アクセシビリティの不足したソフトウェアへの新しい対処方法

この記事は、アクセシビリティAdventカレンダー19日目の記事です。

2015年から、WebアクセシビリティAdventカレンダーに参加していますが、今年は出遅れてしまいました。
もう一個カレンダーがあって良かったです!

私は、視覚障害の方がパソコンやスマホなどをスクリーンリーダーで使えるようになるための、お手伝いをしています。具体的には、NVDA日本語チームへの参加をしてスクリーンリーダーNVDAを日本で使えるように一部Webページの翻訳をする、時々イベントに参加する、NVDAヘルプデスクに参加して時々NVDAについての質問に答える、などです。
2018年から、個人的に質問に答えたり、新しい機器やソフトウェアのスクリーンリーダーでの使い方を調べて紹介をしたりもしています。

視覚障害の方が、スクリーンリーダーでパソコンやスマホを使えるかどうかには、様々な要素がからみあいます。最初に、スクリーンリーダーでそれらを使えるという情報をどこかから得ること。次に、スクリーンリーダーでの使い方を習得すること。そして、スクリーンリーダーで使いやすいソフトを見つけること、使いやすくなくても使い方を模索すること、使いやすくないソフトについて開発元に改善を依頼すること、使えるソフトがなければ自分で作ることも検討すること。さらに、スクリーンリーダーで使えないソフトを、いかにして他の手段や可能な周囲の助けを得て使うかです。

これら4つで、何か出来ることがないかと、日々、模索しています。
日々模索していますが、本当はこういう模索が必要でないように、アクセシビリティの確保されたソフトウェアで、世の中があふれてほしいと思っています。

今日は、上記の中の、使いやすくなくても使い方を模索すること、周囲の助けを得ることに含まれると思います。

スクリーンリーダーで使いづらいソフトにはいろいろあります。画面上にあるボタンなどの要素にキーボードでたどり着けない物は最も使いにくいです。また、要素にたどり着けても、その要素について「ボタン」であることしか情報が得られず、何のためのボタンなのかわからない物もあります。要素にたどりつけても、キーボードで押すことが出来ず、マウスカーソルで押す必要があることもあります(これはNVDAでは、マウスカーソルを読み上げでレビューしている要素に移動しクリックするという操作で、行なえる場合があります。)。

例えば音楽ソフトにて、全く読み上げがなく、画面内の要素へキーボードで全く移動出来ない場合でも、検索エディット、曲表示ボタン、曲リストの1曲目、再生ボタン、一時停止ボタン、次の曲ボタン、前の曲ボタンが、常に画面に対して、同じ位置に表示される物があるとします(実在します)。

NVDAには、Golden Cursorという、マウスカーソルの位置を記憶出来るアドオンがあります。2016年頃から開発版が出始めた、新しい物です。
このアドオンを使ってみましょう。アドオンはインストールして有効にしてあるとします。

まず、使いたいソフトを起動します。要素位置が常に同じになるように、ウィンドウは最大化しておきます。検索エディットの位置にマウスカーソルを移動します。ショートカットキーShift+NVDA+Lを押します。すると、Save mouse positionというダイアログが出て、英語で、このマウス位置のラベルを入力して下さいと出ます。検索エディットと入力しましょう。なお、操作「検索エディットの位置にマウスカーソルを移動する」は、目が見える人が行なう必要があります。マウス位置は、使用しているソフトについて記録されます。

こうしておくと、目が見えない人がソフトを使いたい時は、Ctrl+NVDA+Lを押すと、mouse positionsというダイアログが出て、マウス位置のリストから、検索エディットを選択出来ます。エンターすると、記録した場所へ、マウスカーソルが移動します。そして、ショートカットキーNVDA+[(またはテンキーの/)を押すと、マウスカーソルでのクリックが出来ます。そして、検索エディットの編集が出来るようになり、曲名やアーティスト名での検索が可能になります。

同じように、曲表示ボタン、1曲目表示位置、再生ボタン、一時停止ボタン、次の曲ボタン、前の曲ボタンのマウスカーソルの位置を、目が見える人が記憶させておき、見えない人が使う時は、それらを呼び出します。
Golden Cursorアドオンの便利さには、さらに先があります。実は記憶したマウスカーソルの位置データは、

ユーザー名\Appdata\Roaming\nvda\addons\goldenCursor\mousePotisions

に保存された、アプリ名をファイル名とした、拡張子.gcのテキストデータです。
中身はこんな感じです(数字は架空です)。

検索エディット = "31,34"
再生ボタン = "88,38"
前の曲 = "146,34"
次の曲 = "192,34"

このマウス位置のデータは、解像度が同じパソコンで共通して使えます。同じソフトであれば、パソコンから他のパソコンへ、マウス位置データの移動だけで、他のパソコンでもマウス位置呼び出しが使えるようになります。ソフト名は、例えばnotepadに対しては、notepad.gcとなります。

つまり、自分の使っているパソコンと同じ解像度について、必要なソフトについて、Golden Cursorのマウスカーソル位置データが用意されていれば、それを使って行ないたい操作が出来る可能性があります。見える誰かにその場に来てもらって、.gcデータを記録してもらうのは、なかなか大変だと思いますので。

このように、目が見えない人は、使いたいソフトについて、様々な方策を駆使して使おうとしていますし、実際に使っています。以前のWebアクセシビリティAdventカレンダーでは、SkypeやTeam Viewerで誰かに代わりに見てもらいながら使う方法などもご紹介しました。これらの様々な方策を行うのは、なかなか大変ですし、使える範囲には制限がありますし、アクセシビリティの確保されたソフトウェアでは、不必要な物です。
世の中のあらゆるソフトウェアのアクセシビリティが確保されることを願っています。

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