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「左のテクニシャン 星 大二郎」

DVDのディスクに書かれたその名前、その名前に負けない華のあるボクシングが印象に残っていた。
それが僕の、'"天才''星 大二郎との出会いだった。
ボクシングを始め、中学3年生のとき、ジムの先輩が勉強用に貸してくれたDVDの山の中に、その1枚があった。

兵庫県神戸市出身、38歳。三児の父。戦績は200戦を超える。180勝。レジェンドと呼ばれる選手だ。

僕が大学生になったとき、その男は和歌山に上陸した。
和歌山で行われる、国体要員として。
県職員として働きながら、和歌山県のボクシング補強に力を注いだ。


僕たち学生と一緒に、県外に合宿に行き、休みの日は同じところに集まり練習を共にした。
当時、星さんも29歳。

僕たち学生に気を遣わせないため、ユーモアのあるイジリで僕たちに接してくれた。
かなりオブラートにつつんだが、実際はよくある若者の''ノリ''のようなもの。
しかし、その辺もやはり、天才。
一ひねりもニひねりもあった。
当時から、その面白さに頭の良さ、キレを感じていた。
まあ、本人が1番ニタニタ笑って楽しんでいたのだが。
遠征に行っては、よく僕をイジってきた。
何度か衝突したのを覚えている。
僕も若かった。遠征の帰り道に泣かされたのは、今ではいい思い出だ。

とにかく自分だけではなく、いつも周りが見えていた。
学生一人一人、監督、サポート体制、チーム和歌山を考えていた。

2015年紀の国和歌山国体、和歌山県は総合準優勝という成績を残した。
僕も地元和歌山県で、2位という成績を残し、面目をたもった。
星さんも優勝こそ逃したが、2位の成績を残した。


ボクシングの才能、センス、は人並み外れている。天才特有か、努力している姿は見せない。
よくサボっている姿を見せてくれた。
ロードワークはいつもビリ。
罰ゲームがかかったレースは絶対負けない。
そもそも、体型も手足がすらっと長く、顔が小さい、柔軟さのある筋肉、瞬発力、と他の競技をやらせてもトップに立ったであろう才能があった。
そこに、プラスされてあったのは環境だろうか。
''村田世代''と呼ばれる、同年代には、強く、カリスマある選手が揃っていた。ライバル達の存在が天才を強くした。
地獄の合宿エピソードなんかも、星さんの話してくれたエピソードで、僕の好きな話しだ。
どこまでホントかウソか分からない。

月日は流れる。出会ってから、9年。

星さんは、和歌山に移り住み、県職員を続けながらアマチュアボクシングに力を注いでいた。
県職員としても、係長へと昇進し、多才な能力を見せている。
「ボクシングも仕事もコミュニケーション力が大事」と。

今年の11月には、話題となった全日本大会で3位の成績。
おまけに、''会長特別賞''を受賞。

僕が星さんに感じた、頭の良さ。
人間力、とも言える。
イジリが人間力?
人間力とは、コミニュケーション、人と人との間にある力のことだ。
イジリだって相手を思う心あってこそ、面白さに変わり、仲を深める。

今回の全日本で見かけた。
「星 大二郎、母校大学ジャージを着て入場」
(母校、東京農業大学は今年、ボクシング部学生の不祥事によりボクシング部としての活動を停止されていた、大学の応援にも制限がかけられていた)
Xに投稿している人を見かけた。


初戦、準々決勝は、和歌山の国体ジャージ。
準決勝は母校のジャージを着た。
お世話になった和歌山、母校を思う気持ち、か。「パフォーマンスでもいいんだ」と。
とらえかたは、人それぞれだ。

他にも、判定に不満があり、精神的に荒れていた選手に声を掛けた、と。
不満を漏らしているのを、僕もXで見かけていた。
レジェンドからの言葉に、何か感じることがあったかもしれない。

ジュニアで成績優秀で、直近の大会でも優勝していた未来ある選手には、

「皆んな、君をみてるよ」

と。星さんも当然、そのジュニアの選手とは面識はない。20歳は離れているだろう。
まずは自分から、こういう者だと名乗ったそうだ。
クチャクチャ、ガムを噛みながら選手の応援に参加していたそうだ。
別に悪いことではない。
だけど、周りから見られる選手というのは、そういう品行方正が見られるものだ。

自身がスター選手として、通ってきたかどうかは僕には分からない。
いや、多分そんな道をあえて外してきている。

「アマチュアボクサーの模範となる行動が賞されて、会長特別賞を、、、」

そんな品のある人ではない。
星さんが言いたいのも、ただ真面目な選手になれという簡単なことではない。

下品なネタももちろん多彩。
いつも電話の一言目はそんな言葉から始まっている。
38歳の高校生だ。

そういうことじゃない、

すぐに、自分から訂正に入る星 。
競技力はもちろん、人間力も磨いてこそアスリート。星さんの現役ボクサーに伝えたい人間力とは。



僕も考える、これからのボクシング界。
競技力が伸びることは当然大事。
ただ、それだけではおもしろくない。
人に興味を持ってもらう為にはストーリー、ドラマが必要だ。
強いては、人間力だ。
ボクサーは当然、強くなることだけを考え、その最高の環境でトレーニングをし、強くなるのが最強だ。競技力は伸びるだろう。

人間力、それは、競技力の向上からは離れたところにあるかもしれない。カリスマと呼ばれた、辰𠮷 𠀋一郎、畑山 隆則は、もう出てこないかもしれない。

僕にとってのアマチュアボクシング界のカリスマが、星 大二郎だった。

チーム和歌山を考えていた、星 大二郎は今、
アマチュアボクシング界の未来を考えている。

こうやって書いてて思うのは、人間力という、愛だ。
この記事を書くために調べた星 大二郎の記事からは、何年も前の昔ものから一貫して、アマチュアボクシングへの愛を感じる。

競技力だけでいえば、今の現役選手達の方が上だろう。それでも今回の、オリンピック予選を兼ねたこの大会の真ん中にいたのは星 大二郎だ。

引退宣言を早くも撤回していた星。
結局のところ、この人の考えているところは僕もよく分からなかった。

「カウントを聞いてみたい、200戦やって一回も聴いたことない」(ダウン経験がない)
と、またニタニタ笑っている。

その言葉が、次戦への伏線だろうか。
天才流の、現役ボクサーへの煽りだ。



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