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もしもの世界は何を表現していたのか?~ルックバック考察~

ありとあらゆる作品がありますが、私はこのルックバックという作品が今最も好きです。最近映画を観て案の定ベッショベショに泣いてしまったわけですが、Twitter(新X)を拝見していると様々な感想や考察を述べられている人がいました。私は隠されたメッセージから真実を知るというより、なぜこのシーンを描いたのか。といった作者の表現の本質に迫っている考察が好きで、めちゃめちゃ悩みながら書いたのでぜひ読んでいただきたいです。

さて、私が気になったのは お葬式の後、4コマ漫画の切れ端が京本の部屋に入っていく"もしも"の世界です。藤野が暴漢をなぎ倒し、漫画家の藤野と美大生の京本がめぐりあう…「どんな世界線でも二人とも絵を描き続けられるから、二人の絵への情熱は素晴らしいね。」といった解釈もあるとは思うのですが、私は全く違う角度から捉えています。
私はこのシーン

「存在しない全てがうまくいった過去を描くことで、唯一無二の過去を肯定してくれているシーン」

という風に捉えています。詳しく語っていきます。

ルックバックという言葉の意味

タイトルにあるルックバック。ここにはたくさんの意味が込められていて、
「背中を見る」「過去を振り返る」「背景を観る」等、この作品を表現する意味としてはこれらが適当でしょうか。(漫画も映画も背景がとても綺麗なのが非常に印象的でした。)
作品の中でも"背中"はメタファーとして非常に大きな役割を持っています。藤野のサイン、京本が追う藤野の背中、藤野から背を向けて離れていく京本、背を向け夜道を進み漫画を描き続ける藤野。ifの世界が成立してしまうとしたら、この "背中" というメッセージが希薄になってしまうんじゃないかなと感じました。私の気のせいかもしれませんが、if世界ではふたりとも正対しているシーンが多く、背中がほとんど見えません。
また、"Don't look back in anger."  和訳すると" 過去を悔やまないで"となります。あの時漫画を描かなかったifの世界が肯定されてしまうと、描いたことを悔やむことになると思うんです。描いて出会ったからこそ、素敵な作品をたくさん描けた事を、逆説的に示しているのだと思っています。

じゃあ藤野ちゃんはなんで描いてるの?

ifの回想後、藤野は「京本が自分の背中を見てきた痕跡」に触れます。飾られたサイン、窓に貼られた四コマ漫画、いっしょに描いた漫画、そして別々の道を進んだ後の漫画。シャークキックの最新刊まで全て揃っており、京本に支えられていたからこそ今の自分がいることを目の当たりにします。そしてよみがえる京本とのたくさんの思い出。今の自分は京本との出会いなしでは存在しえなかった事を実感し涙を流したのだと思います。
そして、背中を見せたまま一切振り返らずに迎えるラストシーン。あまりにも美しい…。この振り返らずに進み、描き続けるシーンは何を表現しているのでしょうか。私は藤野の決意や強さを比喩しているのだと思っていますが、もっと深掘りすると "京本に自分の背中を見せ続ける" というメッセージが込められているのではないかなと思いました。出会ってから今まで、京本は常に自分を見ていたことを「京本が描いた、藤野テイストの四コマ漫画」を読んだことで強く認識します。適切な言葉が浮かばないのですが、京本のために描く。というよりは、京本が見てくれているから描き続けることができる。という意味のほうがしっくりくるなぁと自分の中で思っています。
過去を見ると、藤野自身小学生の時、一度漫画を描くことからは完全に離れていました。もちろん京本と出会わなくても漫画家として大成していた世界線もあるとは思いますが、ここまで京本が背中を見続けていた藤野を表現されてしまうと、どうしても京本なしで大成する藤野は存在しえないものと思えてしまうんですよね。

終わりに

いかがだったでしょうか。このルックバックという作品はあまりにも多くの背景を有しています。
・藤本タツキ先生の人生
・京都アニメーション放火殺人事件
・Don't look back in anger. (この歌はマンチェスター爆発テロ事件への鎮魂歌として有名です。) 
伝えたいメッセージも数多くあると思いますし、あなた自身のこれまでの人生から伝わるメッセージも千差万別だと思います。
ただこの漫画を追悼の意味を込めた作品としてとらえると、「過去を悔やまないで」というメッセージが強く、作中の犯人の台詞にも強いこだわりを持っていることからも、明確に "京都アニメーション放火殺人" を指しています。3つの背景全てをぶれさせずに、かつ尖らせすぎずに表現しきった藤本タツキ先生はやはり超絶スーパー天才なのだと思います。
少し脱線するのですが映画のエンディングソングとても良かったです。讃美歌のような曲調で、平穏と安らぎを感じました。ますます追悼としての作品色が強まった気がして、いっぱい泣いちゃいましたね…締め方が全然わからないのですがここで締めます。読んでいただきありがとうございました。語りたい人いましたらぜひTwitter(@melancholy_mrst)をよろしくお願いします。


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