デジタル

月はもうすでに古びたデジタルで、ときおり滲み、囚われの姫である君は囚われの塔の窓からそれを見上げている。君自身もデジタルで、ふとした瞬間にノイズが走る。泥で薄汚れたドレスを着込み、睨みつけるような視線を僕に向ける。カメラなどはないはずなのに、君は的確に僕を見つける。僕もときおり君の前に姿を現し、話しかけたりもする。やあ、元気かい。今何をしてるの? そんな言葉は規定により伝わらないし、もし伝わっていても、ぽかんとされるだけだろう。僕の姿は君にはどう見えているのだろうか。白くぼんやりとした亡霊かもしれない。でもそれでいい。きっとそれが綺麗だ。ふいに君は手を振るう。何もない空間を振り払う。すると僕は歪み、ノイズが強くなる。君自身にもノイズが走る。ここはそうした不安定な場所で……いや、それはどこだってそうなのかもしれない。僕は君に手を伸ばす。振り払われることを思って、ふり払われないことを思って。指先がただ触れる。もしかしたら触れていない。静電気のようにぴりりと痛む。古いデジタルに本当の痛みは知りえない。けれど、君は触れた指先を押さえ、そこに唇を触れさせて、ほっとしたような笑みを浮かべる。まるで人のように。生きているかのように。それがプログラムなのかバグなのかは知りえないのだけれど、嫌いではない。その姿をずっと見つめていたいと思うほどには、嫌いではないよ。

#幻視

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