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どんな考えが、自分を殺すのか?

平野啓一郎氏の小説『空白を満たしなさい』を読んだ。

6月にNHKの土曜ドラマにもなるという。

2012年に書かれた小説で,「私とは何か」で詳しく触れられる「分人主義」が物語のキーとして登場する。上下巻があるが、サスペンス仕立てで先が気になるので、あっという間に読み切ってしまった。今回は。

実は、読もうと思ったのはこれが初めてではない。しかし、前回は上巻の後半あたりまで読んだところで読むのを辞めてしまった。

読もうとしたタイミングが、ちょうど出産前後の忙しい時期だったのでとても小説を読めない状態だったのもある。だけど正直に言えば、主人公に共感できなかったことが大きい。作中で主人公が嫌っている佐伯の方にどちらかというと共感してしまう。爽やかすぎる主人公の潔癖さ、悪い意味での無邪気さに共感するのが難しかったのも、積極的に読み進められなかった理由として大きい(佐伯には、共感しそうで共感できないように緻密に計算した描写がされているから、作者の意図している読み方ではないと思う)。

ただ、主人公は自殺した人間である、というところがうっすらと気になったままだった。

ちなみに、その「共感できないポイント」については下巻でしっかり回収されるので、同じように感じて読めなくなる人がいたら、いつか良いタイミングが来たら下巻まで読んでみてほしい。一気読みして、ラストは素直に泣いてしまった。

多かれ少なかれ、自ら死ぬということが頭をよぎったことは多くの人にあると思う。私は人より少し頻度が多いんじゃないか、と思っていたけど、わざわざそんな話は口にしないし、アンケート調査にも正確に表れないだろうから確認のしようがない。子どもを産んでから日々に忙殺されて思い詰めるようなことは無くなったけど、色々すっ飛ばして行動に移そうとした事は、無いとは言えない。実際には、力も弱いし根性もないのでちょっと怪我するくらいだと思うけど。

そういうことを、「自分は不良品だからだ」と捉えて深くは考えなかった。若い頃に心療内科に通ったこともあるけど、「うつ病とは言い切れず、うつ状態」という診断だった。病気ではないなら、治しようがないので受け入れるしかない。医師は簡単に「休め」と言うが、病気じゃなかったら仕事も休めない。日常をそのまま続けながら、工夫してどうにかするしかないので、どうにかしてきた。

だけど、この小説を読んで、自分を消そうとしている犯人(というか、消したいターゲット?)を突き止めたくなった。今は健康なので、ズケズケと自分の心を覗き込み色々と考えてみたところ、少しは糸口が見えた。犯人というほど「分人」が明らかになったわけではないけど、自分が追い詰められる時の考え方が少し見えてきた気がする。

それは「月30万円の呪い」かもしれない。
私には、「最低でも月30万円は稼ぎ続けないと私は存在してはならない」という呪いがかかっているようだ。30万円なんて、お金持ちにとっては端金だと思うけど、特に何のスキルもないところから地を這うように働いている身なので、結構重めの金額だ。10年後も、30年後も、50年後も稼げるのか?自信はない。

稼ぎ続けないと、居られる場所がない。帰れるような実家もないし、代々受け継ぐような資産も何もない。働いてお金を生み出し続けている間だけ、人並みの価値があると認められ、存在していることが許されるという感覚がある。

生まれのコンプレックスとか、見た目のコンプレックス、過剰に働きすぎて体調を崩すこと、全てがそこに起因するような気がしている。帰る実家がある人、稼がなくても余裕で生きていける人がすごく羨ましかったりしていたこととも関係がある。

分人主義について、しっかり理解できてる気がしないけど、そういう考えに捉われる時の分人がなにか関係しているのかもしれない。

対策はよく分からないけど、犯人があの辺にいそう、というのが分かってきただけでだいぶスッキリした。資産形成も考えて、現実的な対策をとる。そして、収入と自分の価値を切り離して、「面白そう」というだけでいろんな行動をしていろんな人間関係を築いて、わざと、突拍子もない分人を色々生み出していく。

まだ生きてるうちに、そういうことを色々試してやっていこう。


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