ただの同期1

流行病に感染してしまった6月某日。
前日から喉の調子がおかしくて、
不安もあり会社のランチも一人で済ませた。
私、瑞希みなみの同期で私が密かに想いを寄せている上杉雄星から
「今日の瑞希何か静かじゃね?」
と言われたけど、距離をとりながらいつも静かじゃ!とはぐらかした。

朝起きると(あ、熱があるな)と感覚でわかった。体温計を取り出し、熱を測る。
(38度…自分は感染しないと思ってたのに。
 いや、まだただの風邪の可能性も…)

仕事の進捗と締切を計算しながら、まずは病院へ診察予約の電話をする。
「すいません、熱と喉の痛みがありまして…」
幸いにも診療時間前に検査をしてくれると言ってもらえた。
その後始業前だが上司の大城さんへLINEをし、状況を説明した。
「了解!検査結果がわかったらまた連絡して。仕     
 事の状況もその時に確認させて、こっちで対応
 出来るように確認するから!」
申し訳無い気持ちでいっぱいになりながら、
病院へ行く仕度をする。

「陽性ですね〜」
「…やっぱりそうですよね」
無慈悲な宣告を受けた後は薬を貰い、フラフラしながらアパートへ帰った。
(歩ける距離の病院で良かった。ゴホッ!
 咳まで出てきたよ〜(泣)寒気もあるし)
明らかに朝より体調が悪い。

アパートの部屋に着き直ぐに会社へ連絡をした。
「株式会社アクアでございます。」
電話に出たのは雄星だった。
「もしもし、瑞希です。申し訳無…」
「瑞希大丈夫か!?一人で病院行けたのか?!
 連絡俺にしろよ!車で送り迎えしたのに!
 検査結果は?足りない物届けるから、LINEに
 入れ…」
「もしもし、瑞希か?大城だよ。上杉に瑞希の  
 話をしたら心配しちゃってさ、ずっと電話が 
 鳴るのを待ってて…」
マシンガンのように話していた雄星から急に上司の大城さんに電話が代わった。多分雄星から受話器を無理やり奪ったんだと思う。

「申し訳ございません、やはり陽性でした。
 最低でも5日間は自宅待機です。」
「そうか、何となくそうかもしれないと思った  
 んだ。瑞希が風邪引くなんて今までなかった 
 から。有給も余ってることだし、とりあえず 
 一週間休んで様子を見るのはどうかな?」
有り難いお言葉と、申し訳無さで言葉が詰まってしまう。
「…っすいません、ありがとうございます。
 あと今自分が持ってる仕事についてですが、A
 社への新商品販売の提案とB社のオープンまで
 に納品する商品の打ち合わせがメインです。打
 ち合わせ日時は…」
熱で回らない頭で自分の仕事の状況説明をしていく。

「オッケー。そこまで進捗してるなら僕たちで  
 対応出来る。相手先には一時的に窓口が変わる  
 ことも連絡しておくよ。」
「本当にありがとうございます。
 大城さんたちも自分の仕事がいっぱいなの
 に…」
「誰が瑞希の状況になってもおかしくないんだ 
 から。まずはゆっくり体を休めて、ちゃんと 
 治すんだよ?」
「はい、絶対一週間で治します!」
「何かあったらまた連絡して。
 じゃあ…あ、上杉と代わるよ」
「えっ」 

保留音が鳴る間もなく雄星に代わる。
「瑞希、さっきも言ったけど必要な物LINEで教
 えてな?仕事終わったら玄関前に置いておくか
 ら。あと辛くなったら連絡してくれれば看病す
 るし、病院も連れて行くから。」 
ただの同期で自分の好きな人がこんなに心配してくれるなんて。
感染して凹んでいた気持ちが少し明るくなる。
「ありがとう。でも大丈夫!通販やネットスー 
 パーを駆使するからさ。解熱剤とかも病院で
 貰ったし、寝てれば良くなると思うんだ。
 仕事で迷惑掛けちゃうけど、宜しくお願いし 
 ます。」
「そんなの迷惑とは言わないだろ。瑞希は一人 
 暮らしだし、普段も人に頼ろうとしないから
 。無理にとは言わないけど、不調な時ぐらい 
 甘えろ?」
(嬉しい…でも…)
「ありがとう、いざという時は雄星に連絡する 
 ね。じゃあ仕事お願いします。」
「あぁ。任せとけ!ゆっくり休めよ」

電話を切ると色々な感情が押し寄せて来る。
申し訳無さ、嬉しさ、切なさ、情けなさ。
(はぁ…私って体調管理も出来ないし、周りに 迷惑かけるし、可愛く甘えられないし)
涙をポロポロ零しながら、買い置きのゼリーを食べて薬を飲む。
部屋着に着替えて布団に潜り込むと考えてしまうのは雄星のこと。
(雄星には咲良ちゃんがいるんだから、私のこ
とはただの同期としか見てない。なのに優しくされたらまた好きになるよ…どうしてくれるんだ)
そんな事を考えながら、いつの間にか眠りについた。


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