろ、看護師さん、一人で話をしているのかのような。
天井の光が変わらないからテレビもついていないのかなあ。

誰か人と顔を合わせればどちらかというと、むすっとはできないタチで、
寧ろ、サービス精神旺盛で話を盛り上げよう。気分良くなってもらおう。と
誰も求めていない、金銭も発生しないわたしだけれども
実は、人と話をすることが苦手である。表向きはそんなだから数人にしかわかってもらえないけれど信じられないくらいの人見知りである。
それがバレてしまうのがどうしてか都合が悪いと思ってしまい先手を打ってにこやかに話をする。バレようがどうしようがどうでもいい話なのだけれども。

この静かでカーテンから出ない環境は全く苦ではなく、ただ窓がなくてもちろん
風が当たらないことを除けば根暗のわたしにとっては人と話さないことがとても落ち着いた。

お昼が届いて、午後からのスケジュールを教えていただく。
手術に向けての準備が大詰めとなる。



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