知らない背中

愛されても、愛せなければ意味がなかった。
必死にかき集めても埋まらない空虚な心が痛い。

全部誤魔化して生きてきた癖に思ってもないことを言うのが今更こんなにも苦しいのならば、私の20年間は本当に無駄だった。けれども今更綺麗に生きられるわけも無く、本音の中で1番当たり障りのない気持ちを探してみる。

愛の言葉ひとつ口から出るたび、愛の行為ひとつ手を伸ばすたびに自分自身が摩耗していくのを感じた。目が合うことすら耐えられなくて、背中が好きだと言ってみた。
こんなに空っぽなのは初めてだった。

目の前の男が言う「大丈夫だよ。」に無性にイライラした。愛って一方的だとこんなに押しつけがましいものなのか。思わず出かけた嫌な言葉を喉に押し込んだ。

たしかに愛せる希望はあったのに、1歩踏み込むと全てが違った。

貴方はきっと、私の過去と選択を許容してくれている。けれど私が求めているのは尊重で、許容はとても窮屈だ。

唇が触れ合った瞬間、全てに気づいてしまって震えた。

嗚呼、散々時間を重ねておいて、ここに来るまで気づけなくてごめんなさい。
期待させてしまって、ごめんなさい。

今すぐにでも伝えるべき言葉は充分すぎるくらい分かっていたのに、どうしようもない私の弱さは、その場しのぎの貴方を喜ばせる言葉だけを声にした。



道路上 風に揺れる大きな水たまりが波打つのを見たとき、たまらなく生を感じて涙が出てきた。
あの水たまりは私よりよっぽど生きていた。

空っぽのフチに残った自分の本当の気持ちに気づいた時には、手遅れで窮屈な現実と、決して穴に嵌ることの無い愛に似た何かだけが残っていた。

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