【小説】三十路 meats God(ある神との対話)

「誕生日おめでとう。今日で君は30歳だ」

1月6日を迎えた瞬間に、ベッドで寝ていた俺は光に包まれて強制的に目覚めさせられ、あまつさえ見ないようにしていた現実を突きつけてくるその声に、俺は強い遺憾の意を示した。具体的には眉に皺を寄せた。

「30だ。三十路だ。中年まであと」
「うるせぇ!」

俺は一喝した。神だろうが超常的な存在だろうが、人の年齢をイジる奴に遠慮なんてするものか。

「そもそも何のために起こしやがった! 非常識な!」
「その歳で彼女の一人もいないお前に警鐘を鳴らしにやってきたのだよ。なんだ。これまで見てみればオタク趣味、ゲーム、挙げ句小説に嵌まって有限な時間を湯水の如く」
「お前は俺のおかんか!」
「……反省の色がないな」

何を反省するというのだろうか。そもそも、たまに興味が乗ったことのある程度の分野で成果を出せなかったことを反省したところで、成長などあるまいに。

「お前の身を案じる立場にでもなってみろ」
「悪ぅございましたね。ウチの家系は無事妹が引き継いでくださるはずなので、どうぞご安心を」
「お前自身の幸せを言っているのだが?」

神らしき厳かな声を聞いてしばし逡巡する。
今は令和の時代。結婚だけが人生の幸せと定義するのは如何なるものか。

「そりゃ機会があれば俺だって」
「ふん、その努力すらしていない奴と結婚したがる女子がいるというのか?」
「黙らっしゃあせぇ!!!」

大声を上げた。深夜なのに。

「必要になればマチアプだろうが相談所だろうが行くわ! そのタイミングは俺が決める!」
「だが30だ」

神らしき存在の決め台詞はそれのようだった。終始煽りに徹している。
俺は臨界点を超えた。


「未来はここの空間のように真っ白だ。どのようにも描けるということさ。俺が選択してきた選択肢は確かに狭かったかもしれない。でもその中で得た学び、喜び、悲しみを持ってこれから先に立ち向かうしかねぇんだって! わざわざ起こして説教するレベルがギリギリなら、時を戻すことなんか出来ないんだろう? 過去を悔いたって仕方ねぇじゃねぇか。俺の未来のお嫁さんは今どこかでいい子にしておねんねしてんだわ! 見たことも無いけど分かるんだわ! そりゃなんかの手違いで一生会わないことがあるかもしれねぇけど、それはそれじゃねぇか! 縁結ぶ方に俺を後押ししやがれ!」

弾丸で論破してしまった。
俺の絶叫を聞くと満足したのか、すぅっと空間が静かな寝室に戻った。

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