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美しいニプル

これは、ニプル国に十年以上滞在する外国人ジャーナリストのレポート。世界各国に配信された。

※注意:ニプル国のみなさまへ。このレポートを読み始めて、この国の現状に胸糞悪くなったら、読むのをやめてください。この国の現状を直視して「まともな国に改めないといけない」と思ったら、最後までお読みください。(敬称略)

ならず者国家

「ニプル国」(Nipple)は、極東の、さらに東の、そのまた東に位置する島国。首都はチンドン。人口1億人。為政者とその取り巻き、支持者は「日出るニプル国」「世界に冠たるニプル国」「ニプルすごい」と胸を張っているが、この国の実体は、先進国でも民主国家でもなく、ローグ・ステート(ならず者国家)である。

以下に、その理由を述べる。

ニプル国は、1945年、アジア諸国への侵略戦争に敗れた後、①平和主義②国民主権③基本的人権の尊重ーを謳(うた)った憲法を制定し、国際社会に復帰した。
1960年代に高度経済成長を遂げ、1980年代には先進国グループ『G7』入りを果たしたが、1991年のバブル景気崩壊以降、30年以上にわたり、経済は停滞したまま。GDPこそ世界第3位であるが、2位の「中ツ国」の四分の一以下、一人当たりGDPは30位台に低迷している。
政治は腐敗にまみれている。
人心は荒廃し、ネット空間には罵詈雑言、ヘイト、フェイクがはびこっている。

ニプル国の「劣化」が著しくなったのは2013年からだ。前年暮れの総選挙でシン民主党から政権を奪い、首相となったUR(ウルトラ・ライト)党のアヘ・ボクチャンは、極右・歴史修正・排外差別主義者。神社カルト・反社会的狂信カルト集団の支援も受けていた。
彼の祖父はA級戦犯・元首相、父も政治家。アヘは、いわゆるお坊ちゃま世襲3世だ。祖父は、ニプル国が1930年代に中ツ国を侵略して建国した傀儡(かいらい)国家「マンチョウ国」でアヘン利権を一手に握り巨万の富を築いた。侵略戦争敗戦後のチンドン裁判で断罪されたが、出獄後、首相にまで昇りつめる。彼の在任中、最も罪深い業績は、ニプル国を世界最大の大国「グリンゴ」の属国化を推進したこと。グリンゴの情報謀略機関のエージェントとして様々な裏工作に従事した。
以後、ニプル国は、表向き独立国、民主主義国を装いながら、グリンゴの意のままに操られる傀儡(くぐつ)国家に成り下がった。反社狂信カルト集団との密接な関係を作ったのも祖父だ。
(アヘは2022年に、このカルト集団によって苦しめられた若者によって暗殺されることになる)

アヘは、自分に批判的な人たちを「こんな人たち」と呼び、市民の間に分断を持ち込んだ。自分に阿(おもね)る取り巻きを露骨に優遇した。税金を自分のカネの如く浪費した。取り巻きの「お友だち」にカネをばら撒き、便宜を図るために法律を捻じ曲げた。
彼は、官僚の人事に情実を持ち込み、自分に従わない官僚をパージした。官僚に忖度(そんたく)を強い、自身のやりたい放題を認めさせた。
彼は、国会において野党の質問に、のらりくらりとまともに答えず、平気で嘘をつき、口を尖らせて口汚いヤジを飛ばした。
(国会調査局によると、ある不正事案における彼の嘘は118回に及んだ)
その国に住む全ての市民の安寧を守るべき為政者が、自分を支持しない層を切り捨て、敵視するという、およそ政治家としての資質に欠いた言動を繰り返した。
真っ当な市民からは「憲政史上最低最悪の首相」とまで言われている。

2020年に持病の悪化で退陣するまで、「美しいニプルを取り戻す」をスローガンに、過去の侵略戦争を美化した。
①ニプル国軍によるナンキン大虐殺はなかった
②植民地としたテハン国での従軍慰安婦・強制労働はなかった
③戦艦島などをはじめとする炭坑・工場での奴隷労働はなかった
④ニプル国唯一の地上戦となったニライ県でのニプル国軍による住民虐殺・住民敵視・自決強要はなかった
⑤1923年のクワンドン大震災時の軍人・警察・自警団によるテハン人・中ツ国人・ニライ県人・社会主義者虐殺はなかったーなどなど。
それをアヘ信者のネトウヨ、カルト一派がSNS、テレビなどで大宣伝にこれ務めた。
いずれもデマである。国際社会からは「恥を知れ」と一蹴されたが、ニプル国では一定程度浸透してしまい、ネトウヨ作家による嘘で固めた歴史本「ニプル国紀」がベストセラーになる始末。「やれやれ」と言うしかない。

アヘはまた、シン民主党政権の社会的弱者に寄り添った政策を「悪夢のよう」と、ことごとく否定していった。
彼の悪政を具体的に見ていこう。
①憲法を都合よく解釈した集団的自衛権容認・軍事費増大
②拷問・殺害し放題の治安維持法復活を思わせる共謀罪・機密法制定
③ニライ県の県民投票で「新基地反対」の圧倒的結果が出たにもかかわらず基地建設を強行
④アヘノミクスと称したマイナス金利、円安誘導、際限ない規制撤廃、無制限国債買い上げで、強欲な大企業・外資を優遇
⑤消費税を10%に引き上げたーなど枚挙にいとまがない。

劣化の加速

ニプル国の劣化がどんどん加速した。無教養で品性下劣、自分勝手な言動・犯罪が蔓延し、貧富の差がかつてなく拡大した。
貧困層に対して「そうなったのは自分のせい」「努力が足りないせい」という自己責任論を押し付けた。
その典型例がセーフティーネットである生活保護制度へのバッシング。UR党の三下極右議員を使って、ごくごく少数に過ぎない不正受給をことさらに煽り立てた。それにアヘ万歳!のネトウヨ・メディアが乗っかった。制度を利用する人を悪玉、怠け者に仕立て上げた。行政の窓口での保護申請の妨害は横行したままだ。

アヘの権力私物化を象徴するのが「モリカッケサクラ」問題。
①反共極右教育のモリホト学園に国有地を法外に安い価格で払い下げ、②お友だちが経営するカッケ学園の獣医学部新設を、文科省・獣医師団体の反対を無視して容認し、③国費で行われる「サクランボを見る会」に、自身の後援会メンバーや御用コメンテーター、幇間芸人を大量に招待するーの違法行為・公私混同を繰り返した。
こうした問題が発覚するたびに、国会、記者会見で嘘をつき、その嘘を取り繕うために公文書を隠蔽・破棄・改竄・捏造した。
(抵抗する公務員は自殺して抗議した)
彼は、ことあるごとに「法の支配」を強調したが、やっていることは真逆。無法者が「法」を持ち出す茶番を、茶番とも思わない首相の存在を、この国の不幸と言わずになんと言おう。
支持者向けの動画で「私はポリティシャン」と大真面目にアピールした時は大笑いした。自ら「ならず者政治屋」と名乗ったのである。本人も動画作成スタッフも「ステーツマン」(優れた識見を持つ政治家)という言葉を知らなかったのだろう。
(あるいはスタッフは分かっていて、放っておいたのかもしれない)
格好つけて英語など使わず、素直に「政治家」とでもしておけばよかったのだ。彼と取り巻きの知性のレベルが知れるエピソードである。

そんなボクチャン政権だが、選挙では負け知らずで、その執政は八年余に及んだ。
悪政やり放題の彼が、なぜ選挙に勝ち続けたのか。小選挙区制という一選挙区で一人しか当選できない制度のおかげである。与党以外の政党が小党分立状態にある中で、与党は負けようがないのだ。
こうして彼は、およそ民主主義国とは言えない、やりたい放題を、退陣するまで続けたのだった。

アヘの後を、ボクチャン政権で官房長官を務めていたスカ・テツメンピーが継いだ。やることはアヘと同様、品性、知性に欠けた。
①ニプル国学術会議の人事に介入し、学問の自由・独立を犯し、②生活困窮者には「自助」で何とかしろ、それでもダメなら困窮者同士で「共助」しろと突き放し、「公助」は控えると切り捨てた。さらに③新型コロナウイルスが猛威を振るう中、中止を求める声が大多数だったにもかかわらず、チンドン五輪を強行、感染爆発を招いた。
その傲慢と冷血漢ぶりが嫌われ、支持率は低空飛行を続け、テツメンピー政権は短命に終わった。

親ばか子ばか政権

そして登場したのが現首相のキッシーダ・オヤバカーノ。彼は穏健派のイメージを隠れ蓑に、アヘ、スカ以上に強権的・専制的に悪政を推し進めている。
公私混同も同様に甚だしく、彼のノートにはアヘ、スカ同様、「ノブレス・オブリュージュ(身分に相応しい品位、高潔さ)」という言葉はないのだろう。
私人である妻を公費で海外旅行に送り出す。自分の長男を秘書官に抜擢し、その長男は公費でドライブ、買い物、首相公邸で忘年会と大はしゃぎ。絵に描いたような「親ばか子ばか」ぶりが市民の批判を招いた。当初はやり過ごす姿勢でいたが、支持率が低下したことから、渋々長男を更迭した。30歳代の長男はマスコミの前に一度も顔を出さず、釈明もせず、雲隠れしたままだ。

オヤバカーノ政権下の、ニプル国の惨状を分野別に見てみよう。

【内政】UR党と仏教カルト党が野合する巨大与党による安定政権が続いている。野党は小党が分立。ニプル国は表向き民主主義の体裁を繕っているが、選挙制度は、先に述べた通り与党に有利な仕組み。しかも投票率は20〜50%台にとどまる。市長より少ない得票で当選する選挙区もある。選挙結果は、既得権益層や仏教・神社・反社狂信カルトなど、一部の投票に熱心な勢力によって歪められている。直近の選挙では、UR党は得票率たった2割台にもかかわらず7割近いの議席を得ている。民意とは言えない歪(いびつ)な「民意」に乗っかった政権といえる。
こうして「怖いものなし」となった極右・カルト野合政権は、本来の「民意」を無視した政策を、反対意見を蹴散らして強引に進めている。

・国民総背番号カードの取得強制。
不人気のカードを無理やり普及させるために、①カード取得者に金銭を与える②保険証として使えるようにし、現行の保険証を廃止ーを打ち出した。飴と鞭だ。保険証廃止に伴い、カードを持たない者の受診料を高額に設定。国民から一律に保険料を徴収しながらカードの有無で受診料に差がつく理解不能をゴリ押ししている。
無理筋な強行は早くも綻びを見せている。システムの欠陥、ハッキングから、情報の誤登録、健康状態や年金、収入、銀行口座番号、家族構成など個人情報の流出、なりすましが止まらない。市民の不満は高まっているが、政権はカード強制をやめようとしていない。呆れた市民の間ではカード返納運動が始まっている。

・寿命の切れかかった危険な老朽原発再稼働。
2011年のチンドン電力の原発爆発・放射能汚染事故で、シン民主党政権(当時)は原発廃炉・新増設禁止を決めた。それを覆し、稼働60年超原発も運転可能と決定した。
事故から十数年、原発なしでエネルギー需要を賄ってきた事実が原発不要を証明している。にもかかわらず極右・カルト野合政権は、原発利権に固執した。再生エネルギー開発を怠った。結果、再エネ導入を進める世界の趨勢から取り残されてしまった。
ツケは国民に回る。事故の危険性に常に怯える。地震のたびに原発は大丈夫か、と。高額の電気料金を払い続けさせられることになる。原発維持のための特別料金を上乗せされて。

・難民を死に追いやる入管制度改悪。
3回の審査で難民と認められない場合は強制送還。弾圧から逃れてきた難民を追い出すイコール命の危険にさらす、ということが、この法律に賛成した与党、一部野党の政治屋には理解できないらしい。
国会審議の過程で、審査はペーパーを読んで数分で判断と、という「右から左」的杜撰な流れ作業が常態化していたことが明らかになった。さらに収監中の外国人に対する暴力問題への対応も曖昧なまま。
この国の入管は、侵略戦争敗戦後、弾圧・拷問・虐殺機関だった特高警察のメンバーが潜り込んで作られた経緯があり、その人権無視・外国人蔑視体質を引き継いでいる。本来なら解体的出直しをすべきなのに、そうせず法律を改悪するという信じがたい行為に出ている。
この国は元来、難民の受け入れに消極的であるが、国籍によって人権を軽視しても構わないという認識には恐怖すら覚える。

・LGBTQへの差別を助長する法律制定。
当初は性的少数者への差別を明確に禁止し権利を擁護することが目的だったが、極右・カルト一派の巻き返しで、「異性愛多数派の理解の範囲内でしか権利を認めない(マジョリティーによる差別を容認する)」とする内容に改悪された。国際常識から外れた時代錯誤の法律だ。
LGBTQ当事者からあがった「この法律は差別主義者に乗っ取られた」との声が、この法律の悪辣さを象徴している。
極右・カルトは「女性を自認する男が女風呂、女子トイレに入ってくる」という荒唐無稽な主張を繰り返した。これはグリンゴにおける「ブラック・ライブズ・マター」運動に対抗する形で差別主義者が「オール・ライブズ・マター」をぶつけたのと同じ構図だ。多数派が少数派の主張を潰すための極めて悪質な手法だ。
実際のところ、女風呂に忍び入るのは「自分勝手な性的欲求を満たそうとする、男を自認する男」だけだ。これまで同様、逮捕すればいいだけの話だ。
「それなら俺も女性だと言い張って女子大に入学する」などとと言い放った某ネトウヨ作家とそれに喝采する輩こそ、下衆な欲望を抱き女風呂、女子トイレに入り込もうとする危険な存在だろう。

・夫婦別姓導入、ジェンダー平等、シングルマザー支援のサボタージュ。
世論調査では多数が賛意を示しているにもかかわらず、LGBTQ問題と並んで、極右・カルト・ネトウヨによるバッシングが根強いことから、国政レベルでは一歩の前進もない。
彼らの権利を認めても、バッシングする人たちの生活が脅かされるわけでもないのに、執拗に反対する。
その理由を探ると、彼らは、盲信する「伝統的家族観」が破壊されると恐れていることが分かってきた。その家族観というのが噴飯物である。
妻は家長である夫(すなわち権力者)に従い、性奴隷、家事奴隷として家長に尽くし、子は父(すなわち権力者)の命令に従い、国家に奉仕し命を差し出せ、という時代錯誤、アナクロぶりなのだ。
こんなトンデモ史観の持ち主は、ニプル国でもごく少数である。しかし、この国の選挙制度の下においては威力を発揮するものだから、政権も御機嫌取りよろしくサボタージュを決め込んでいるのだ。
2023年6月に国際経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ報告によると、ニプル国は146カ国中125位(東アジア・太平洋地域で最下位)と世界最底辺、過去最低の順位に沈んでいる。来年はさらに順位を落とすことだろう。

・反社会的狂信カルト集団の解散命令先延ばし。
アヘ暗殺のきっかけを作ったカルト教会の宗教法人格をいっこうに剥奪しない。この教会は、壺を高額で売りつけたり、法外な寄付を強要したり、集団結婚を強いたり、大学で強引な勧誘を繰り返し、1970年代から社会問題化していた。しかし、いつの間にか有耶無耶にされた。
(このカルト教会に宗教法人格を与え、有耶無耶化へ影に日に動いたのが、UR党の教会シンパ議員だ)
ところが、アヘ暗殺をきっかけに問題が再燃した。
アヘ本人だけでなく、UR党のアヘ派議員の大半が、この教団に出入りして教祖を崇め、信者を秘書に登用していたこと、選挙での支援を受けていたこと、政策策定にカルト教会の意向を反映させていたことなどが次々と発覚。
政府は世論に押され、カルト教会の解散を視野に動き出したが、宗教法人法に基づいた質問権行使を繰り返すだけで、結論を先送りしている。最終的には解散させない腹づもりで、「喉元過ぎれば、元の木阿弥」狙いがバレバレな、やってる感パフォーマンスに終始している。
政権・UR党からしたら、選挙運動を無償で手伝ってくれるし、一定の票を提供してくれるカルト教会を切りたくないのだろう。教会シンパの衆院議長、UR党政調会長は、深い関係が発覚しても開き直って、その地位にとどまっている。
カルト教会は、政権の足元を見透かして、従来と変わらぬ活動を続けている。首都圏の某市に土地を購入し400人が寝泊まりして活動できる新施設建設に動き出していることが、最近明らかになった。地元は反対の声をあげているが、着工強行は目に見えている。

ショック・ドクトリン

【外交・安保】ニプル国は世界最大の大国「グリンゴ」の属国。外交・安保政策は、グリンゴの言うがままであり、独自の政策を展開する余地はない。
かつての戦争で侵略された近隣諸国は、ニプル国を信頼せず、外交的儀礼の範囲内での表面的付き合いしかしない。同じグリンゴの支配下にある国とのみ、関係を築くのがやっとというのが、この国の置かれた現実だ。
グリンゴが敵視する世界第二の大国「中ツ国」を、ニプル国も敵視している。2023年、グリンゴの命令で、「防衛費倍増」と「敵基地先制攻撃能力保有」を決めた。
オロシヤ国が隣国のウクラン国に侵攻した騒ぎに乗じて、政権は中ツ国がフォルモサ国を明日にも攻撃する、というデマをでっち上げた。「フォルモサ有事はニプル有事」と煽り、例によってお先棒担ぎの極右・カルト・ネトウヨが騒ぎ立てるドサクサの中で、ろくな国会審議も経ずに、事を運んでしまった。先の侵略戦争で地上戦を経験したニライ県の反戦世論を挑発するかのように、ニライ県の離島にミサイル・弾薬をどんどん配備した。ショック・ドクトリンを地で行く火事場泥棒的行為である。
これは「紛争解決の手段として武力は用いない」ことを謳った憲法をないがしろにするもので、国際的緊張を高める愚行でしかない。
しかも先制攻撃能力を持つための費用が青天井だ。財政的裏付けのない軍拡は、社会福祉・教育・子育て支援予算などを圧迫するだろう。消費税の更なる引き上げも画策してくるだろう。

【経済】「経済一流・政治三流」と言われたニプル国だが、現状は「経済三流・政治五流」だ。30年以上前のバブル崩壊このかた、経済状況は悪化の一途。一応、『G7』の一員だが、いまや、中身が伴わない「昔の名前で出ています」的ハリボテ感に満ちたメンバーにすぎない。
政権は、アへノミクスを継続し、その恩恵を受けた企業の業績は上向いた。しかし、企業は利益を内部留保と役員報酬、株主配当に充て、賃金に回さない。企業は、さらに安い労働力を求めて、派遣・パート・アルバイト・外国人実習生などの非正規雇用を増やしたため、この国の平均賃金は数十年にわたり横ばったままという、異常な状況で推移している。
オロ・ウク戦争の煽りで物価が急上昇している。企業は何度も値上げしている。もはや便乗値上げではないか、と疑っているが、この国のメディアは「また値上げしました」と報道するだけで、値上げ分のマネーがどこに消えているのかの分析はしない。だから企業は値上げし放題である。
株価はもはや景気のバロメーターではない。内外のハゲタカファンドによるマネーゲームの結果に過ぎない。最近、株価がバブル後最高値を更新したとメディアが騒いでいたが、それが何か? である。
低賃金・長時間労働、劣悪な労働環境、不安定な雇用、パワハラ・セクハラ・カスハラに愛想を尽かした技術者は高給で海外に転出し、若者もまた海外へ出稼ぎに出始めている。「ニプル国で3年働いてやっとできた貯金30万円が、1カ月で貯まった」とは南半球ガルーカン国で農業に従事している女性の弁。ワーキングホリデー制度で入国し、そのまま定住へ、というルートができ上がりつつあるという。
棄民政策の果てに国が捨てられる、という皮肉な構図が現実になろうとしている。
かつてニプル国の高給に吸い寄せられた外国人も人種差別、ブラック労働、スズメの涙の低収入に嫌気がさして続々帰国している。なにより経済発展を遂げた自国の方が稼げるからである。

少子高齢化により働き手不足が現出しつつあるニプル国だが、こんな有り様では、衰退の未来しかあり得ない。かつて「ニプル・アズ・ナンバーワン」と世界から賞賛された面影は、今はない。

労働者の権利と生活を守ることが使命のはずの労働組合は、ほとんど機能していない。組織率は2割に満たず、ニプル国の大半の労組を束ねる労組連合は、会長が政権にすり寄ることしか頭にない。さらに労組役員を務めることが企業内での出世の一手段に堕しているというから救いようがない。
一方、政権は経営と対峙する労組に対して、公安・警察による弾圧を続けている。この国には、労働基準法・労働組合法・労働関係調整法の労働三法があるが、有名無実化している。

総身に回る無知性

【社会】ニプル国の国民生活は、富裕層と貧困層に分断され、人心は荒廃を極めている。元々、権力には従順で子羊のような性格だが、嫉妬・妬み・憎悪感情が強い。「出る杭は打つ」「声を上げる人の足は引っ張る」という捩(ね)じくれた国民性から、鬱憤・不満の吐け口は政権・富裕特権階級ではなく、自分よりさらに弱い立場にある少数派に向かっている。おかげで特権層は、なに不自由ない享楽にうつつを抜かしている。
政治の品性下劣は、下へ下へと伝播する。「鯛は頭から腐る」の格言通りだ。この国には、女性や子ども、障害者、生活困窮者、LGBTQ、少数民族、外国人など、社会的弱者、政権を批判する人たちへの罵詈雑言、差別・冷笑発言が巷にあふれている。デモや抗議活動、美術展、困窮者救済のための街頭相談会などに対する妨害、嫌がらせが頻発している。
自分の周囲を見回してほしい。
街に出れば、
歩きスマホ、歩きたばこ、女性や老人にわざとぶつかって声を張り上げる中年オヤジ、アジア・中南米・アフリカ系外国人に横柄な態度で高飛車な職務質問をする警官、信号のない横断歩道で人が渡ろうとしても止まりもしないドライバー(先日、こんな場面に遭遇した。車が珍しく止まってくれたので、頭を下げて渡ろうとしたら、反対車線からも車が突っ込んできた。交通法規は頭に入っているのだろうか?)……
電車に乗れば、
ベビーカーや車椅子に舌打ちするサラリーマン、痴漢するクズ男、足を伸ばし大股開いてスマホをいじくる若者、大声で喋りまくる学生、おばちゃん……
新聞を読めば、
虐待、いじめ、闇バイト、押し込み強盗、拉致・監禁、子どものはしゃぐ声や泣き声、果てはお寺の鐘の音、田んぼのカエルの鳴き声がうるさいとねじ込んでくる人、性被害を訴える人に罵声を浴びせるインセル(女性憎悪の非モテ男)、「生産性がない」「女性は嘘がうまい」とヘイト発言する女性アヘ信者、慰安婦像に鼻くそをなすりつけて嬉々としてSNSに投稿する玄孫(やしゃご)、「今の憲法はグリンゴから押し付けられたのだから改憲しろ」と声高に叫ぶくせに、グリンゴの大統領が来ニプすると、ミーハーよろしくキャーキャー握手を求めて大はしゃぎする元ニュースキャスターだのだの……
吐き気を催す方々がウヨウヨしている。
彼らの言動を、政権政党の政治屋、地方議会のヘイト・ネトウヨ議員、政権に取り入って甘い汁をチューチューしようと目論む浅ましい学者・経済人・タレントらが率先して誘導し煽っている。
ヘイト発言を繰り返す人を批判すると、「言論の自由の侵害だー」という、あり得ない反応が返ってくる。「ヘイトは言論の自由の範疇外」という国際常識が通用しない低民度がニプル国の総身を侵している。
この国に「知性」はもはやなく、「反知性」でさえない「無知性」が跋扈している。

なぜ、そうなのか。
ニプル国の幼児性だ。かつての侵略戦争でニプル国を負かし、占領軍として乗り込んできたグリンゴ軍総司令官は「ニプル国人は十二歳だ」と喝破した。
それから80年近くが経とうとしているが、上も下も、まったく成長していない。
その幼児っぷりが際立つのが、敵基地先制攻撃と原発である。
政権もその支持者も「攻撃される前に攻撃しろ」と勇ましいが、反撃のことをは考えていない。反撃のミサイルがこの国に林立する原発に命中したら、この国はお陀仏である。そのことに考えが及ばない。目先の大声に興奮し後先考えずに突っ走ってしまう。幼稚なガキのやることである。

この国は戦後制定した憲法で「市民の権利」を保証しているが、その権利に無自覚な市民が大半だ。そうした人々は権力を頼り、その庇護の下で安穏を確保しようと汲々としている。だから権力にタテ突き、権利を主張し、声を上げることができる人たちが目障りで憎たらしく羨ましくて仕方がない。だから罵詈雑言を浴びせる。
自ら持つ権利に無知であることは、自分に与えられた権利を放棄しているのと同じだ。自分の人生を窮屈に、貧相なものにしている。そのことに気づきもせず、声を上げる自覚的な人々を引きずり降ろそうとする心性には哀れを催す。

【メディア】ジャーナリズムの役割は、権力の監視である。社会的少数者・弱者の声をすくい上げて伝えることである。
ニプル国のメディアは、この役割を果たしているだろうか。ごく少数を除き「否」である。
ジャーナリスト個々は優秀で、使命感を持って取材・執筆にあたっているが、企業組織の「壁」に拒まれ、自由な言論空間の確保に苦しんでいる。
メディアの経営者、編集幹部の多くが、政権党に取り込まれている。この傾向が顕著になったのが、ボクチャン政権から。アヘ自ら、あるいは手下の御用ジャーナリストを使って、原発事故や従軍慰安婦報道を誤報だと決めつけ恫喝した。情報交換と称して各社の社長・編集幹部をたびたび集めて高級寿司を奢り懐柔した。
(懐柔された連中は「アヘのスシ友」と、現状を憂う市民からバカにされた)
公共放送局NHK(ニプル国放送協会)には、アヘの意を受けた企業経営者や作家が送り込まれた。彼らは「政府が右ということを左とは言えない」と政権寄り姿勢を露わにし、「皆様の放送局」から「アヘ様の放送局」へと堕落した。
民放テレビ局幹部はアヘの圧力に屈して、アヘに批判的なニュースキャスターやコメンテーターを番組から降板させた。
なかでも民放テレビの「ニュースバラエティー」番組は酷いものだ。タレントや学者、元政治家、成功したZ世代の起業家・NPO責任者・弁護士などに、政権擁護のコメントを乱発させている。拾うべきは困窮者、弱者の声なのに、声の大きいプチ権力の駄弁を、お節介な説教を垂れ流している。政権の監視役ではなく、政権のスピーカーに堕している。
ネットメディア・動画サイトは論評に値しない。まともなのはごくごく一部。
取材せずにネット上にある記事のみで原稿を仕立て上げるコタツ記事、閲覧数を増やすための扇状的な駄文・暴言があふれている。その大半はネトウヨ御用達の、偏向とフェイクとヘイトと歴史改竄とエログロと私……的な代物ばかりで、例えは悪いが、便所の落書き、肥溜の糞レベルだ。
そんなレベルのサイトを見て、今更ながらにネトウヨ化する老人が増加していると言うのだから、救い難い。

報道の劣化は、「報道の自由度ランキング」(ボーダーレス記者団調べ)を見れば一目瞭然。シン民主党政権下では11位だったのが、ボクチャン政権下で急落。以後、70位前後で推移し、自由度は回復していない。これは政権の不当な圧力によるものが大きいが、不甲斐ないメディア自らが招いた結果でもある。
悔しかったら、政権をひっくり返すほどの大スクープをぶっ放してみろ、調査報道を展開してみろ、と言いたい。

以上、長々とこの国の惨状をみてきた。
これが今のニプル国の姿である。ニプル国のクオリティーである。

残された希望

「日出るニプル国」「世界に冠たるニプル国」「ニプルすごい」は、夜郎自大が胸をそっくり返して自慢げに語っているに過ぎない。
政権とそれに従う無自覚な市民(一部と信じたい)のありよう、国際規約から大きく外れた人権感覚・人権状況、自国の憲法理念からも逸脱する政策の数々を見ると、ニプル国が先進民主主義国というのは無理がある。
平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会からすると、ニプル国はローグ・ステート(ならず者国家)である。
小説の世界でしかあり得なかったディストピアが、このニプル国で現実のものとなってしまっている。
「愚民の上に苛(から)き政府あり」(福沢諭吉「学問のすゝめ」)という名言があるが、「苛き政府も愚民から成る」のが、この国である。

こんな、ならず者国家にも、希望の灯火はあるか。
ある。
声を上げ続ける人のある限り。
あきらめず、抗い、闘い続ければ、
小さな灯火も、いつか燎原の炎の如く広がり、圧政者を焼き払う。
世界を見渡せば、
宗主国を追い出し、超大国を敗北させたユエナン国のような模範が、
ある。
ニプル国の、抗う市民に、歌のエールを贈る。
「勝利を我等に(We Shall Overcome)」

(おわり)

世界に配信された、このレポートのタイトルは、
「ニプルは乳首じゃないよ、国名だよ」。

(フィクションです、念のため)

※参考:「日本国憲法」なのだ!(赤塚不二夫・永井憲一、草土文化、2013)

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