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あなたが居なくなった齢
私がもうすぐ辿り着くはずのせかい
そこにあなたは居ない
そこにあなたは居ない
それがわかっているのに
どうして私はここに来たの
まだここにこうして生きているの

雲間から差し込む陽
揺れた木々、いつか
のぞく青空、影と交互に
すべて瞼の光景
そこで眺む想い出
腰を下ろして、いま
隣に坐るあなたの横顔
前を向いたまま
ずっと、

目で見ないほうがわかるせかいがある
歌をそらで口ずさんではじめて伝わる
響くlogosのように

いつか消えて無くなるから美しいのだと
そう言うとあなたは微笑んだ
いつものように
否定も肯定もせず
ただひとこと
私はすべて憶えていると

いまその言葉をそのまま
あなたに返そう

私も憶えてる

いつか見た景色
そこにあなたは居ない
あなたは美しいから
私が美しいと想う
そのすべてに遍在して
いまもそこに息衝いているのだ
私はそのすべてに触れて
ふたたび、この私の身体に吸い込んで
取り込んでひとつに
そうして私のなかで
もう一度あなたと出逢う
だから瞼の裏側で
こうしてまたあなたと相対す
その喜びと切なさを味わって
憶えるのは愛しさ、いつだって
この瞬きを噛み締めるために
私はまた生まれてきたのだ
この甘苦を知るために 

それはあなたが基の煌めき

それでもやはり世界は美しい
そうこの世へ贈る讃歌
ここに生まれくる有限のすべてを言祝ぐ残花
このくちびるは歌う
それでもあなたは美しい
そう口にして
あなたに伝えたいから


📷
https://unsplash.com/ja/%E5%86%99%E7%9C%9F/eriuKJwcdjI

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