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終末の過ごし方

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終末を過ごす人たちの日常
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終末の過ごし方3

 ラジオ局の人間とテレビ局の人間とはそれほど接点はない。というのを彼の友人はあまりよくわかっていないのかもしれない。それでも彼は深夜のファミレスで、前に友人からされた提案のことを考えていた。
 彼がいるのは窓際の席で、大通りに面しており、たまにガラス越しの車の音が聞こえる。その少し遠い車の音の感触を、なにより愛しているらしいことを、彼はおぼろげに気づき始めていた。メインの仕事でやっている深夜ラジオ

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終末の過ごし方2

 老夫婦はそのことを新聞で知った。お互いに顔を見合わせて、何とも言えない表情で、しかし「老い先短いしな」などの言葉で気持ちに折り合いをつけたのだった。
 その朝、彼はいつものように食卓で新聞を広げていた。新聞を取っていない家も多いと聞く。老眼で文字が追いにくくなっていた彼も、このまま新聞を取り続けるかどうかを迷っていたところだ。
 ルーペを使って文字を拡大しながら、彼は他のことを気にかけていていた

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終末の過ごし方1

 肉じゃがを作る。台所の窓からオレンジに染まりかけた日が差し込んでいる。ジャガイモ人参牛肉糸こんにゃく。出汁醤油と味醂とお酒と砂糖と。キヌサヤがあればよかったのだけれど、あいにくと買ってくるのを忘れた。
 点けっぱなしのテレビが、今がどういう状況なのかを伝えている。台風のときのレポーターを思わせる様子だけれど、雨合羽は着ていない。煽るような焦らせるような言葉が響く中で、でもわたしは妙に落ち着いた気

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