映画『It Follows』~わけのわからなさが最高
・『残穢』とは真逆のホラー映画
『残穢』は、不可思議な現象が起こる原因をとことん深堀りして解明していくという、ホラーというよりミステリーに近い映画だ。
霊現象(=証拠)から幽霊(=犯人)を特定してどうする。怪奇現象って意味がわからないから怖いのに。
ホラーにありがちだけど、この世に存在しないユーレイが出てくるからにはいったいそれが生前どんな生き方をし、どんな未練を残しているのか考察して、どうにかその望みを叶えて成仏させてあげようとする。解決してあげたらもう怪現象に悩まされることもなくなるしってことかもしれないがそんな工程見たいかっていったらそうでもない。
まあお祓いっつって無理やり吹き飛ばして終了させるパターンもあるけど。そのお祓いが効くかどうかも、そのユーレイを特定しないと判断が難しい。ユーレイって一口にいっても千差万別なのだから。
でもホラーを見る心理って単純に恐怖を味わいたいからで、ひとは自分の理解を超えた何かに怯えるもの。理路整然としている必要ってないよな、という方向に思いっきり振り切ってくれたのが、この『It Follows』である。
・オープニング
冒頭、何かに追われている様子の少女が一転夜の海岸で家族にお別れの電話をしていたと思ったら、次に明るくなった浜辺に映るのは下半身があり得ない方向に曲げられた姿。真っ赤なハイヒールを履かされていることも恐怖を煽る視覚的効果は絶大で、一気に期待が高まるが、その後物語はわけがわからない方向に。
・登場人物が下品
主人公:ジェイ 結構な尻軽
ジェイの妹:ケリー 姉妹の仲が良くいつも一緒にいるわりに存在感が薄い
幼馴染:ポール ジェイが好きなはずなのに小さい頃妹ともチューしている
隣人:グレッグ イツメンの一人
幼馴染:ヤラ いつも貝殻型のタブレットで「白鯨」を読んでいる。
仲間内で居るときに突然音ありでおならをしたりする。やめろよーってワイワイするんだけど、マジなんなの。知らないけどアメリカって仲間内で平気でブーブーおならしてるものなの?
・STORY
最近付き合ったばかりみたいな男ヒューと映画館に行ったジェイは、幼いときに興じたという近くにいる誰かの真似をして当てるゲームを始める。そこでヒューにしか見えない何かを見てしまったらしいヒューは、怯えて映画も見ずに帰ってしまう。
ジェイ、肉体関係は躊躇しているのかと思いきや、次のデートではもうヒューとカーセックス(あーらら)。その後ヒューにクロロホルムを嗅がされ意識を失う。目覚めたジェイはなぜか車椅子に縛りつけられていた。
え、ヒュー殺人鬼だったの?コワと思いきや、ヒューからは呪いをうつしたことを打ち明けられる。変貌自在の人間の形をした「It」が、呪いに憑かれた者を殺しにくる。ゆっくりと歩き、呪いに憑かれた者以外にはその姿を見ることができず、殺されるとその呪いはその前に追いかけていた者のところに戻る、と。
いや、ヒューこえーよ。ジェイを眠らせてまで車いすに縛り付けること必要だった?
やがて「It」が出現して迫ってくると、ヒューは急いで車を駆りジェイを家の前に放り出して、去ってしまうのだった。
普通に犯罪だよね、これ。
このご丁寧なシチュエーションでのルール説明が、ゲーム開始の合図であった。
ジェイが自宅前に置き去りにされるところを目撃したイツメン4人組は、この後ジェイのお守りレンジャーとなり物語は進行する。
警察が介入しても偽名を使っていたヒューの正体はわからない。
しかしヒューの去った家に残されたエロ本に写真が挟まっており、その服装から出身校を突き止め、警察さえ調べられなかったヒューの身元をあっさりと突き止めるレンジャーたち。実家を訪ねると、かつて一夜限りの女性から呪いをうつされたことや、ジェイも性交によって他の人物に呪いをうつせることを聞かされるのだった。
ヒュー、ただうつしたいだけならその辺の売春婦にうつせばいいのに、なんでわざわざ偽名使って家まで借りて、デートを重ねて信用させるような回りくどいことしてまでしてジェイにうつさなきゃいけなかったのか。なんなの。
もう一つわからないのは、ジェイの逃げる果てがいつも運動場みたいにだだっ広い公園なことである。
四方が見渡せるから?でもジェイ、ブランコに座るんだよね。危なくないか。
その後海の近くのグレッグの別荘に行くことにするが、それも理由は不明。案の定海辺に居ても気は休まらない。
グレッグに拳銃の撃ち方を教わるジェイ。
いやそもそも「It」に銃って効果あるか??
小屋に籠もっても襲ってくる「It」は、撃たれても何のダメージも受けない。ジェイはグレッグの車で逃走を図り、交通事故を起こして意識を失う。グレッグの車、廃車かな。ジェイ、迷惑かけすぎだろ。
テキトーに相手を見つけて呪いをうつせばいいのに一応躊躇しているからいい子かと思ったら、この事故で入院中にグレッグとやってしまうジェイ。自分に思いを寄せているポールが、自分にうつせよと言ってくれていたのに。
その理由も、グレッグとは前にやったことがあるからにはワロタ。
退院したジェイが自室から外を見ていると、グレッグが窓ガラスを割って家に入るところが見えた。グレッグに扮した「It」だとわかりダッシュで駆けつけるジェイ。こういうとき一人で盲目的に行動してあぶねーと思うが、主人公のこういった行動はホラーではもはやお約束。
グレッグは母親になった「It」に騙され簡単に部屋を開けてしまい、あっけなく殺されてしまう。主人公以外はあっさり殺されるのもまた鉄板である。
・「It」退治計画
ジェイとレンジャーたちは、「It」をプールにおびき寄せて感電死させようと計画する。
プールを囲むように家から持ち寄ったありったけの電化製品のコードを繋ぎ、ジェイがプールの中央にスタンバイ。そこへ現れた「It」は、なんとジェイに向かって電化製品を次々と投げつけてくるのだ。
「It」を感電させるどころか、用意した武器が「It」に丸々利用されて、逆に殺されそうになるのはワロタ。しかし主人公だから死なない。
ポールの撃った銃弾が「It」に命中し、プールに落ちる「It」。ジェイは水中で「It」に足をつかまれるがかろうじて逃げ切る。水面には、ジェイにしか見えない血が広がってゆく。
いや「It」には銃なんて効果なかったんじゃないの?
・LAST
とうとう肉体関係をもったジェイとポール。
いや、1回やったことあるからと呪いをうつされ、別荘を提供し、車を壊され、挙句の果てに仲間内でたった一人殺されたグレッグはなんだったんだ。グレッグが不憫すぎる。
2人が手をつないで歩いていると、後ろをついてくる人影が見えるのであった。その人影が「It」なのかどうか。
ポールはジェイから呪いをうつされた後、車で娼婦の横をゆっくり通り過ぎるシーンがある。あの後買ったのかどうかは明かされないから呪いをほかにうつしたかどうかは不明。
・「It」の正体とは?
「It」には一体何の意味があるのか。
製作者へのインタビューによると、「死の恐怖」を表しているらしい。
でも性交渉によってうつるから、「性病」なのかも。
ヒューがジェイに呪いをうつした後も時々「It」を見ると言っていたように、一度かかるとその後も一生苦しめられる、決して完治することはない「性病」なのかもしれない。
大人が一切守ってくれず、ジェイと仲間だけで「It」と戦っていることが不思議だったが、性に奔放なティーンエイジャーと、理解のない親の溝を風刺したゲームなのかもしれないとしたら頷ける。
・時代背景
テレビはブラウン管だし、車にはカーナビもなく、ジェイや友人たちがスマートフォンも使っていないから、少し前の時代の話かと思いきや、冒頭で殺害される少女は携帯電話で話していたし、ヤラだけは貝殻型の小さなタブレットで小説を読んでいる。時代は明確ではないけど、ヒューの素性を調べているとき学校があっさりと教えることから個人情報なんてゆるゆるだった時代の話なのだろうか。
【感想】
ストーリーや設定には突っ込まずにはいられないが、とにかく意味不明な恐怖を味わせてくれる作品には違いない。
ある時は小さくあるときは巨人となり神出鬼没で変貌自在な「It」は、決して急がずただ歩いて迫ってくるのに、母親の姿でグレッグに飛びかかったときの予想外でダイナミックな動きには特に恐怖心を煽られた。
意味がわからなくて何をされるか予想もできないから怖い。恐怖の定義に真っ向から勝負してくれた映画である。