マガジンのカバー画像

太宰治は、二度死んだ

31
太宰治の〈鎌倉心中〉事件を題材とした長編小説(全30話+エピローグ)です。
運営しているクリエイター

記事一覧

『太宰治は、二度死んだ』終章・鎌倉篇(エピローグ)

エピローグ 私、二十二歳。女、十九歳。師走、酷寒の夜半、女はコオトを着たまま、私もマン…

『太宰治は、二度死んだ』終章・鎌倉篇(第30話)

「あっちゃん、ごめんよ」  岩に寝転んだまま、修治さんが言いました。 「なぜ修治さんがあや…

『太宰治は、二度死んだ』終章・鎌倉篇(第29話)

「死ぬかい?」  修治さんが言いました。 「死ぬわ」  わたしは答えました。 「僕と、一緒に…

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第28話)

 わたしは、新橋駅にいました。  先ほど見送った武雄兄と秋乃さんの顔が、瞼を離れませんで…

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第27話)

「修治さん、その恰好どうしたの?」 「どうもしないさ。おかしいかい?」  東京帝大仏文科に…

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第26話)

 結局、お島姐さんがホリウッドに戻ることはありませんでした。  まだ傷も十分に癒えない身…

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第25話)

 人間は哀しい。生きることは、つらい。  そうなのかもしれません。  人生がそういうものであるなら、人はなぜ、生きていかなければならないのでしょうか。  それでも、自分の過去を語った姐さんは、意外にさばさばした顔をしていました。 「なんだかお腹空いちゃったわ。こんな時でもお腹が減るんだから、不思議なものよね」 「姐さん、わたし、どこかで夜泣き蕎麦でも誂えてくるわ」 「うん。じゃあ、お願い」  姐さんは財布を取り出しました。 「いいわよ。それくらいわたしが出すから」 「だめよ、

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第24話)

「莫迦な人。こんなことしたって、どうにもならないのに。本当に、莫迦な人……」  蒲田の難…

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第23話)

 夏がゆき、いつか秋風の立つ季節になっていました。  そんなある日のこと、ホリウッドにや…

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第22話)

   その日、内幸町のアパートへ帰ってから、わたしは豆電球の灯りの下で、『細胞文藝』創刊…

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第21話)

   待つというのは、不思議です。  わたしに支払いの立て替えを頼んだ日を境に、修治さんは…

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第20話)

「ねえ、修治さん」 「なんだい、接吻がうまいあっちゃん」  わたしは修治さんを打つまねをし…

『太宰治は、二度死んだ』第三章・東京篇Ⅱ(第19話)

 その日、修治さんは『幽閉』という短い小説を、わたしに話して聞かせました。  井伏鱒二と…

『太宰治は、二度死んだ』第二章・広島篇(第18話)

   広島第一高等女学校時代に、〝李白〟というあだ名の国語の先生がいらっしゃいました。  なんとなく中国の大人のような風格があり、小太りで、まるでお酒でも召し上がったのではないかと思うくらい、頬などいつもつやつやと血色がよく、またついぞ声を荒げたりすることのない穏やかな先生でした。  わたしたちは皆、この先生が好きだったのですが、好きだと余計揶揄いたくなるのが女学生の悪い癖です。 〝李白〟先生が授業中に『平家物語』の一節などを感に堪えたような面持ちで、朗々と読み上げたりなさっ