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第18回「余命1年」

 「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり」。50歳で手前で、ふと織田信長が好んだと言われる幸若舞「敦盛」の一部を思い出すのですが、調べてみると、この時代に生きた人々の平均寿命を表現したものではないようです。
 天界の時間と比べれば、50年の人生など実に儚い、と世を儚む詞だそうで、桶狭間で今川の軍勢と対峙する信長が、「目前の困難など大した問題ではない。全て儚いものにすぎない。」と吟じて、自らを奮い立たせ、仲間を勇気づけたのではないかと、想像させられます。

 確かに、何か困難に出会したとき、視野を広く確保したり、俯瞰して見たりすることで、問題が些細に感じて解決の糸口を見出せることがあるものです。そうでなくともスケールを変えることで、少し楽になることがあります。悩んでいる自分を全否定する必要はなくて、物差しを変えることが、次の一歩への好機にになり、それまでを省みることにも繋がるわけです。
 おそらく信長も目前の大軍に対し、明るく前向きに立ち向かったに違いありません。合戦後の戦国の世がどう変わったは、史実が語る通りですが、ものの見方や心の持ち様が肝心であることを学ばされます。

 幸にして、非常によくしていただいた方々のおかげで、一定のタームで極東の島国を離れ、視点を変える機会をいただいておりました。近時の社会環境のもと、ここ2年程はそのような行動も制限されていましたが、異なる文化や習慣、時間の流れを体感することが、自分の思考にとってどれだけ大切だったのかを、乗り換え待ちのフランクフルトで、久しぶりに実感するのでした。
 長時間のフライトも苦にならないですし、僕は、好んで新しい環境を求めます。変化を嫌う方々もいますが、多くの経験こそが自身をリフレッシュさせてくれる要素だと考えるのは、異なる何かと常に接していたい性分が故なのかもしれません。

 淀んだ空を見ながら、49歳の抱負を胸に、ドイツ語のアナウンスに耳を澄まします。寿命が50年だと思い、この1年を過ごしてみることにしました。儚い時間を大切に誠実に過ごしていきたいものです。
 「人生100年時代」と言われますが、50年も100年も天界の時間と比べれば、まさに五十歩百歩、儚いことに変わりはありません。だからこそ、刹那的になるのではなく、想像力と勇気をもって、全ての一瞬を大切に生きたいものです。天下布武という結果ではなく、生き様が残れば、それが幸せな人生の証になるに違いないでしょう。

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