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【読書日記】古本屋で買った「一号線を北上せよ」に、急に出てくるドナルド・トランプ

「一号線を北上せよ」


ベトナムでフォーを食べたくなって、食堂でとなりのおじさんが食べている肉入りフォーを指さす。店員やおじさんが笑顔で、これがうまいぞ、とすすめてくれて、数少ない知っている言葉で感謝を伝える。

それぐらいの、なんでもない食や出会いがていねいに書かれている。いっぽ踏み出せば、自分にもこれぐらいの出来事はあるんじゃないか、と思えるくらいの出来事が落ち着いた文章で記されている。

ネットのない時代の、人と人の付き合いがうらやましい。言葉がわからなければ身振り手振りを使うし、写真を送りあったりする。
他の欧米の旅行者がナースだと聞いて、
「海外では男性もナースというのかもしれない」
の一文だけでも新鮮。そのころは「看護婦さん」と言っていた。
今とは言葉も違うし、それきり調べたりしない。

ベトナム。フランス。
ロバート・キャパの足跡をたどったあと、ラスベガス編でアメリカ最大のショウを観賞。

午後七時半、ようやく暮れはじめた春の夜空の下で、ボード・ウィーク沿いのカジノのネオンがいくらか輝きを増しはじめます

この一文から始まり、世界一強い男を決める、ホリフォールド対フォアマンというボクシングのヘビー級タイトルマッチを観戦するのだ。
試合前に主催者の紹介があるのだが、そこで、それまで見えなかった最前列に座っている人物がコールされる。

ジーン・ハックマン。
デニス・ホッパー。
ケビン・コスナー。
アーノルド・シュワルツネッガー。
ブルース・ウィリス。
ミスターT。
ドナルド・トランプ。

え!!何このメンバー!!

戦いに向かうボクサーの精神面とか、若い挑戦者を迎えるボクサーとしてはピークをすぎたフォアマン選手の表情を描写していたのに、
リングサイドにこのメンツが並んでいます、と書いた時点でちょっと空気が変わる。
人名が並んだだけなのに、名前の力が強すぎる。1991年のことだ。

この古本を手に取ったのが数年前だったら、最後にコールされたトランプという人が誰かはわからなかった。最後だけ知らない関係者の名前があるなーって。たまたま今読んだから「このメンバーが同じ空間にいたんだ」と驚ける。そういう縁。
こういうことがあるから、あまり行かなくなったけど古本屋が好き。

読んでくれてありがとうございます。 これを書いている2020年6月13日の南光裕からお礼を言います。