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会えなくても「居場所」になった、劇団のはなし。 #劇団ノーミーツ

行きつけのコーヒーショップが、1周年を迎えた。


カフェラテが美味しい店。

1年前、引っ越して降り立った街で、唐突に始まった「自粛生活」。
自粛ってなんやねん、そもそも言い方がむかつくんだよな、と内心思いつつ、
自炊力・家事力、その他もろもろのおうち生活力が皆無のふたりが、
唐突に24時間自宅生活を強いられることになった、4月7日。

あんなに家から出なかったのは、小学生のお正月以来かもしれない。
雪が降り積もるなか、特に何もしなくていいしあわせをこたつのなかで噛み締めていたあの頃とは違って、
やるぞ!と息巻いていた企画は中止になり、イベントの予定が止まり、楽しみにしていたライブは軒並み中止。
2020年の4月は、散歩日和のあたたかい天気が続く中、世の中の不安な空気で胸はいっぱいになっていった。

高円寺、駅徒歩3分の1LDK、
気休めに、スーパーで茶菓子を買って、ティーパックでお茶を淹れてみる。
近所の花屋で花を買ったりして、花のある生活をはじめてみる。
引越し祝いにもらったレコードに、針を落としてみる。
「これはこれで楽しいよね」って言えるような生活を送ってみる。


日が経つにつれて、混乱も少し落ち着きをみせ始めて、街ではテイクアウトがぱらぱらと始まり出した。
それと同じくして、まわりの起業家たちが、「こんなご時世でもできることを!」「こんな事態だからこそやれることを!」と次々と動き始めていくタイムラインを、私はただ、ぼんやりと眺めていた。

どこにも行けないし、仕事も減っちゃったし、あと天気もいいし。という理由で始まって、いつの間にか日課となった散歩の合間。
見かけない駅前のコーヒーショップで、「家では淹れられないから」とカフェラテを頼んだ。
家までの道を歩きながら、暖かいカフェラテに口をつける。

とっても美味しかった。

ひさしぶりのカフェラテの甘さと暖かさに、思わず感動してしまった。
いままで当たり前だった「生活」って、こんなにみずみずしくてやさしくて、美味しいものだったっけ。

「元気にやっていますか?」

2・3年前からお世話になっている広屋さん(ノーミーツの主宰のひとり)から長文のメッセージが届いたのは、そんな日々のなかだった。

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(スピード、まじで無茶な感じだった、ウケる)

※このnoteは劇団ノーミーツ1周年記念企画「劇団員24人全員のnote」のひとつです。
劇団ノーミーツ アートディレクター・宣伝美術の目黒水海が書いています。その他の劇団員のnoteはこちら



「劇団ノーミーツ」というか、「ノーミーツのみんな」と仕事をするようになって、もう1年が経つらしい。
(みんなとの1年をきれいにまとめきるのは難しいので、諦めて散文のまま掲載する。)

「デザイナーにもフリーランスにも向いてないのに、
“フリーランスのデザイナー” を名乗って3年目を迎えてしまった!」

2020年を迎えたばかりのとき、私はそう思っていた。

やっちまった、いつまでこのスタイルを続けていくんだ......、と。

とはいえ、私は週5×4週間、×12ヶ月、決まった場所に決まった時間にいくことができない。

まめに仕事の連絡も返せないし、同じ相手と3日以上「喋らなきゃいけない」空気感になるのが苦手で、3日連続での出社ができない。おせっかいを焼くのは好きだけど、それが「仕事」になった途端にすごい面倒に感じてしまうし、画一化されるのが気持ち悪くて、「リクルートスーツに袖を通せない」という理由で就活はやめた。(尖ってるみたいでとても恥ずかしい)

なのに、フリーランスという「単機戦闘型」というか、「一回きり」の関係性が全っっっ然向いてない。プロジェクトに深く踏み込んで作りたいくせに、一般社会に求められる「社会性」をとんと持ち合わせていないのだ。
そのうえ臆病で人見知りで飽き性。(よく言えば好奇心が旺盛。フットワークは軽め。飲み会とエンタメが大好きな27歳!)

絶対チームのほうが私の能力は向いてるのになぁ、でも社会性がないんだよなぁ......という噛み合わないふたつの性質を抱えたまま、フリーランス3年目を迎えた。これはまずい。

「これはまずい。」というのはずーーーっと思っていて、フリーになってからあれやこれやといろんな形で「組織」で働く方法を模索していた。
模索していたけど、どれも数ヶ月で限界がきてしまった。あ〜私は本当に社会性のない人間なんだ、夜の乗り越え方がわからない、三四郎のオールナイトニッポン0を聞かないと元気になれない.......、と思いながら、それでも同居人ができたので、なんとか生活を幸福にせねばならない、と思っていた頃に、ノーミーツに出会った。



ロゴを作ることになった2020年4月9日から、
あれよあれよとスピーディで行動的でクリエイティブなメンバーに、
半ば巻き込まれる形で私は旗揚げ公演を迎えた。

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劇団ノーミーツ 旗揚げ公演『門外不出モラトリアム』のキービジュアル。

「大学の4年間をフルリモートで送った大学生」が主人公だったので、部屋に2024年のカレンダーと、思い出の“スクリーンショット”を飾ったビジュアルに。撮影は役者さんに構図を伝えて、Zoomで繋いだiPhoneを設置してもらい、リモートで撮影。左下の写真立ては、主人公メグルが、好きな人・リョウイチとの2ショットを飾っている。(内気なメグルだけど、フルリモートで誰も部屋に訪れないから、画面のなかしか映らないからできること。)


今だから言うけど
めちゃめちゃに緊張した。

スズケンさんはみるからに「新進気鋭の若手クリエイター」感がすごいし、
岩崎さんはダルい上司のイメージしかなくて絶対仲良くなれなそうだし、
林さんは全然画面に映らないし(なぜか頭部しか映らない)、
小御門さんは感情が無だし、
知らない間にbosyuで2人くらい増えてるし、
公演1週間前にパンフ作ろう!とか言うし、(作った)
全部Zoomで進んでくし、
演劇作るのとかはじめてだし。

1年前の私はいまよりずっとずっと自信がなくて、ぶっ倒れて意識を飛ばした時に、「ごめんなさい」が無意識に口から発せられるくらい、誰かに頼ることが不得手な人間だった。(これは残念ながらいまも少しそう)
ノーミーツのメンバーは、とてもフラットで、「ここからここまでが自分の仕事」、というよりも、『「守備範囲」と「興味の範囲」が分かれているだけ』という感覚が強い。そしてそれがとても心地がいい。不安を共有しても横断的にコメントをくれるし、いつも一緒に考えてくれる。
それは、2年ほど「フリーランス」として、独りで仕事をしてきた私には、とても希望に感じる繋がりになった。



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劇団ノーミーツ 第2回長編公演『むこうのくに』のティザービジュアル。

林さんに「裏渋っぽい感じで!」と言われて、どないやねん、と思いながら裏渋を探索して作った。

つぎはぎのユートピア。グラデーションの中に生まれる歪みと境界線。

実はずっとコラージュ作品を仕事として作りたい、と思っていたので、挑戦できてすごく感慨深いビジュアルとなりました。
このあと別のお仕事でコラージュ作品を出すことができて、とても次に繋がるチャレンジになったなぁ、としみじみ思う。


ノーミーツの第2回長編公演『むこうのくに』。実はティザービジュアルの制作期間が3日くらいしかなくて(?????)
はじめて「共有しながら作る」という作り方にチャレンジした。(というかせざるを得なかった。)

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この作り方を自分で是とするかどうか・は、デザイナーのタイプによると思っている。し、私もこれまで、試してみたい、という想いはあれど、実践できたことはなかった。
「途中経過を見せる」というのは、“完成された完璧な状態をプレゼンし、ブラッシュアップして納品する” というプロセスを踏むことが多いフリーランスのデザイナーにとっては、期待値のコントロールが難しくて、クライアントとの齟齬が生まれる危険も高いし、何より「中途半端な状態で相手を頼る」ということについて、自分との葛藤がある、と思う。
だからこそ、私にとって、ここが「頼りはじめ」だったんだと思う。人見知りで臆病なわたしが、ノーミーツのみんなを「メンバー」として、頼ることができるようになりはじめた頃、なんだと思う。

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最終的にめちゃめちゃ満足する仕上がりになった。やった〜

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不安なことや悩んでいること、迷っていることを「全部口に出してもいい」という安心感は久しぶりだった。
フリーランス = 孤独、と揶揄されがちだが、強がらなきゃいけないシチュエーションとか、自分の判断がデザインにおける決定意思になってしまうシチュエーションも少なくない。そして、私はこの数年間、そういうものにたくさん無理をしていたんだなぁ、と気づいた。

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「むこうのくに」メインビジュアルは外でのフルリモート撮影にチャレンジ。キャラクタービジュアル15種制作、は大変だったな......(遠い目)
(写真=yansuKIM(@yansukim))





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はじめて、コーポレートのブランディングをした。作りたいものが私の守備範囲じゃなくて、ロゴデザインは真拓くん( @cam_i_poipoi )にお願いしました。「ディレクション」を考えはじめたきっかけです。
(写真=yansuKIM(@yansukim))



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第3回公演『それでも笑えれば』はティザー、KVともにディレクションして作る形になった。
(ティザービジュアル クラフト制作・撮影 = 神岡真拓( @cam_i_poipoi ) / KVイラスト = ゆの( @_emakaw ))

こんなことを言ってはいけない、とずっと思っていたのだけど、実は「デザインを作り込んでいく作業」が私は得意ではない。

ゆえに、

「長く、強く愛され、生きていけるロゴ」
を作るのには私は向いてないと思っているし、
「息するようにデザイン(画作り)するヤツ」
には永遠に追いつけないと思っている。
(から、それができるクリエイターを本当に尊敬している。)

だから「フリーランスのデザイナー」という肩書きにはどこかで限界が来るんだろうな、と思っていたし、もっともっと根本を辿ると、4年前、私は「デザインをディレクションする側」になりたくて、デザイン会社の門を叩いたのだ。デザインを褒めてもらえて、必要としてもらって、お金をいただいて生きてこれたことはもちろん嬉しいんだけど、それは奇跡のようなもので、私はこの「手を動かし続ける」選択を、どこかでやめなければならない。

じゃあ「アートディレクター」を名乗るのか!

と言われると、「アートディレクター」という肩書きは周囲の反応を観察する限りとても重く、できるかな、という想い以上に、「私が名乗っていいのかな」、という怖さがずーっと、胸の奥に横たわっていた。
こういうときに、ふらっと「仕事として」トライできる場所になってくれたのも、私がノーミーツにいる理由のひとつだな、と思う。



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サンリオピューロランドとのコラボ公演『VIVA LA VALENTINE』( #ビバラバ )のビジュアル。
「キャラクターたちもみんなと一緒に頑張っているよ」ということを伝えたくて、閉館後のピューロランドでせっせとショーの準備をする5人を撮影。
(写真 = 永井樹里( @juritea.1022 ))


「プロップスタイリングやってみたくて」

という飲み会での一言を、岩崎さんは覚えてくれていて、「ビバラバはみんながやってみたいことをやってみる場所にしたいんだ」と劇中のダニエルみたいなことを言って、私にプロップスタイリングをする機会をくれた。
「プロップスタイリング」という職業の人がいるんだ!ということを知った22歳新卒の頃から、ずっとお仕事にしてみたい、と思っていて、

思っていて、そのままだった。
そのまま、放置してしまうところだった。

作りたいものを考えて、伝えて、手配して、作り込んで、撮影して...
マジで(マジで)忙しかったし、日々勇気と自信との戦いだったけど、本当〜〜〜〜〜〜〜〜にいいチャレンジになった。
と同時に、私のなかでノーミーツが「安心して挑戦できる場所」になっていたことにもすごく嬉しく思った。

そういう場所が、フリーランスのまま、手に入るなんて。



2月の「HKT48、劇団はじめます。#劇はじ」では、アートディレクションの機会が多く、「やっていきたい」と思ってたことが、どんどん目の前の仕事になっていた。こうして振り返るとすごいスピードでびっくりする。
ノーミーツでは今後、アートディレクターとしての動きを増やそうと思っていて、スポット(絵作り)でも、運用的な宣伝美術でも、ご一緒してくれるデザイナーさんを随時募集しています。もしエンタメ作りに興味があれば、DMください!

コーヒーショップはあれから、私の行きつけのお店になった。
仕事前に寄って、カフェラテを買って、「お仕事頑張ってね」と一声かけてもらって仕事に向かうのが習慣になった。

ノーミーツは、フリーランスの私に月額でお給料をくれる。定時もないし、満員電車もいらない。でも、私が頑張りたいことを応援してくれて、私が気になったことに耳を傾けてくれて、そして妥協せずに一緒に走ってくれる。

この習慣になったものを、いまの心地よさを、きちんと自覚して、もっともっと、進んで行きたい。

カフェラテの美味しさをもう忘れたくないな、と思っている。

引き続き、宜しくお願いします。



2021.04.09   目黒水海



嬉しいです。