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秋の音がする

今日は朝から外勤で、昼の2時に職場に向かって歩いていた。太陽はほんの僅かに傾いているが、ほぼ真上。降り注ぐ光はもはや暴力。

日傘の下にいても、あまりの暑さに口呼吸になる。犬が舌を出しているのと同じ効果を、自分の身体が無意識に求めている。
これは絶対に、人間が出歩いていい気候ではない。 

そのへんを見回してみろ、雀の一羽も居ないじゃないか。アブラゼミだって木の陰で鳴いている。そんな真っ昼間に、ギラつく太陽の下を歩いている自分は、生き物として死にに行っているも同然だと思う。

ふと、大量のアブラゼミが耳をつんざく合唱をしている中に、一匹のツクツクボウシが鳴いているのに気づく。

こんなにも暑いのに、もう秋の足音が近づいているのか。
自分の身体は危険なほど汗だくだが、確かにツクツクボウシは鳴いていて、心の中の温度をちょっとだけ下げる。


帰りは夜の9時を回った。嫌になるほど残業続きだ。返すべきメールが視界に入っているが、これ以上粘ったところで脳みそはもう動かないので帰るしかない。

職場の外に出ると、空気が昨日よりぬるい。そういえば、今朝の天気予報は前日比マイナス2度だった気がする。

トボトボと歩いていると、草むらからコオロギの声が聞こえた。聞き間違いかと思って、思わずスマホでコオロギの鳴き声を検索した。再生されたのは、間違いなくさっき聞いた音。

人間がひぃひぃ言いながら通勤している日中も、生き物たちは生死を繰り返しながら着実に時を刻んでいる。

昨日より少しだけぬるい、コオロギが鳴く夜にも、すでに秋が入り込んでいる。

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