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ローラースケートからアイスへ転向した選手① タラ・リピンスキー

                         Photo: John Mathew Smith

 アーティスティック・ローラースケートと聞いて、どんなものだかパッと頭に思い浮かぶ人はどれだけいるだろうか。ましてや、ちゃんとした試合の演技を見たことがある人となると、かなり少ないのではないだろうか。正直私も、自分がやり出すまで、こんなスポーツが存在することさえ全く知らなかった。

 その一方で、アイススケートは大人気のスポーツだ。自分で滑ったことはなくても、TVでちらっと見たことさえない人なんて、ほとんどいないのではないだろうか。やはり人気のスポーツというのは施設やコーチも充実するし、選手の層も厚くなり自然とレベルが高くなる。競技会の開かれる数も多くなり、いろいろな機会にも恵まれる。ローラースケートからアイススケートへ転向する選手がいるのは、そんな理由もあるのだろう。

 ローラースケートからアイスのフィギュアスケートへ転向した人として有名なのは、まずタラ・リピンスキーだ。アメリカで3歳からローラースケートを始めて、9歳にはプライマリーの部で全米チャンピオンになっている。その後ショッピングモールのアイススケート場でフィギュアスケートを始めて(あの頃のアメリカは、ショッピングモールの真ん中に吹き抜けのスケート場があるパターンってのが結構あった)、12歳でノービスの銀メダルを取るほどに。そして、あの長野オリンピックでの金メダルである。

↑ 9歳のタラ・リピンスキーによるアーティスティック・ローラースケートの全米選手権の演技。プライマリーの部で優勝した。子ども部門なので完璧な演技ではないが、アーティスティックの競技会を初めて見るという人も多いと思うので、ぜひ見て欲しい。アーティスティックって、こういう感じのスポーツなのだ。はつらつとしたちびっこリピンスキーも、本当にかわいい。

 この6年後に、15歳でオリンピックの金メダルである。

↑ 長野オリンピックでのタラ・リピンスキーのフリーの演技。最後にミシェル・クワンより高い点数が出て、金がほぼ決まり彼女が絶叫するところは、今見てもなんだかじわっともらい泣きしてしまう。

 この時銀メダルだったミシェル・クワンが、逆に近年インライン・スケートでの美しい演技を頻繁にSNSにアップして話題になっているのも、おもしろい。

 アイススケートとローラースケートの差は、まず靴の重さだと思う。ローラースケートの方が部品が多いので、どうしても重くなってしまう。スピンでの摩擦もローラースケートの方が大きい。だから、アイススケートの方が軽やかな演技ができて、技の難易度も上げやすい。逆に、ローラースケートはアイススケートの靴よりも地面と接する面が大きいため、安定している。その他にも、アイスのブレードにはロッカーがあるのに対して、ローラースケートにはそんなカーブがないので、同じ「足の親指の付け根に重心をのせる」という動きでも、重心の位置が微妙に違うらしい。ローラースケートのトウストップとアイスのトウピックも、使った時の感覚がかなり違う。


 最後に、あれから18年後、オリンピック委員会のインタビューに答える33歳のリピンスキー。

↑ "I Always Doubted Myself" - Tara Lipinski | The Inside Track 

「私はいつも自信がなくて、自分の能力を信じていなかった。もっと自分を信じていれば、リラックスしてプレッシャーも感じなかったかもしれない。でも、そういうナーバスな気持ちは、時にはいい方向に働く。極限のプレッシャーがある方が、良い結果を出せる人っているから。私は極限のプレッシャーの中で最高の能力を発揮することができる1人だって気づいたの。そう分かってからは、救われたような気がした」

 すっかり美しく大人の女性として成長したタラ・リピンスキー。長野に来た時は、あんなにあどけない少女っぽさを残していたのに。長野でメダルを取ったというだけで、なんだか近所の子どもが大きくなるのを見守るおばちゃんのような気持ちになってしまう。私はあの時、ボランティア・スタッフとしてIOC本部で働いていた。若い頃の忘れられない想い出の1つである。


 他にもローラースケートから転向した有名選手や、コロナでの自粛生活でインラインを始めたフィギュアスケートの有名選手なども多いので、これからたまに1人ずつ取り上げてみようと思う。

 

 ツイッターでもローラースケートについてつぶやいています。


 

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