ヤンキーについての研究を読んで

 
 今回は私が社会学の授業で学んだヤンキーの研究について書こうと思います。
 少し前にご紹介したように社会学が対象とする内容はジェンダー、貧困や格差、過疎化、少子高齢化など様々ですが、その中にヤンキーや暴走族を取り上げて研究しているものがいくつかあります。その中の1つが『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー』という本です。
 この本を通して面白かったことや考えたことを書いていこうと思うのですが、内容に入る前に社会学の研究方法にはどのようなものがあるか少しお伝えします。


 社会学の研究の仕方には、アンケートをとる、対象者にインタビューをする、既存の資料を分析する、参与観察を行うなど目的によって様々な手法があります。その中で参与観察というのは、例えば民俗学で、研究者が未開民族の住む地域に行き、研究対象となる人々のもとで一緒に生活して、彼らの生活、文化、社会などを理解しようとする方法です。フィールドワークを聞いたことがある方もいると思うのですが、参与観察によって実際に現地に出向いて調査をすることで、外部から観察するだけでは見えてこない、新たな発見をすることができます。


 先ほど紹介した『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー』という本では、筆者がある学校のヤンキーグループの中に学習サポーターという係として入り込み、一緒に生活することでヤンキーがどのような過程を経て大人になっていくのか、また社会的地位についていくのかを明らかにしています。


 では、そもそもどうしてヤンキーを研究の対象にしているの?と思いませんでしたか?私は、はじめは確かに自分が知らないヤンキーの生活を知ることができるのは面白いと思いました。ですが、ヤンキーのことを知ることが単に面白いというだけではなく、社会学としてどんな意味があるのか、どうして社会学の研究対象になっているのかとても不思議に思いました。このような状況の中でヤンキーは、あるいは自発的にそうした状況にとどまっている様に見えるという点で重要な存在です。


 その理由に関して本には以下のようなことが書かれていました。1990年代後半から若年層の非正規雇用率・失業率の高まりが社会問題化し、それは「子ども・若者の貧困」問題につながりました。ヤンキーは社会経済的に厳しい状況にいながらもそこから抜け出そうとしない存在であり、彼らを研究することは非正規雇用者の増大、子ども・若者の貧困等の問題が生じる要因が個人にあるのか社会にあるのかという問題を提起するきっかけになるということです。また、社会的再生産の一端を明らかするという目的もあります。
 このようなことを知ってヤンキーについての研究が社会学で扱う貧困や労働の問題との関連もあると思い、社会学でヤンキーを研究することにとても納得しました。ヤンキーである人々の全てが自らヤンキーになっているというわけではなくて、例えば親の非正規労働による安定的ではない収入や家庭環境の悪化が影響しているということは十分ありえるということだと考えました。
 実際の調査の概要について、筆者は大阪府にある生徒数600人程度の公立高校で、調査当時1年生だった14人に約2年半参与観察をしているということです。


 次に本書の中では様々なことが書かれているため、私が驚いたことや印象深かったことを2つ紹介します。
 1つ目はヤンチャな子ら(=ヤンキーの生徒)が教師に対して肯定的な評価をしている点です。ヤンキーというと反学校的ということがすぐに思い浮かびませんか?確かに反学校的な面もあるものの、ヤンキーたちが学校に通えているのは教師たちの存在が大きく、それを彼らも認識したうえで教師たちのことを肯定的に評価していました。その一方で、ヤンキーの多くは生活環境の悪化、少年院や鑑別所への送致など、教師たちの裁量で対処できない出来事が契機となり学校を中退していきます。それでもヤンキーたちの教師に対する評価は変わりませんでした。教師に対する評価が高いということは想像していなかったことで、とても驚き、筆者がヤンキーたちと生活したから分かったことだなと思いました。
また、中には家庭環境の悪化によって学校に通えなくなり、親身になってくれた教師に応えられなかった罪悪感から学校へ行きづらいと語る生徒の事例も載せられています。教師が親身になるほど生徒は罪悪感を強めてしまうというのは、生徒を支えたい教師の思いが裏目に出てしまう難しい問題だと思いました。ヤンキーだけではなく不登校の生徒などにも当てはまりそうだとも思います。


 次にヤンキーらが学校を中退または卒業し、就職していく過程についてです。私たちは一般的に高校卒業が就職において重要だと考えていると思います。確かにヤンチャな子らも高卒は大事だと思っているのですが、高卒の生徒が中退した生徒よりもよい職業について安定した暮らしを送っているかというとそうではありません。彼らの就職過程に大きく影響しているのは社会的ネットワークの重要性です。例えば、比較的安定したネットワークといえる、親戚や友人、地元の友人の母親などから仕事を紹介された生徒らは相対的に安定した仕事に就くことができています。その一方で即興的な関係である、なぜ仲良くなったのか分からない先輩、隣で飲んでいた居酒屋の店長などを経て仕事をするようになった生徒たちは見通しを持ちがたい仕事を転々としています。このような社会的ネットワークは、親の代から地元に住み続けていることで、あるヤンキーは地元の知り合いが多く、その一方で、転々と居住地を変えているヤンキーは知り合いが少ないという例のように、親から譲り受けたものと捉えることもできます。


 私はこれらのことから、生徒やその家庭への支援としてもちろん経済支援は必要だと思いますが、学校において担任の教師とは異なる先生に、困ったことを相談できる場を設けること、相談しづらい人のためにSNSなどを通じて匿名で相談をできる窓口を行政や教育機関が設置すること、学校外に地域の中で高校生の生活の困り事を相談したり、就職相談、仕事を紹介できる場を設けることなどが必要ではないかと思いました。


 最後に今回の著者のような研究を学生の私がしようと思っても現実的にはなかなか難しいことだとは思います。ですが、インタビューをする回数を増やしてできるだけ参与観察のように相手を深く理解できるようにしたいなと考えています。まだ具体的に何を勉強したいというのは決まっていませんが、今回の話に関連する分野で言えば、コロナ禍による不景気の影響を強く受けているのは非正規労働者や派遣の人々であると思います。そのような人々の生活の苦悩や意識を明らかにすることで、少しでも状況を改善できればいいなと考えています。
 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


参考文献:『〈ヤンチャな子ら〉のエスノグラフィー ヤンキーの生活世界を描き出す』知念渉(青弓社)

画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?