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【読書感想】Deep Tech ディープテック 丸幸弘+尾原和啓

先日の落合陽一さんの「2030年の世界地図帳」の記事を書いたところ、かなり閲覧数が伸びています。なぜかはわかりませんが、SDGsに注目が集まっているのでしょうか?


続いて、半年前に購入していたディープテックの本を読み終わりましたので、
内容のまとめと感想を書きます。SDGsをテーマにしていることもあり、落合さんの本と共通する部分もあります。


ディープテックとはなにか?

この本の中での定義は以下です。

1.社会的インパクトが大きい
2.ラボ研究から市場に実装するまでに根本的な研究開発が必要。
3.上市までに時間を要し、相当の資本投入が必要
4.知財だけでなく、情熱、ストーリー性、知識の組み合わせおよびチームが必要という観点での参入障壁が高いもの
5.社会的もしくは環境的な地球規模の課題に着目し、その解決のあり方を変えるもの

テックという言葉が入ると、最新技術だったり、難しい技術を想像しますが、この本で強調されているのは、あくまで枯れた技術、眠っている技術、それらに他の技術を組み合わせて、その集合体をテクノロジーと捉えることです

枯れた技術というのは、すでに当たり前になっている技術や、違う技術に代替されて使われなくなってしまったものを言います。

日本のテクノロジー業界は、米中と比べてしまうと近年はイノベーティブとは言いづらいですが、多くの企業が基礎研究や技術を長期間やってきた積み重ねがあるため、枯れた技術、眠れる技術はたくさんあります。

これらの技術を使って、サステナブル(持続可能)な社会を実現するために、新興国特有の社会課題を解決したり、先進国においても見落とされていた資源の再利用などに活かすなど、可能性がたくさんあることをこの本では伝えています。

また、アメリカでは特にシリコンバレーでイノベーションを起こすための投資や企業の仕組みが整っているが、仕組み上、短期的かつスケールアウトできる「グローバルな課題」の解決にフォーカスされがちです。
しかし、東南アジアのような多数の島で構成された国では、例えば通信設備や電力共有などのインフラを整えにくい、などの特有の課題などは扱われにくいという特徴があります。

ディープテックのキーワード

Social Validity 外部不経済
急激な経済成長とともに何かしら公害が起きてしまうことは歴史上わかっています。
今急成長している国には、先進国で枯れた技術を予防的に導入していくことで、外部不経済を起こさないように最初から経済圏をを構築していくことが大事で、ここにも枯れた技術の導入価値があります。

バイプロダクト(副産物)
何かを生産、製造する際に副次的に生まれる廃棄物などを利用して別のプロダクトを作ったりすることで、資源の無駄遣いを減らしたり、新たな価値を生み出すという点でディープテックのキーワードになっています。

非中央集権的・分散型
今までは、中央集権的にインフラやシステムを構築したほうが、コスト的にもスケールアウト的にも有利でしたが、それがうまく当てはまらない例があったり、むしろ小さいシステムを多数の場所に構築したほうがフィットする事例があります。ブロックチェーンも同じような特徴がありますが、いろんな技術の集積でシステムが小型化できるようになった現代だからこそできる手法とも言えます。

サーキュラーエコノミー
生産、消費、廃棄のいずれのフェーズにおいても、リサイクルできる資源循環型の経済のこと。
SDGsと目指す方向は同じですが、製品を考える上で、川上から川下までの資源の流れを考えることが重要です。

例えば、Apple製品などでもできるだけ再生素材で生産されたり、リサイクルの仕組みが整えられています。

サステナブルPSSD(プロダクト、サービス、システム、デザイン)
サブスクがメジャーになる前の、売り切り型ビジネスメインのときは、基本的には買い替え需要を喚起することで、売上を伸ばすビジネスが大半でした。これは長期的に見ると環境負荷が高いです。

そして、最初にお金がかかる初期投資の重いものが多かったので、貧困地域に普及しにくいモデルでした。

しかし、スマホが普及し、銀行口座を持てないような地域でも決済をスマホでできるようになったことでサブスクが実現できるようになり、初期投資をなくしたり、また車の場合などは長期的に見てメンテナンスを効率的に行えるようにするなど、総合的に環境負荷を下げるようなビジネス設計が可能になりました。

面白いと思ったディープテックBest5

この本では、たくさんの実例を紹介しています。その中で面白いと思ったものを紹介します。

インドネシア、マレーシア パーム油の搾りカスを家畜飼料に。

プランテーション(大規模農園)でアブラヤシからパーム油を大量生産しているが、搾りカスが年間で540万トン排出され、メタンガスを発生させてしまっていた。この殻が非常に固くて処理しにくかったが、日本の技術を応用し、搾りカスを微細な繊維にして、インドネシアのベンチャーが開発した素材を加えることで、鳥の餌に必要な成長促進剤代わりの「マンナン」が抽出可能になったそうです。

風力発電 垂直軸型マグナス式発電機  チャレナジー

従来の風車は、風の方向に制限があったし、羽が大きく壊れやすかった。
チャレナジーの発電機は全方位の風向で使える上に、最大風速も通常より高い。
狭い場所で使えるため、離島にも向いてるので日本だけでなく東南アジアでも使える
ポイント
・風力発電なのでサステナブル
・今まで使えなかった土地でもコンパクトに使えて非中央集権的

インド  水のサブスク

現金決済が主流だったインドで、プリペイドスマホが普及し、サブスクができるようになった。
→井戸からの水くみの代わりに、水の使用量をサブスクで払うことで、初期投資を抑えて企業が井戸や水道の設備投資ができるようになった。

レキオ・パワーのジェネリック医療機器

すでに特許の切れた医療機器を安く製造し、学生向けに販売したり、新興国に展開することで、医療レベルの工場や新たな雇用創出をしている。

ユーグレナ ミドリムシの培養プールに日本の「畦塗り技術」活用でコスト減少

プールにコンクリートを使っていたが、耕運爪用の「畦塗り技術」を使うことでコンクリ不要になり、建築コストを10分の1に下げることができた。

他にもチャレナジーの風力発電を使ったり、ミドリムシから食品などを作る上で生じた残りカスを再利用して、牛や魚のエサにするなど循サーキュラー・エコノミー実現のためにいろんな取り組みをしている。

内容まとめ

SDGsの掲げるサステナブルで循環型の社会を実現するため、
先進国では価値が低くなった枯れた技術、眠れる技術を新興国のもつ特有の社会課題に応用したり、
複数のテクノロジーを組み合わせることで新たなイノベーションを起こす、
そんな可能性を秘めたものがディープテックである。

枯れた技術に価値を見出したり、課題を見つけること「好奇心」が重要である。
日本にはたくさんの眠れる技術があり、東南アジアに応用するのに絶好のポジションであるので、ディープイシューやディープテックに目を向けよう。

考察・感想

アメリカやヨーロッパ、東南アジアとの技術的なポジションの違いを説明した上で、日本の取れる戦略として、日本のもつ技術を他国に持っていって、デジタル発酵させるという感じのニュアンスで捉えられたので、先日読んだ落合さんの本とかなり似ているなと思いました。
ビジネスの状況の変化によって、先進国では見向きもされなくなった技術が、実は違う視点からスポットライトを当てたり、他地域に持っていくと課題を解決できる可能性があるというのは、本当によいと思います。

人類のナレッジという観点だと、車輪の再発明(ダブルワーク)になる可能性もあるし、すでにある技術の掛け合わせは、そもそもいろんな分野の知識がないとできませんが、無限に可能性があると思います。
VCではやっているのかもしれませんが、組み合わせを考えるための仕組みがあってもよいなと思いました。

そして、ただ単に社会課題を解決するだけではなく、副産物を応用したりすることで環境にも優しいソリューションがたくさん生まれて行けばSDGsの実現にも結びつくので、今後も注目していきたいなと思いました。
とはいえ、一般的なニュースでこのディープテックをどう見つけていけばよいのかわかりませんが、とりあえずユーグレナはめっちゃ応援しています。

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