猫耳とスティックジャーキー

 あまり整備されていない公園は雑草だらけだった。といっても冬の寒さにほとんどの草は薄茶色に染まり、ところどころ緑が繁っている程度だけれど。でもその整備されてなさや薄茶色のところに、猫たちがたまり場として利用していた。枯草はアスファルトや土よりもきっとぬくい。わたしが座るベンチから見えるところに三匹。入り口のところにキジトラとサビ猫。少し離れた繁みの横に黒猫がいた。
 植えられている木に葉はなく、その向こうに電線と薄い色の空があり、寒空という言葉が似合いそうだったけれど、陽が差して、いくぶん景色は暖色で、冬の隙間の暖かい日といったところだ。
 それでもベンチに座ってのお昼ごはんにはまだ早いかなとも思う。ただ自販機で買ったホットのミルクティが沁みる感じは嫌いではなかった。テリヤキたまごサンドと海老マヨのおにぎり。至福というには遠いけれど、猫がときおり興味深げな視線を向けてくる感じも悪くなかった。
 ぼんやりもぐもぐしていると、白いものが目の端に引っかかった。公園の入り口。とてとてという足音が聞こえてきそう。白のダウンジャケットを着た白の猫耳。まだ幼い。幼女の猫耳。公園に入るとき、たまっている猫たちに挨拶するように、もふもふの耳をぴくんとさせた。
 彼女はベンチにいるわたしを見つけると、一瞬身体を強張らせ、けれど迷い迷いのように歩いてきて、わたしが座っているところの反対側の端に座った。何だろう。餌をねだるように猫耳でない猫が正面に座ることはあるのだけれど、これはちょっと違うようだ。指定席に先に座られていたといったところだろうか。そんなことを考えながら海老マヨおにぎりを頬張る。味海苔おいしい。
 猫耳幼女は耳をぴくんとさせながらジャケットのポケットから薄いパッケージを取り出した。切れ目をぴーっとして開けて、中のスティック状のものを食べ始める。色的にスティックジャーキーだろうか。横目で見るとパッケージには猫耳用と書いてあった。
 一緒にのようにばらばらにのように食事をして、猫耳が先にベンチから立ち上がった。一旦ベンチに向き合うようにしゃがみ込み、それからまたとてとてと音がしそうに入り口のほうに歩いていく。
 彼女がしゃがみ込んでいたところを覗き込むと、そこには小さな花が咲いていた。雑草にしては大きな花で、植えられている感じがした。花のそばにはさっきのスティックジャーキーが添えられていた。
 わたしはテリヤキたまごサンドの残りを口の中に入れ、ミルクティの缶を空にすると立ち上がり、いろいろと考えながら歩き出した。寄生獣で車に轢かれた子犬を木のそばに埋める話があったのを思い出した。
 公園の入り口を通るとき、挨拶のようにキジトラが欠伸をした。軽く手を振って、また少し考えながら歩く。白い猫耳と仲のよかった猫の姿を想像した。スティックジャーキーを食べあったり、もう少し暖かくなってきたときには重なり合うように日向ぼっこをしていたり。
 それから、猫耳用のジャーキーはスーパーなんかで売っているのだろうかとか考える。とりあえず、テリヤキたまごサンドがおいしかったので、また買ってベンチに座ることは何となく決めた。その日が暖かいといいなと思う。

#短編 #猫の日

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