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イナバウワー

 先日、コーチに英語でOX△◇■〇って知ってる?と聞かれて、何のことやら分からず、首を振った。こういうやつなんだけどね、と実演してもらって初めて、「あー、イナバウワーね!」と気が付いた。英語のイナバウワーは、だいぶ日本語の「イナバウワー」な語感からは遠くて、全然わからなかった……。「Ina Bauer」というのはこの動きを初めて披露したスケーターの名前だそうで、日本語のように一気にイナバウワーと言ってしまうのではなく、イナ・バウワーと名前と苗字の間に一息ついたりするのも語感の違いになっているのかもしれない。

 イナバウワーをやるには、まずはスプレッド・イーグルをマスターしなければならない。スプレッド・イーグルについてはこちらを参照。スプレッド・イーグルの足を平行にずらしたものがイナバウワーだ。トリノオリンピックの金メダルを獲得したフィギュアスケートの荒川静香さんで有名なあのスタイルは、この滑り方にさらにレイバックという上半身を反らす動きを合わせたもの。この荒川静香のトリノオリンピックの印象が強すぎて、体を反らす動きがイナバウワーだと勘違いしている人が多いが、イナバウワーという滑りは足の部分のことである。

↑ イナバウワーの代名詞といえばもうこれ。3:22あたりから。私はイナバウワーって単語を聞くと自動的にこの曲、トゥーランドットが頭の中でぐるぐるしてしまう。金メダルもすごいけど、こんなにも見ている人の心に残る滑りをみせたってことが、本当に素晴らしい。

 というわけで、イナバウワー。このエレメントのやり方を説明している動画は、意外と少ない。トリノの荒川静香も、技術点には直接繋がらないのにあえて入れたと話題になったほどなので、アイススケートで絶対に必要になってくるようなエレメントではないからかもしれない。もちろん、技術点には繋がらなくとも演技構成点では評価されるそうだ。

 アーティスティック・ローラースケートの場合の得点はどうかな?と思いルールブックを調べてみると、フットワーク、アーティスティック・フット―ワーク、振り付け、クラスタ、トラベリング、に分かれる評価の中で、アーティスティック・フットワークに6種類の中から3つ入れなければいけないエレメントの1つとしてリストに載っていた。クラスタやトラベリングの要素を繋げる時の難しいエントリーとしても使えるようだ。ただし、最低でも6つのウィールで滑らなければイナバウワーとは認められない(浮いていいウィールは2つまで)。

 要するに、ローラースケートでは割と使えるエレメントみたいだ。

(※イナバウワーである必要はなく、常にスプレッド・イーグル又はイナバウワーという括りなので、スプレッド・イーグルで事が足りてしまうといえば、足りてしまうのだけど)


 こちらは、アイススケートでやり方を説明する動画。アイススケートでもローラースケートでも、動きはまったく同じなので参考になる。

↑ コーチ、ミッシェル・ホンの動画。わかりやすい。

1:00 ①Wall stretches:壁でストレッチを練習してみよう。背中とヒップを伸ばして。

1:20 ②Assisted Ina Bauer:壁際で滑って練習してみよう。この男の子には、後ろの足を横じゃなくてもっと体の真後ろに持ってきなさいって言ってるところ。

1:50 ③Line exercise: 線に沿って腰を平行にして滑ってみよう。

2:20 ⑤(④はどこへ?)Watch Amanda for inspiration:アマンダの滑りを見てインスピレーションを得てみよう。

2:40 ⑤(なぜか2回目の⑤)Now go for it!:それじゃやってみよう!若い時にはできなかったのに、今やったらできた!年をとって柔軟性は衰えてるのにできたってことは、みんなも頑張ればカッコいい動きができるようになるってことだよ。

 ミシェルはさらにこんな動画もアップしている。

↑ イナバウワーをマスターするための、スケート靴をはかないでやるエクササイズ。レイバックをやるための背中のストレッチ方法などもあり。特に11:50からのバーでのフォームの練習の場面がいい。前足の膝を足首の上近くまで前に出して、腰も前に出す。なるほど。


 ローラースケートものではニコール・フィオーレの動画があったが、この人のイナバウワーは足が後ろではなく横にあるので、美しいイナバウワーとは言えない感じ。

↑ ニコール・フィオーレによるイナバウワー講座。念のため置いておくが、あまり参考にしない方が良い。上半身のつけ方のバリエーションはかっこいいので、そこだけ見ておこう。


  最後に、有名フィギュアスケーターたちのスプレッド・イーグルとイナ・バウワーを集めた動画があったので紹介する。

↑ スプレッド・イーグル&イナバウワー集。美しい。イメージ・トレーニングにはぴったりの動画。レイバックしなくても美しいポーズでイナバウワーを滑るシーンが結構あるので、それも参考になる。

 ちょっと話はそれるが、荒川静香がスプレッド・イーグル、レイバックしないイナバウワー、そしてそのあとに美しいビールマン・スピンを見せているけど、荒川静香はオリンピックが標的に入ってから初めて22歳でビールマンスピンを練習し始めたのだそうだ。幼い頃は天才少女と呼ばれる人だったとはいえ、肉体的なピークは過ぎていただろうに、そこから努力した人。

 若い時の長洲未来の表現力も美しいなぁ。


  おまけ:12歳の羽生結弦が荒川静香の前でイナ・バウワーを披露する動画

↑ 荒川静香が故郷のアイスリンク仙台を訪れたこの時、羽生結弦は12歳。「オリンピックに出る気まんまんになってきました」だって。すご。日本でこういうことを言うと叩かれやすいから、みんな自分が傷つかないように本音を隠して生きる人が多いのに。それで本当にオリンピックに出て、しかも金メダルを獲得しちゃうなんて。なんて人だ。とてつもない精神力ととてつもない努力の人なのだろうな。この陰には、同じように夢見て敗れた何千人、何万人もの子どもたちがいるんだろうね。

 

 ツイッターでもローラースケートについてつぶやいています。







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