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障害者とともに働くなかで見えてきたこと/株式会社西村製作所

南区情報ステーション「みなみなみなみオンライン」は,京都市南区役所が,南区に関わる誰もが南区をもっと知って・学んで・楽しんで・好きになってもらうことを目的に,南区の皆様によるまちづくり活動の紹介,区役所からのお知らせ等を,SNS等を用いて配信するWebサイトです。このnoteでは,まちづくり活動に取り組む方々,地域貢献活動などに取り組む企業・事業者の方への深堀りインタビューを掲載していきます。

京都市営地下鉄十条駅をご利用された方であれば,ご覧になったことがあるであろうこちらの駅名標「NSスリッター 西村製作所前」。

「何をしている会社?」「そもそもスリッターって何?」
そう思われている方も多いかもしれません。

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上鳥羽にある㈱西村製作所は,日本で初めてスリッターを製造した企業で,2021年に創業75周年を迎えました。国内スリッターメーカーではシェアNo.1を誇ります。

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スリッターとは,紙やフィルムなどシート状になったロールを繰り出し,切断し,再びロール状に巻き取る機械のこと。スマートフォンや電気自動車に使われるリチウムイオン電池,ラップフィルム,マスク,おむつなど身の周りの多くの製品を製造する際に不可欠な機械です。

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最近では,電気自動車の急速な普及により,中国やヨーロッパからの受注が急増,昨年度,過去最高利益を記録するなど,今非常に勢いのある企業です。

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一方で同社では,障害のある方を積極的に雇用。従業員133名のうち,精神障害のある男女3名がパート社員として働かれています。2021年1月には,京都府第一号となる「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(通称:もにす認定制度)」の認定企業として選ばれ,注目を集めています。

もにす認定制度とは,障害者の雇用の促進及び雇用の安定に関する取組の実施状況などが優良な中小事業主を,厚生労働大臣が認定する制度(2020年4月創設)。

今回は,同社の障害者雇用の取組についてお話を伺い,多様な「個」を認め合い,共生しながらみんなの笑顔があふれる社会を目指すためのヒントを探りました。

お話をきいた人
岡田 則之(おかだ のりゆき)さん / 常務取締役 兼 総務部部長
尾本 恵美(おもと えみ)さん / 総務部 総務課
吉本 花世(よしもと はなよ)さん / 総務部 総務課

失敗から始まった障害者雇用の実践

同社が初めて障害者雇用を行ったのは2007年。聴覚障害のある方を雇用をしましたが,短期間で退職されてしまったとのこと。当時は障害についての知識や経験がなく,どのような仕事をしてもらうのがよいかや,どのように指導したらよいのかがわからずうまくいかなかったといいます。

その後,障害者雇用に及び腰になっていたところ,2014年に新卒採用などでお世話になっていた京都府が運営する総合就業支援拠点「京都ジョブパーク」から,障害のある方が働くことを体験するための職場実習をお願いできないかという相談があり,「体験だけなら」ということで5日間の受け入れを決めます。

実際に受け入れたのは「統合失調症」を抱えた方でしたが,仕事をするうえではその障害にまったく気付かないほどだったそうです。しっかり挨拶をしたり,真面目に一生懸命働く姿を見た社員の中から「(体験だけで終わらず)雇ってあげてください」という声があがったことも後押しし,結果的に採用を決めるに至ったとのことでした。

障害のある方の雇用で、職場の雰囲気が優しくなった

障害のある社員と接するにつれ,他の社員の変化も生まれました。毎日元気に挨拶をするようになったり,まわりへの優しい気遣いが生まれ,職場の雰囲気が以前よりも優しくなっていったそうです。

ある日,障害のある社員が休憩室で泣いていたことがあったそうです。その際,京都ジョブパークに相談し,担当の精神科医を紹介してもらい,「日によって波があるからそっとしておいてあげて」とアドバイスをもらいました。このことで,会社側が日々どのように接していくことが大切なのかを専門家から学べる環境ができ,会社としての安心にも繋がったとのことでした。

過去の取組では自分たちだけでやっていたことを,いまは何かが起きたときにまわりの専門家へ相談する,早めに頼ることの大切さを知ったと話されていました。

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声のかけあいから,やりがいや離職率に変化も

今では社内でメンタルケアの知識や経験が増えたことにより,互いの仕事を助け合う関係ができ,しんどそうなときに声かけをするようになったとのこと。自分の状況をうまく伝えることが苦手な方でも,ちょっとしんどくて休憩したい場合には「リフレッシュ中」という札を出して,一旦,場を離れることができるようにしました。

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小さなことですが,こうした取組で,働きやすい環境が次第に会社全体に広がり,働きがいを感じる方が増え,離職率が低くなったそうです。つまり,障害のある方の雇用を通じて,会社全体が変わっていったのです。

現在では,毎年「職場実習」の受け入れを行うようになり,今ではその業務を当時採用した従業員が担当してくれているとのことでした。

京都府第一号の「もにす認定制度」認定企業へ

これまでの実績や経験が認められ,2021年1月に「もにす認定制度」の認定企業となり,現在では様々な企業からの視察なども増えているといいます。

視察の際,障害のある方の雇用に関して,障害の特性を理解することはもちろん大切だが,特別扱いをするのではなく,新卒社員と同様に丁寧に時間をかけながら技術指導を行うなど,普通に接することの必要性を伝えておられるとのことでした。
また,障害者雇用を担当している総務の尾本さんからは,自治体の就業支援施設や専門医の方々,社内の現場担当者と情報を共有することの大切さも合わせて伝えられているそうです。

さらにお話を聞いていくと,障害のある方の雇用だけでなく「シルバー人材」や「ベトナム人技能実習生」を積極的に受け入れるなど,これまでにも多様な立場の方たちが働かれているそうで,働きやすい職場づくりに長年取り組まれてきたことがわかりました。

西村製作所の取組を伺って

もにす認定制度の認定企業とお聞きし,特別な取組をされていると予想して伺いましたが,実際には障害の有る無しに関わらずに,社員おひとりおひとりが働きやすく長く働き続けられるように,普段からお互いに挨拶をすることや,丁寧な指導,まわりへの配慮や声かけといった当たり前のことを大事にされてきたことが,認定につながったのだと感じました。

今回のお話をうけ,過剰な気遣いや配慮ではなく,お互いのことを知ろうと寄り添っていくことや,支援者や専門家への相談を行いながら当事者だけではなく,まわりとともに取り組み続けていくことの大切さを学んだ取材になりました。

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株式会社西村製作所
https://www.ns-slitter.co.jp/


京都市の取組について

障害のある方をはじめ,誰もが住み慣れた地域で安心して健やかに暮らせるまちづくりを推進しています。

障害者就労支援
国や京都府,経済団体等と連携して障害のある市民の就労を支えるため「京都市障害者就労支援推進会議」を設置し,福祉施設からの一般就労移行者の増加や福祉的就労の場の底上げ等に努めるとともに,当会議を中心として各種就労支援事業を展開しています。

「障害者雇用促進アドバイザー派遣等支援事業」
本事業では,障害のある人の雇用等の拡大に意欲がある地域企業の皆様が,障害のある人の特性や強みなどを知り,障害のある人・ない人が共に地域社会で働き続ける職場環境を構築できるよう,個別課題に応じたアドバイザーを派遣しています。
https://www.hatarakimahyo.jp/effort/haken/

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南区情報ステーション「みなみなみなみオンライン」
取材/文 まちとしごと総合研究所



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